Futures&Options

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- Copyright © 2003, 2009 The Institute for Financial Markets 2001 Pennsylvania Avenue NW | Suite 600 Washington DC 200006 www.theIFM.org Secong Printing, March 2011
The Institute for Financial Markets, ©2009, Futures and Options, pp. [1 ~ 10,15 ~ 28,33 ~ 44,49 ~ 60,65 ~ 68,73 ~ 88,97 ~ 108,113 ~ 120,171 ~ 176] Institute for Financial Markets
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- はしがき
1970 年代以降、外国為替市場における変動相場制への移行、為替レート、金利変動の激 化および投資理論の発達などを背景に、米国をはじめ世界の主要国において通貨、金利、株 価指数等の金融商品に係るデリバティブ取引が急速に広まり、取引規模を拡大させていった。 各国では、これらの動きに合わせて法整備等が進み、本邦においても 1988 年 5 月には 「金融先物取引法」が公布され、翌 1989 年 3 月から施行された。同法は、 「金融先物取引 所」の開設する市場において行われる通貨、金融指標等に係る先物・オプション取引(海外 市場における類似の取引を含む。 )を規制の対象としてスタートし、複数回の改廃を経て、 その規制範囲を拡大していった。 一方、1998 年 6 月には日本における金融ビックバンを推進する「金融システム改革のた めの関係法律の整備に関する法律」 (金融システム改革法)が成立し、これを受けて「金融 先物取引法」の改正も行われた。当該改正においては、デリバティブ取引の多様化に対応す べく、同法における規制対象取引の市場集中義務を緩和することとし、その一部の取引につ いては、銀行、証券会社その他の政令で定める者(金融先物取引所の会員等に限る。 )が取 引の一方の当事者となって、取引所で行われる相場取引に限り、取引所外の店頭取引を行う ことが認められることとなった。これを機に金利スワップ取引や通貨オプション取引等の店 頭デリバティブ取引の取引量は拡大し、本邦におけるデリバティブ取引の中心となっていっ た。 「金融先物取引」を所管する認定金融商品取引業協会である「一般社団法人金融先物取引 業協会」 (以下、 「金融先物取引業協会」という。 )においては、冊子『金融先物取引の知 識』を長年協会で編集し、取引所先物取引を中心に知識の普及に努めてきたが、近年の金融 先物商品の多様化を受け、さらに “ より網羅的な金融先物取引に関する書籍 ” を探していた ところ、IFM が米国において実施している先物取引外務員資格試験「Series 3」向けの教本 として長年親しまれている『Futures and Options』に巡り合った。 IFM(The Institute for Financial Markets) は、 先 物 取 引 の 世 界 的 な 機 構 で あ る FIA (Futures Industry Association)の傘下団体であり、投資教育の専門機関である。この教本 の日本語版への翻訳および電子書籍化の許可をお願いするにあたっては、本協会の後藤前専 務理事の多大なるご尽力を賜った。 そもそも、取引所デリバティブ取引のような標準化された商品とは異なり、店頭デリバ ティブ取引は容易にカスタムメイドが可能な商品であり、その中には、かなり複雑な商品も 販売されている。しかし、その複雑なデリバティブ商品を理解するためには、まず通常のデ リバティブ、いわゆるプレーン・バニラのような基礎的なデリバティブ取引というものが、 どのような仕組みか、どのような効果をもたらすのか、などを知ることが重要であると考え i
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- ている。特に、米国においては、投資家や金融機関等の職員などデリバティブ取引業務に携 わる者が、基礎的な知識を習得しようとする場合には、取引所デリバティブ取引関係から始 めることが、非常にオーソドックスな知識習得方法であると考えられており、この『Futures and Options』では主に取引所デリバティブ取引関係をベースに作成されている。 日本語訳版の『Futures and Options』について、簡単に補足説明をする。 本書は、全9章で構成されている。 第 1 章「先物・オプション市場」では、先物市場の歴史や先物契約とは何か、先物取引 の取引高および未決済建玉の仕組み、先物市場における必須条件や先物取引とオプション取 引の活用方法等について記載されており、習得後の成果としては、先物市場が経済的な必要 性から生じたことを説明すること、先物と他の投資商品とを比較すること、近代経済社会に おける先物市場の役割を説明することができるようになることを目指している。 第 2 章「先物取引関連機関および専門業者」では、米国先物取引所の発展、現代の先物 取引所、清算機関または清算機構、実際の受渡しおよび差金決済、商品取引員およびイント ロデューシング・ブローカー、商品投資顧問および商品プール・オペレーターについて記載 されており、習得後の成果としては、先物取引所の仕組みについて説明すること、先物の財 務的健全性から清算機関(クリアリングハウス)が果たす役割を特定することや顧客への対 応から先物専門業者の役割を列挙することができるようになることを目指している。 第 3 章「会計、証拠金およびレバレッジ」では、建玉について、損益の計算方法、先物 口座の評価方法、手数料、口座報告書、証拠金について記載されており、習得後の成果とし ては、先物損益をたどるための基礎的な計算をすること、先物に対する資本要件(証拠金) の背景にある原則を説明することや SPAN 証拠金賦課の背景にある基礎的なプロセスを説明 することができるようになることを目指している。 第4章「先物を取引する」では、先物価格表を読むこと、商品および月識別記号、日次値 幅制限、買い手と売り手の出合い、注文指示事項および発注、先物取引注文の種類について 記載しており、習得後の成果としては、先物取引の価格および他の日時統計を解釈すること、 先物注文に含まれるであろう情報を列挙することやさまざまな先物注文およびトレーダーに よるそれらの用途を説明することができるようになることを目指している。 第5章「先物スプレッド」では、スプレッドとは何か、先物スプレッドの種類、スプレッ ド注文について記載されており、習得後の成果としては、スプレッドの性格を「相対価値」 ポジションとして説明すること、4種類の先物スプレッドを識別することやスプレッドの ビッドおよびオファーを説明することができるようになることを目指している。 第6章「先物オプション取引」では、先物オプション、先物取引とオプション取引、オプ ションの権利行使と本源的価値、オプションの価格表、オプションのスプレッド取引、理論 価格、手仕舞いと権利行使について記載されており、習得後の成果としては、リスク管理商 ii
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- 品としての先物取引とオプション取引を比較すること、オプションを体系的に理解すること、 オプション価格の決定要因や、それらがオプション価格にいかに影響を与えるかを説明する ことができるようになることを目指している。 第7章「先物・オプションを使ったヘッジ」では、基本概念、先物を使ったヘッジの例、 異時点間の価格関係、ベーシスおよびヘッジ取引、EFP、クロス・ヘッジ取引、先物オプ ションを使ったヘッジ取引について記載されており、習得後の成果としては、ヘッジの背景 にある基本原則を特定すること、さまざまな現物と先物価格の関連性を説明すること、ヘッ ジャーにとってベーシスがいかに重要であるかを説明することができるようになることを目 指している。 第8章「金利先物・オプション」では、金利商品の現物市場、金利先物取引、金利先物オ プションを使ったヘッジについて記載されており、習得後の成果としては、先物契約が取引 される主要金融市場について説明すること、金利先物に適用される基本的なヘッジ概念につ いて例や図表を使って説明すること、金利先物に適用される差金決済とマーケット・バス ケット方式(適格銘柄)による受渡しの概念の関係を説明することができるようになること を目指している。 第9章「通貨先物・オプション」では、外国為替市場、為替レート、通貨先物および先物 オプション、通貨先物によるヘッジについて記載されており、習得後の成果としては、通貨 先物の基本的な先物価格決定モデルを説明すること、通貨先物取引についてのヘッジの基本 的な概念を説明すること、通貨先物およびオプション市場の対象となる主要な契約を挙げる ことができるようになることを目指している。 なお、 『Futures and Options』には、金融先物取引業協会が所管する金利および通貨以外 の有価証券、コモディティや農産物先物取引に関する記載もあるが、今回の翻訳の対象外と したため、原著である『Futures and Options』の章と翻訳本の章にずれが生じている。 また、原著である『Futures and Options』が 2009 年に出版されていることから、日進 月歩の取引所取引の現在の姿を正確に投影したものでないことにもご留意いただければと思 う。 この『Futures and Options』は、経済的なデリバティブの意義・機能にとどまらず、取 引の仕組みや契約をどのように確実に履行するかという点(証拠金制度、クリアリングハウ ス等)にも言及しており、デリバティブ取引に関心を持っている投資家にとっては「投資の 入門書」として、また、すでにデリバティブ取引に従事する者にとっては「基礎知識を確認 する参考書」としてご活用いただければ幸いである。 最後に、 『Futures and Options』の日本語訳版にご賛同いただいた、監訳者である東京大 学の神作裕之教授をはじめ、筑波大学の弥永真生教授、木村真生子教授、学習院大学の勝尾 iii
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- 裕子教授、吉田知生客員教授には、2014 年 7 月より開催した「学術連携翻訳プロジェクト チーム」にご参加いただくとともに、専門的な見地から多大なご指導とお力添えをいただい た。また、弥永教授には第 3 章の翻訳もご担当いただくなど、大変お世話になった。関係 者の皆様に、この場を借りて御礼申し上げたい。
一般社団法人 金融先物取引業協会 専務理事 細見 真
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- 翻訳関係者一覧
神作裕之(東京大学大学院法学政治学研究科教授) 弥永真生(筑波大学ビジネスサイエンス系教授) 木村真生子(筑波大学大学院ビジネス科学研究科教授) 吉田知生(一般社団法人金融先物取引業協会 元監事、学習院大学経済学部特別客員教授) 後藤敬三(一般社団法人金融先物取引業協会 元専務理事) 宮崎雅雄(一般社団法人金融先物取引業協会 元調査部長) 一般社団法人金融先物取引業協会 事務局
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- 凡例
◦本書は『Futures and Options』の 2009 年改訂版を、一般社団法人金融先物取引業協 会翻訳会において日本語に訳したものである。 ◦各章に翻訳者を記載し、監訳者については、 「監訳者一覧」に記載した。 ◦固有名詞等の明らかな誤りは修正したが、単位等その他については原書通りとした。 ◦翻訳者が付記したものについては、 「FFAJ 補完」と明記した。 (注) 本書は 2009 年に改訂されているが、現在の先物取引市場に関するものと必ずしも一致す るものではない。 なお、本書は近い将来改訂が予定されている。
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- Contents
はしがき
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翻訳関係者一覧 凡例
Chapter 1
第1章
Introduction: Futures and Options Markets
先物・オプション市場
1
Chapter 2
第2章
Futures Industry Institutions and Professionals
先物業界機関および専門業者
Accounting, Margin and Leverage
16
Chapter 3
第3章
会計、証拠金およびレバレッジ
Trading Futures
38
Chapter 4
第4章
先物を取引する
Futures Spreads
58
Chapter 5
第5章
先物スプレッド
Options on Futures
80
Chapter 6
第6章
先物オプション取引
Hedging with Futures and Options
88
Chapter 7
第7章
先物・オプションを使ったヘッジ
Interest Rate Futures and Options
116
Chapter 8
第8章
金利先物・オプション 通貨先物・オプション
138 150 160
vii
Chapter 9
第9章
Foreign Exchange Futures and Options
謝辞
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- FUTURES & OPTIONS
第1章 先物・オプション市場
◦ 一般社団法人金融先物取引業協会 元専務理事 後藤敬三
この章を読み終えると、以下のことができるようになる。 ◦先物市場が経済的な必要性から生じたことを説明する ◦先物と他の投資商品とを比較する ◦近代経済社会における先物市場の役割を説明する
前書
組織的な市場が登場して以来、商品や資産の価格リスクにどう対処すべきかは経済活動に 携わる者の大きな課題である。中世の商家や貿易商は、今日の生産者、卸・小売や投資家と 同じ問題に直面した。つまり、皆が時間の経過に伴う価格の不確実性を管理する手法を見出 さなければならなかったのである。 その対応策とは、何世紀もの間、個人間で特別な契約による取決めを行うことであった。 しかし、市場が発展するに従って、組織化された先物取引所が、リスク管理における重要な 手段として開設されるようになった。今日では、先物市場が効率化されたことにより、農家、 貿易商社、製造業者、証券業者、銀行業者、流通業者、そして多くの者が価格リスクを管理 1
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- できるようになっている。また、これと同時に、先物市場では投機家(スペキュレーター。 以下、 「スペキュレーター」という。 )も投資家も価格発見過程に参入できるようになり、市 場全体をより効率的にしている。 近代の先物市場は、農業を主体とした経済のリスクマネジメントの必要性から発展してき たものである。その仕組みは、きわめて効果的かつ柔軟であり、銅等の工業原料や、石油、 天然ガス、電力に至るまで発展し、変貌する経済に対してもすぐに順応できることを証明し た。ここ数十年の間に、この先物取引モデルは金融の原材料である金利、外国為替、株式価 値などにも応用されてきた。 本書では、先物市場と先物オプション市場における基本的な知識(市場とは何か、どうい う仕組みなのか、誰が利用するのか、その動機は何か)について、総合的に紹介する。
先物市場の発展
商品の価格変動リスクに対する最初の試みは「未着品取引契約」であった。これは、売買 当事者間において相対で、商品到着時に完了する売買条件をあらかじめ取り決めるものであ る。到着渡しベースの売買契約は、すでに 1780 年代にはリバプールの綿花取引で行われて いた。 米国においては、商品の売り手、買い手が路上で取引しあうことから始まったが、取引量 が増大するにつれて、永続的な中央市場が必要になってきた。1848 年には、シカゴ商品取 引所(CBOT:Chicago Board of Trade.以下、 「CBOT」という。 )が米国史上初の組織化さ れた商品取引市場となった。未着品取引契約は重要なイノベーションであったが、先物取引 が商品の売買面でも、ヘッジ面でも取引面でも有効な手段となるにはいくつかの取引実務の 追加的な変更が必要であった。
適切さを欠く(商品の)保管
売り手と買い手の関係は、ビジネス上の信頼関係で成り立つ。すなわち、買い手は売り手 の約定商品の引渡しを信頼し、売り手は買い手の支払いを信頼しなければならない。倉庫容 量の増大は、未決済契約に見合う十分な供給があることを保証することになった。商品の倉 庫保管の取扱い上の毀損や不正といった他の問題については、品質管理システムの組織体制 の発展が不可欠となった。今日では、保管商品の適正な取扱いに関する法規制に加えて、取 引所は引渡しができる保管倉庫に対する免許制度や検査体制を整備している。
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- 第1章 先物・オプション市場
品質の標準化
さまざまな地域で栽培・生産される商品は、単位当りの重量やその他の重要な特性によっ て広く等級が変わるため、現物を見ないで行う取引を思いとどまらせる。しかし、19 世紀 中葉を通じて、CBOT が穀物の等級や検量・測量についての基準を導入したことによって、 今日の先物取引の中心部分をなす受渡可能等級として標準化に発展した。後述するように、 農産物を背景に発展した標準化の原則は、エネルギー製品や金融商品を含め、現代の先物契 約の原資産品目にも幅広く採り入れられた。
支払条件の変化
支払条件が多岐にわたることから、商品取引所はすべての支払条件を代金引換払いとした。 さらに、先物取引所でのすべての取引は、取引所の定めた財務基準に合致する取引所会員に より決済、つまり記帳されなければならない。
価格伝播
価格情報の集中する場所がなかったため、取引者は、自分たちが最良のオファー価格や最 良のビッド価格で売買をしているのかどうかに確信がもてなかった。そのうえ、未着品取引 は私的な契約であるため、他の同種の取引情報を実勢価格として参考になるとは限らなかっ た。そこで商品取引所は、正確で迅速な価格配信の必要性から、次の2つの方法で対処した。 1つ目は、立会取引であろうと電子取引であろうと、すべての取引を同一の場所で行わせる ことである。そこでは、買い手・売り手の間で競争的なビッドとオファーが伝達される。2 つ目は、約定された全取引情報を、迅速にかつ広範囲に公表させることだった。
転売の問題
スペキュレーターのほとんどは、先物契約の売買に際して、現物の受渡しに関心がない。 同様に、価格の逆行に対し先物の売買を行うことで損失を防ごうとするヘッジ目的行為者 (ヘッジャー)も、商品や金融商品の定められた等級、品質について、常に関心をもってい るということはない。つまり、ほとんどのヘッジャーの目的はリスク移転であって、原資産 の受渡しではない。したがって、すべての取引参加者にとって先物取引ができる限り容易に 売買できなければならない。 その方法の1つが反対売買を認めること、つまり、既存の買建玉を決済するための転売や、 売建玉の買戻しを認めることである。清算機関(クリアリングハウス)の発達によって、買 い手(ロング・ポジションの所有者)は、買建て時の相手方(売り手)に限らず、先物市場 におけるどの買い手に対しても転売できるようになり、建玉決済することもできるように 3
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- なった。清算機関は、先物取引所における最も重要なイノベーションの1つである。なぜな ら、清算機関の存在は、もし清算機関が存在しないと安価な取引コストで流動性の高い市場 を維持することを阻止しかねない多くの問題を未然に解決している。清算機関の機能につい ては、第2章で詳しく説明する。
保証された契約履行
取引市場の活発化には、売り手と買い手双方の信頼感が欠かせない。どの取引の相手方と でも契約履行ができることを事前に、各市場参加者がわかっていなければならない。これは 特に契約に際して、買い手が実際の売り手の素性を知ることがほとんどない先物取引に当て はまる。さらに、これは清算機関のもう1つの機能であり、清算機関は元帳管理者および保 証者としての役割を通じて、すべての先物契約における財務の健全性を保証することで清算 された各取引の金融仲介機関の役割を果たしている。
取引慣行の標準化
運営方法や公認の取引手続を詳細に定める公開された取引所規則のもとで、すべての先物 取引は標準化された契約内容で行われる。その取引規則には2つの役割がある。それは市場 の効率的機能を担う本質的役割、もう一つは欺瞞的行為を禁止することによって取引リスク の軽減を図ることである。
先物契約とは何か
先物契約とは2当事者間の合意であり、一定の量および等級のコモディティ、有価証券、 通貨、指標その他の特定物を合意された価格で、将来の一定の時期以前に一方が買い他方が 売る契約である。 先物取引には、以下の重要な特徴がある。 ◦買い手(ロング)は引渡しを受ける。 ◦売り手(ショート)は引渡しを行う。 ◦先物契約は、反対売買で消滅される。反対売買は契約が交わされた取引所で契約の満了 前はいつでも執行されるからである。 ◦先物契約は、取引所が定めた契約の仕様に従い、現物の受渡しまたは差金決済により清 算できる。 ◦同じまたは同様な商品の先物取引については、複数の取引所で取引できる。
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- 第1章 先物・オプション市場
先物契約の条件は、取引される取引所によって標準化されている。すなわち、先物契約に は以下の要素が規定されているのである。 ◦原資産、もしくはスポット商品(受渡供用品) :先物契約の対象となる原資産は、コモ ディティ、有価証券、通貨または指標である。スポット商品は、別名実物商品、現物商 品、現金商品と呼ばれ、略称は、実物、現物、または、現金である。 ◦契約単位:契約される原資産の量 ◦決済手続:原資産の受渡しまたは差金決済のいずれかである、原資産受渡しの場合には、 受渡しの場所(複数可)およびその他具体的な要件で評価する(差金決済では、取引期 間の最終日に、すべての建玉を特定の現物市場価格で評価する。差金決済については第 2章を参照) 。 ◦受渡期日(満期日) :買い手から売り手への支払い、および、売り手から買い手への引 渡しが契約上義務づけられている日、または差金決済が行われるべき日。 ◦契約における等級または品質:契約で定められた等級よりも高い品質や低い品質のもの を割増、または割引によって引渡しを認める場合がある。 先物契約は、取引所により定められたいずれの限月においても取引ができ、5年以上先の 取引が可能な場合もある。しかし、長期の限月をはじめとして、全限月が同水準の取引高を もつわけではなく、歴史的に見ると、特定限月の取引高が最大となっている。多くの新聞が 先物価格の相場表を掲載しているので、取引されている限月および中心限月は一目でわかる。 差金決済されず、取引最終日まで保持された建玉については、現物の受渡しが行われるこ とを覚えておくことが重要である。買い手であれば、受渡可能等級の現物が契約成立と同時 に提供された場合には、好むと好まざるとにかかわらず、その地点でその現物を受け入れな ければならない。 穀物、綿花、コーヒー、金属などの多くの現物商品については、検査され受渡しの承認を 受けた商品の在庫データを、当該商品の取引を行う取引所から入手できる。受渡しの適所に 置かれ検査されたこれらの在庫は、一般的に「確証在庫」 (“certificated stock”)と呼ばれる。 特定の商品の確証在庫高の前日比が大きければ、市場はすぐに反応する。 いくつかの先物取引の独特な特徴を明らかにするためには、先渡取引と先物取引や株式取 引を比較して、その主な違いに注意するのがよい。
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- 先渡取引と先物取引
先渡契約(または「先渡し」 )とは、2当事者間での商品または資産を、将来の一定時点 に、一定価格で受渡しを行う合意である。一般的に農家と穀物貯蔵施設、2金融機関、また は銀行と顧客間で結ばれる契約である。先渡契約の条件交渉は、取引のつど行われる。その 条件には、受渡日、等級、商品・資産の所在地、受渡場所、信用供与条件、デフォルトの場 合の処理条件などがある。先渡取引では、契約当事者の意図に仕様を合わせることができる ため、実際の受渡しをする当事者にとって特に有効的であるが、一方その費用は高くなる場 合もある。 先渡契約と先物契約を区別する2つの最も重要な特性は以下のとおりである。 ◦先渡取引は、取引所では取引されない。その結果として、反対売買による決済も容易に は行えない。 ◦先渡取引は、一元的な清算機関によって契約執行が保証されるものではない。清算機関 が存在しないので、先渡契約の各当事者の信用度は、それぞれ他の当事者によって考慮 される必要がある。そのため、一般的に先渡取引を利用できるのは「優良な者」または 「世間に知られた者」となる。
株式取引と先物取引
先物契約と株式の主な違いは以下のとおりである。 ◦先物市場は、リスク移転と価格発見(プライス・ディスカバリー)を円滑にするために 存在する。他方、証券市場の主要な目的は、資本形成を支援することにある。 ◦先物取引においては、買建玉に見合って売建玉が存在する。先物市場においては、買建 玉よりも売建玉をもつことの方がむずかしいということはない。なぜなら株式の空売り とは異なり、直前の出来値上昇も借株のための在庫も必要なく、売建て期間内の配当金 の支払いも生じない。 ◦個々の先物契約には期限があるが、ほとんどの株式には満期がない。 ◦先物の建玉(ポジション)を維持するために差し入れられる証拠金は、契約上の義務履 行を確実にするための保証金である。株式の買付けの場合の証拠金は頭金のようなもの で、買付けコストの証拠金を上回る部分は有利子で借入れできる(先物取引の証拠金に ついては第3章を参照。 ) 。 ◦多くの先物市場には、値幅制限(価格制限)や建玉制限が存在する。値幅制限は1取引 日における先物もしくは関連したオプションの取引値幅の最大幅であり、建玉制限はあ る市場参加者が市場全体において保有できる建玉の最大値である。個別株には取引値幅 6
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- 第1章 先物・オプション市場
および保有量の制限がないのが一般的である。ただし、株式指数についてはこの限りで はない。 ◦ある発行体の発行済株式数は、どの時点でも決まっているが、先物または先物オプショ ン取引の建玉(後述する未決済建玉(オープン・インタレスト:open interest) )につ いては、どの時点でもそのような制限はない。 ◦株式の場合には、顧客はブローカーに株券の引渡しを求めることができるが、先物また は先物オプションには、所有証書はない。先物のポジションの文書記録としては、先物 取引の取次を行ったブローカーの発行する取引証明書があるのみである。 ◦オープン・アウトクライ方式による先物市場においては、顧客注文の取次および自己取 引を行う取引員が立会場で最良価格を競い合う。電子化されていない市場の多くはスペ シャリスト制(マーケット・メイカー制)を採っており、銘柄ごとに一個人が秩序ある 市場の担い手となっている。両者の権利や義務は異なっており、こうした事情から取引 価格に影響が生ずるときがある。 ◦米国における先物および先物オプション取引は、米商品先物取引委員会(CFTC:Commodity Futures Trading Commission) 、先物取引所および全米先物協会(NFA:National Futures Association)により規制されており、 証券取引は米国証券取引委員会(SEC : Securities and Exchange Commission) 、株式取引所、州規制当局および金融取引業規 制機構(FINRA:Financial Industry Regulatory Authority)により規制されている。
先物取引の取引高および未決済建玉(オープン・インタレスト)
市場ごとの毎日の取引高と未決済建玉(オープン・インタレスト)は、アナリストたちが 考慮しなければならない重要事項となっている。これらの数値は各市場の清算機関が取引員 より提出された取引データを基に毎日作成し、公表している。 取引高は、取引時間内の売付けまたは買付けの合計であり、売買を合算したものではない。 約定された契約には、売り手と買い手がそれぞれ存在するため、清算不能によるズレを取引 所もしくは清算機関で解決すれば、毎日の売り買いの合計は等しくなるはずである(清算不 能とは、買いもしくは売り注文を清算機関で一致させられないことをいう。 ) 。たとえば、B 氏が2月限の灯油先物を1枚買い、S氏が2月限の灯油先物を1枚売った場合、取引高は1 枚であり、2枚ではない。 未決済建玉とは、1市場での取引時間の終了時に、反対取引もしくは受渡しにより決済さ れていない建玉の合計である。新しい先物契約(または先物オプション)が新規上場された ときは、当然のことながら、未決済建玉はない。しかし、取引が進むにつれて、未決済建玉 7
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- 買い手も売り手も先物の建玉を保有せず、FCM(商品取引員)が清算会員である場合
図表1. 1 先物契約の成立:
顧客;トレーダーA (建玉を保有していない買い手) 1枚(1先物契約) 受注先: 商品取引員(FCM) (先物取引業者)
顧客;トレーダーB (建玉を保有していない売り手) 1枚(1先物契約) 受注先: 商品取引員(FCM) (先物取引業者)
発注先: フロア・ブローカー (取引所の※ピット、※リングに いる) 付合せ価格による注文執行 報告対象の1買付 (買い契約) 商品取引員 (報告者) 取引所の取引高は1枚増加
※ピット:八角形凹段式立会場 リング:円形式立会場
報告対象の1売付 (売り契約) 商品取引員 (報告者)
クリアリングハウスの成立値 (清算機関) 1買建玉 1売建玉 (買い手(バイヤー) (売り手(セラー) 先物取引業者向け) 先物取引業者向け)
顧客;トレーダーA 結果(リザルト) (買建て側) 1買建玉を保有する クリアリングハウス (清算機関) 未決済建玉(オープン・インタレスト)が 1枚増加する
顧客;トレーダーB
(売建て側) 1売建玉を保有する
が作られる。たとえば、トレーダーAが(ある特定限月の)先物をトレーダーBから1枚買 い、トレーダーAもBも当初にはその先物のポジションをもっていなかったとすれば、新た な先物契約が1つ作られ、当該先物契約の未決済建玉も1枚増加する。図表1. 1では、商 品取引員(Futures Commission Merchant.以下「FCM」という。 )が当該取引の執行取引 所の清算会員である場合における上記の関係が示されている。 既存の買建玉の保有者がそのポジションを清算した場合、未決済建玉にはどのような変化 が生じるだろうか。その答えは、当該売りが新しい買い手に対するものか、または既存の売 建玉の保有者が、カバー取引、あるいは、反対取引をするか、によって異なる。前述したト 8
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- 第1章 先物・オプション市場
1当事者 (売り手または買い手) のみが既存の建玉を保有し、FCM (商品取引員) が清算会員である場合 顧客;トレーダーA (1買建玉を保有する売り手) 1枚(1先物契約) 手仕舞い対象の建玉 受注先: 商品取引員(FCM) (先物取引業者)
図表1.2 先物契約の成立と解消(手仕舞い) :
顧客;トレーダーC (建玉を保有していない買い手) 1枚(1先物契約) 受注先: 商品取引員(FCM) (先物取引業者)
発注先: フロア・ブローカー (取引所のピット、リングにいる) 付合せ価格による注文執行 報告対象の1買付 (買い契約) 商品取引員 (報告者) 取引所の取引高は1枚増加 報告対象の1売付 クリアリングハウスの成立値 (清算機関) 1買建玉 1買建玉の清算 (買い手(バイヤー) (売り手(セラー) 先物取引業者向け) 先物取引業者向け) 顧客;トレーダーC 結果(リザルト) (買建て側) 1買建玉を保有する クリアリングハウス (清算機関) 未決済建玉(オープン・インタレスト) には変化がない (売建て側) 未決済建玉は保有しない 顧客;トレーダーA 商品取引員 (報告者)
レーダーAが、その買建玉を、新たな買い手であるトレーダーCに転売する場合には、図表 1. 2に示されるように、未決済建玉には変化がない。他方、トレーダーAが第4のトレー ダーDに売り、Dは当該先物契約を売り建てていたとしよう。このような状況では、買建玉 1枚と売建玉1枚が相殺されることにより、未決済契約の数(そして未決済建玉も)が1つ 減少する。後者のケースが図表1. 3に示されている。未決済の売建玉の数は、常に未決済 の買建玉の数に等しいことを覚えておいてほしい。 取引が未決済建玉に与える影響をまとめると以下のようになる。 ◦買い手および売り手がそれぞれ新規の買建玉および売建玉を1枚取得したときに、未決 9
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- 売り買いの両当事者が先物の反対建玉を保有し、FCM(商品取引員)が清算会員である場合 顧客;トレーダーD (売建玉を保有する買い手) 1枚(1先物契約) 手仕舞い対象の建玉 受注先: 商品取引員(FCM) (先物取引業者) 顧客;トレーダーA (1買建玉を保有する売り手) 1枚(1先物契約) 手仕舞い対象の建玉 受注先: 商品取引員(FCM) (先物取引業者)
図表1.3 先物契約の解消(手仕舞い) :
発注先: フロア・ブローカー (取引所のピット、リングにいる) 付合せ価格による注文執行 取引所の取引高は1枚増加 報告対象の1買付 商品取引員 (報告者) クリアリングハウス(清算機関)の 成立値 1売建玉の清算 1買建玉の清算 (買い手(バイヤー) (売り手(セラー) 先物取引業者向け) 先物取引業者向け) 顧客;トレーダーD 結果(リザルト) (買建て側) 未決済建玉は保有しない クリアリングハウス(清算機関) 未決済建玉(オープン・インタレスト)が 1枚減少する (売建て側) 未決済建玉は保有しない 顧客;トレーダーA 報告対象の1売付 商品取引員 (報告者)
済建玉は増加する。 ◦1当事者(売り手または買い手)のみが新規ポジションを得て、他方が既存の買いもし くは売りポジションを清算する場合には、未決済建玉は変化しない。 ◦売り買いの両当事者が既存の買建て・売建てのポジションを解消するときに、未決済建 玉は減少する。 ◦既存の売建て側が既存の買建て側に現物を引き渡したときにも、未決済建玉は減少する。
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- 第1章 先物・オプション市場
先物市場の必須条件
長年にわたり、先物契約は小麦や電気から通貨、保険、持分証券やその指標といった金融 商品に至るまで、さまざまな基礎商品、つまり原材料で始められてきた。そして毎年、取引 所は互いに競争しながら、多数の新しい先物契約やオプション取引を上場しようと試みてい る。そのうちのいくつかは成功するが、失敗するものもある。 「なぜ、先物取引は成功する ものと成功しないものがあるのか」という疑問が自然に起こる。 先物契約が成功するために最も必要なことは、生産者および需要家が管理しなければなら ない現実の経済的リスクが存在することである。原資産の価格変動性(ボラティリティ)が ほとんどあるいはまったくない場合には、取引をしたりリスクを管理したりするインセン ティブがほとんどない。また、価格変動性(ボラティリティ)とこれに伴うリスクが存在し ていても、先物取引が成功するためには、資産保有者において、リスク管理のために先物市 場を活用しようという意欲がなければならない。 さらに、先物契約は孤立した状態では存在することはできない。つまり、活発な現物市場 に基づかなければならない。株式市場であれ、家畜農場であれ、ガスパイプラインや大型穀 物倉庫であれ、現物市場が一人立ちできるものであれば、先物市場価格と現物市場価格の間 では需給環境を反映した関係が維持される。しかも現物市場における情報は利害関係者に とって広く活用可能なものでなければならない。つまり、価格データや需給関係情報が広く 活用できなければ、投資家なども取引をするとは考えにくく、その市場は失敗する。 関連する問題として、政府の施策がある。価格、生産、販売などについて、政府のきちん とした管理が行われているならば、先物取引は役に立たない。第2次世界大戦中、合衆国価 格統制局が、供給が不足していたほとんどの商品について上限価格を定めたときには、多く の先物市場は機能を停止した。なぜならば、政府が売買価格を定めるとヘッジは不要となり、 先物市場も必要がなくなるからである。 さらに考えなければならないことは、原資産に対してリスクを受ける階層が多様でなけれ ばならないことである。価格リスクを受ける商品の生産と消費の両方、あるいはどちらか一 方が、競争的な市場条件のもとで多数の参加者に広く担われていなければならない。これに よって、個人あるいは小規模グループが連携して原資産に対する需給操作ができなくなるか らである。 また、原資産が標準化されていることも重要である。つまり、少なくとも1種類の等級ま 11
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- たは類型の資産が、当該商品等の供給量の多くを占めていなければならない。これにより受 渡しの基準が守られ、また、価格決定機能が効果的に発揮されることとなる。先物取引の買 いも売りも、現物を見ずに行う取引なので、売りポジションから引き渡されるものが契約で 要求されている品質基準を満たしていることの保証が必要である。 さらに別の条件は、効率的な受渡しを行える仕組みがあることである。もし原資産が、原 油、金属、国債のように、貯蔵可能で運搬可能なものであれば事は単純である。取引所は差 金決済と呼ばれる契約を確立することで、この問題(および必要以上のコストや受渡しが不 自由な商品に関連する問題)に対処した。これは、受渡しにあたって、契約成立時の先物価 格と取引最終日の現物価格の差額を支払うことで受渡しとするものである。 先物取引の存続可能性に影響する最後の要素として、同じまたは同様なリスクヘッジに利 用できる流動的な市場が他にないことがあげられる。もし、1000 株からなるポートフォリ オを S&P500 の先物または先物に係るオプションにより適切にヘッジできる場合、当該 1000 株についての先物契約の需要はほとんどない。一般的に、取引所がすでに上場してい る先物と密接な代替関係のあるものを上場して、既存市場を分散化してしまうことはない。 もし、そのようなことをすれば、多くの場合複数の商品間で出来高を分散することになるう え、既存利用者の今後の取引意欲を失わせてしまうことになるからである。
先物取引とオプション取引の活用法
先物取引およびオプション取引の活用法は、ヘッジ取引と投機取引の2つに大別される。 このような取引行動についての先物取引業界の定義は、辞書の定義と同じであるが、業界特 有の文脈で理解することが欠かせない。 ヘッジ取引は先物取引をリスク管理のために利用することである。この定義によれば、 ヘッジャーは、原資産となる商品や金融商品の価格や供給量に係るリスクを負っており、先 物取引とその建玉(ポジション)はこれらのリスクを軽減するという明確な目的がある。 投機取引は先物取引をリスクテイキングのために活用することである。スペキュレーター がリスクを取る目的は明らかに利得である。この定義によれば、スペキュレーターは、先物 取引を行う前には原資産に係るリスクを持たず、先物取引の建玉(ポジション)を保有して はじめてリスクが生じる。 ヘッジ取引と投機取引はさまざまな形態をとる。たとえば「純粋な」または「在庫に係 12
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- 第1章 先物・オプション市場
る」ヘッジ取引、原資産のポジション保持、裁定、ポジションの形成、価格づけ、そして完 全投機である。
ヘッジ取引
ヘッジャーの主たる経済活動は、なんらかの形で製造、流通、加工、貯蔵、または原資産 たる商品や金融商品に投資することである。これらの活動に内在する損失リスクを一定期間 内に最小化する必要がなければ、先物市場におけるヘッジ取引は行われない。 ヘッジ取引は現物市場での保有残高と反対方向のポジションを先物市場で形成することで ある。これは、先物でのポジションを現物市場でのリスクに対当させるという考え方である。 たとえば、原油生産者の場合、常に価格下落のリスクにさらされている。この原油生産者が、 仮に適正な量の原油先物を売れば、スポット原油価格の変化に起因するリスクを減少させる ことができる。つまり、ヘッジ取引により、現物市場で当該現物資産を保有し続けていても、 現物市場価格の変化に対して中立なので影響を受けなくなる。 このことは、現物資産が不足している場合にも同様である。たとえば、原油を買う公益企 業がその例である。公益企業はエネルギーコストを固定化するために、原油先物を買うこと がある。ヘッジ取引の後では、原油購入コストをすでに固定しているので、公益企業は原油 の価格動向からは影響を受けない。 適正なヘッジ取引は他の企業コストの削減にもなる。たとえば価格逆行による事業損失リ スクがヘッジ取引で軽減されている場合、しばしば銀行その他の貸付金融機関は、より積極 的に低金利で貸付けようとする。 ヘッジ取引は価格変化によるリスクを、逆のリスク構成をもつ者や、利得機会のためにリ スクを引き受ける意欲のあるスペキュレーターに移転することで軽減する。先物でヘッジに よるリスクを減らす興味深い結果は、ヘッジャーに有利な価格変化がある場合に生じる可能 性のあるより大きな利益まで逃すかもしれないということだ。
現物商品のポジション保持
先物市場は商品を在庫として保有するためのコストを賄うためにも活用される。小麦のよ うな農産物を例にとると、収穫されるのは年のうち2、3週間であるが、通年消費される。 農作物は収穫されてから消費されるまでの間、誰かが所有し、保管しなければならない。し かしながら、穀物貯蔵には費用がかかるうえ、貯蔵した商品の所有者は販売されるまで価格 の下落による損失を被るかもしれない。 13
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- 貯蔵可能な商品の先物価格は、しばしば、先物契約の消滅時限までの保険、金利などの商 品貯蔵コストの全部または一部を反映している。この場合、在庫商品の保有者は、現物商品 のポジション保有コストの全部または一部をカバーするために、先物の売建てのポジション を保有し、売りヘッジを行う。代わりに、将来当該商品を必要とする消費者は、現物在庫を 抱えるよりも先物の買建てを行うことで、買建て価格以上の支払いが発生しない、もしくは 将来価格が上昇した場合、その時点での時価で購入するよりも支払いが少なくなることを期 待する。
裁定取引(アービトラージ)
裁定取引(アービトラージ)とは、すなわち同一の原資産である商品、通貨または証券を 異なる市場で同時期に買いと売りを行うことであり、先物市場で主要な役割を果たしている。 先物と現物価格が一時的に整合しなくなる場合には、プロのトレーダーなどが(相対的に) 安値である市場に買いを入れ、同時に(相対的に)高値である市場で売りを建て、リスクを 被ることなく利得を得ようとする。この種の行為は先物価格と現物価格が適切な関係にある ことを保証するものである。したがって、現物か先物か、いずれかの価格が公正な市場価格 から逸脱しても、裁定取引によって、短期間で価格が是正される。したがって、裁定取引は、 このように、先物が現物ポジションの効果的なヘッジとなることを保証するものである。
建玉の形成(ポジションテイキング)
建玉(ポジション)の形成とは、現物市場で反対のポジションをもたずに先物だけのポジ ションをもつことである。売却前の在庫保有が投機とみなされるのと同様に、ポジション形 成は投機の1形態と考えることができる。しかしながら、多くの会社は予想されるリスクを ヘッジする手段としてポジションを形成している。たとえば、将来に起債を行う予定の会社 は現行利子率で固定化しようとし、その会社が将来債券の発行をする際に内在する金利リス クをヘッジしようとする。また、国際貿易商社ならば数カ月後の外貨建て収入の為替変動リ スクをヘッジしようと考えることもあるだろう。したがって、ポジション形成がすべて投機 的とはいえない。いくつかのヘッジは、 「将来のため」として分類され、市場における買建 て側にも売建て側にも発生する。
価格発見(プライス・ディスカバリー)
先物市場は、商品の公知の単一価格を設定するのに一役買っている。大半の商品価格は速 い速度で変化するが、公開された競争市場での買い手と売り手の世界規模での相互作用は、 いかなる瞬間でも、ある商品の「価値」を素早く決める。価格は電子的に短時間で伝達され るので、商品の実勢価格に関しては、市場で最も小規模な参加者であっても、大規模参加者 に比べて情報面での不利はない。 14
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- 第1章 先物・オプション市場
先物市場は、現存する中で最も効率的に価格を発見できる市場と言える。その先物価格は、 さまざまな産業で利用できる唯一の参照価格となっている。これらの産業等では、市場参加 者が特定時点の先物価格を現物市場で取引価格と結びつけたり、あるいは、先物の期近価格 を現物市場価格の手がかりとしていることが多い。 あまり知られていないことだが、先物取引がもたらす他の便益は、価格情報のほかに統計 情報の配信を円滑化するという点がある。整備された先物取引所は需給統計や気象情報、そ の他の情報など関係する産業にとっても情報配信の中心となっている。これは結果的に、関 係者全員にとってリスク評価や将来の計画策定をしやすくしている。
投機取引(スペキュレーション)
先物市場は、ヘッジャーからスペキュレーターへ価格リスクを秩序ある形で移転するもの である。スペキュレーターは、大きな利益を得ようとしてこのリスクを進んで受け入れる。 スペキュレーターは、一般的に取引する先物契約の原資産となる商品自体を実際に使うこと はない。 先物市場はスペキュレーターがいなければ効果的に機能しない。なぜなら、スペキュレー ターの取引が流動性を供給し、最小限の価格変動で大量注文を執行できるようにしているか らである。長期的に見ればスペキュレーターはリスクテイクする資本を市場に投入すること で、価格変動を激しくするよりむしろ円滑化している。
考えてみよう
需要の変化と技術革新により、さまざまな工業品や農産物の重要性が変化し、金融市場で も新商品が現れた。今後も原料や農産物の重要性が増したり、世界貿易パターンの変化に よって特定の通貨が注目を集めるようになったり、新しい有価証券や信用供与手段が現れた りすることだろう。あなたは、どのような先物契約が将来開発されると予測するだろうか。 そして、その予測を実現させるためには、どのような状況が変わらなければならないだろう か。
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- FUTURES & OPTIONS
第2章 先物取引関連機関および 専門業者
◦ 一般社団法人金融先物取引業協会 元調査部長 宮崎雅雄
この章を読み終えると、以下のことができるようになる。 ◦先物取引所の仕組みについて説明する ◦先物の財務的健全性から清算機関(クリアリングハウス)が果たす役割を特定する ◦顧客の対応から先物専門業者の役割を列挙する
米国先物取引所の発展
シカゴ商品取引所(一般的には「CBOT」と呼ばれる。 )は、買い手および売り手がコモ ディティを交換するために集まることができる中央市場を提供するため、1848 年に設立さ れた。最初は、標準化されていない先渡契約が取引されたが、1865 年、CBOT は、先物契 約と呼ばれる標準化された契約を開発し、現在でも広く利用されている類型の先物取引を規 制するための一連の規則を公表した。 CBOT が始めた先物契約モデルは、その後、米国のシカゴ以外の地で新たに設立された取 16
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- 第2章 先物取引関連機関および専門業者
引所で採用された。最近では、米国の先物契約モデルは世界中の多くの取引所のひな形と なっている。これらの新たに設立された取引所のほとんどは金融契約に特化し、取引ピット ではオープン・アウトクライよりはむしろ電子的に取引が行われている。
現代の先物取引所
多くの先物取引所が存在し、それらが数多くの商品を提供しているという事実にもかかわ らず、これらの取引所は多くの面で類似している。歴史的に見て、ほとんどの先物取引所は 会員で組織された組合であった。その組織は、すべての関係者の利益を保護するルールに基 づいて行われる商品の買付け、売付け、その他販売に必要な施設を提供することを主な目的 とした。 この非営利目的の会員制組織は新しい取引所、特に 1990 年代後半、欧州に出現した取引 所には必ずしも踏襲されなかった。また、米国の状況はシカゴ・マーカンタイル取引所 (CME:Chicago Mercantile Exchange)の株式会社化とともに、2000 年に急速に変わり始 めた。このような株式会社化は、通常、取引所の非営利目的から営利目的への変化を伴う。 会員制組織から営利企業に組織変更する先物取引所は、一般的に、複数の異なる種類の株 式を発行する。たとえば、各々の取引所会員は、当該取引所が創設する持株会社の株式およ び議決権を付与される特定数の「クラスA」株式と、取引所で取引する特権および一定の中 核的だが限定的な議決権を有する1株以上の「クラスB」株式を取得する権利を得ることが ある。通常、この2種類の株式の売買を別々に行うための規定と、クラスB株の所有者が取 引権をリースおよび直接使用するための規定もある。 先物取引所は、会員制組織で あってもなくても、原資産または 商品を自ら所有することがなく、 先物契約やオプション契約を売買 したり、ポジションをとることも ない。その役割は、先物取引の競 争を行うために必要な物理的もし くは電子設備、運用上の仕組みや 規則を提供することである。 先物取引所は取引を行ったりポ
CBOT の立会場(1990 年頃) 〈写真提供:Chigago Board of Trade〉
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- ジションをとることもないため、取引所が提供する取引場所は「流通市場」である。すなわ ち、その会員は、自己勘定およびその顧客の勘定において会員間で取引を行う。この点にお いて、先物取引所は、証券取引所に似た役割の役務を提供する。しかし、先物取引所は、そ こで取引を行う契約書の作成者でもある。これは、当該取引所が標準化された先物契約のす べての条件を定めることを意味する。 一般的に、これらの契約条件および取引規則には、以下の事項が含まれている。 ◦取引が可能な受渡月または限月 ◦商品ごとの当初証拠金および維持証拠金の水準 ◦現物受渡契約については、受渡場所および等級(穀物倉庫から国債先物の利率および償 還日に至るまで)の指定ならびに先物契約に対する受渡しに供されるすべての商品につ いての検査手続 ◦差金決済契約については、当該契約の最終決済に使用される一連の現物価格 ◦価格設定協定および最小価格変動 ◦顧客または自己のための先物取引に参加する者の日々の活動の管理 ◦市場の過熱または価格操作を防止するための市場監視プログラム ◦リアルタイムでの価格データの配信
取引所の組織および運営
先物取引所は、歴史的に、先物および先物オプションを取引するための秩序ある市場を提 供するために作られた会員制の組合であった。米国では、取引所会員権や取引許可証を保有 することは個人だけに与えられた特権である。しかし、個人は、取引所への適正な申請を 行った後、許可を受けてその者が雇用されるか、または所属する他の者、企業、協同組合組 織、パートナーシップまたは会社にその会員資格の一定の特権を付与することができる。 先物取引所の組織は取引所ごとに異なっている。一般的には、会員によって選任された役 員会または理事会が当該取引所を運営する。社長または理事長は、通常、常勤、有給、非会 員執行役員で、当該取引所の日々の運営の監視および役員会で承認された方針を実行する責 任を負う。取引所の方針は、通常、役員会に承認を勧告する前にさまざまな会員からなる委 員会の議論を経て策定される。役員会はその勧告を承認または拒否することができる。定款 や特定の取引所規則の変更には、取引所会員または取引特権の保有者の過半数の賛成決議を 必要とすることもある。 取引所の日々の業務および事務処理は、通常、取引所の職員が行っている。職員は、法 18
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- 第2章 先物取引関連機関および専門業者
務・コンプライアンス、データ処理、調査および設備保守などの分野で働く。会員が支払う 取引手数料、定率会費と定額会費などの収入ならびに取引所のリアルタイムのデータへのア クセス手数料等の収入により、取引所の業務上の支出を賄う。ほとんどのオープン・アウト クライ取引所は、机のスペースおよびフロアの電話ブースの賃料によって追加収入を得てい る。
取引所会員
会員資格もしくは他の取引権、または取引所に関する特権を持つ者のみが取引所取引に参 加できる。以下では、電子取引ではなく、オープン・アウトクライの状況を中心に検討する。 ピット(八角形凹段式立会場)またはリング(円形式立会場)において自己勘定のみで取 引する取引所会員は、ローカル(地場のトレーダー)として知られる。彼らは、自己資本を 使って取引を行い、ポジションをとり、取引技術や市場分析に基づいて収入を稼ぐ。通常は、 ほとんどが短期売買トレーダーと見なされるが、ローカルは他のあらゆるトレーダーと同じ ように、さまざまなスタイルや方法を用いて取引や分析を行う。スカルパーは、頻繁に売買 を行う取引所会員であり、通常、直近に取引された価格のほんの少し下で買い付け、ほんの 少し上で売付けようとするため市場に流動性を創出する。デイ・トレーダーとは、日中は頻 繁に取引を行うが、通常その日の終了時点ではポジションをフラット(ゼロ)にする取引所 会員を指す。また、他の者のために売買注文を執行することにより手数料を稼ぐ取引所会員 は、フロア・ブローカーと呼ばれる。 一般に、取引所会員は手持ちのビッドまたはオファーについて、公開で立ち会い取引を 行った後にのみ取引を成立させることができる。フロア・ブローカーはすべての顧客注文を 執行するにあたって、細心の注意を払うことが要求される。顧客の注文を取り扱う際のミス から生じた損失は、当該ブローカー個人の負担になる。いくつかの顕著な例外を除いて、非 競争的取引(ピットで公開で行われないビッドまたはオファー)は禁止される。取引所規則 で認められていない取引に参加する会員は懲戒処分の対象となる。 自己のために取引し、さらに顧客業務も取り扱っている会員の実務は、二重取引として知 られる。取引所規則で二重取引が認められる状況はさまざまであるが、すべての取引所およ び他の規制当局は、取引所会員のまたはトレーダーの自己勘定取引よりも顧客の注文を優先 させる。
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- 清算機関または清算機構
米国のすべての先物取引所は、ときには清算機構(もしくは清算協会)という名前で知ら れる清算機関と提携している。清算機関の最も重要な役割は、当該取引所の先物およびオプ ション契約の履行を保証する財務的仕組みを提供することである。これを達成するために、 清算機関は、各取引相手に代わって、利益および損失を清算し、利益となっている取引相手 には資金を支払い、損失となっている取引相手からは徴収する。これは、置換原則として知 られる。加えて、清算機関は、受渡品の渡し方と受け方の両者を合致させることにより受渡 しを円滑にする。
清算機関の運営の仕組み
シカゴ・マーカンタイル取引所とニューヨーク・マーカンタイル取引所の2つの顕著な例 外を除き、米国のほとんどの商品取引所では、関連する清算機関は別の会員企業である。2 つのマーカンタイル取引所においては、清算機関は取引所の1部門となっている。清算機関 の各会員は、関連取引所の会員でなければならないが、必ずしもすべての取引所会員が清算 機関の会員ではない。 清算会員の申請者は、認可される前に、最も重要な検討事項として、各清算機関の役員会 から財務体質、誠実性に対する評価および運営能力について慎重に審査を受ける。そして、 厳しい財務および他の要件に適合できる申請者だけが認可される。 清算機関は、役員会または取引所の委員会の指導に基づいて機能する。方針の策定、会員 の加入、または除名の認可および清算機関役員の選任を行い、取引所によっては、監視委員 会への会員の任命も役員会または取引所の任務である。 すべての清算会員を保護するため、役員会が個々の清算会員がどのようなときにでも保有 できる契約枚数の上限を定めているため、もし清算会員の建玉が定められた規模を超える場 合に、清算会員から1枚当りより高い当初証拠金(後述)を求めることはよくあることであ る。 清算機関は、清算取引および受渡通知の取扱いなど、会員のために行ったその他のサービ スについて請求する手数料から、自らの業務の遂行に必要な資金を得る。また、本章で以下 に述べるように、資本金の投資からの金利、または会員保証預託金の一時的投資から生じる 金利からも収入を得られる。 20
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- 第2章 先物取引関連機関および専門業者
当初証拠金および変動証拠金
すべての清算機関は、清算のために提出された未決済建玉の裏付けとして、清算会員業者 に当初証拠金と言われる資金を当該清算機関に預託させる。1契約に必要な証拠金額は、清 算機関役員会により決定される。米国の先物および関連オプション市場を規制する連邦機関 の商品先物取引委員会は、会員業者の自己資金から顧客資金を分別することを求めているの で注意が必要である。この資金分別を維持するため、顧客口座をもつ各清算会員は当該清算 機関に、1つは顧客資金用、もう1つは自己資金用に2種類の証拠金口座を開設しなければ ならない。 証拠金の水準は、通常、先物価格のヒストリカル・ボラティリティを反映し、ある特定の 市場での1日の(統計的に)大きな価格変動から当該清算機関を保護するように設定しなけ ればならない。当限月建玉、すなわち、受け渡されるまたはそれに近い建玉、および後の章 で説明するヘッジ、またはスプレッド・ポジションには、異なる証拠金率が適用されること がある。 受け入れ可能な当初証拠金の種類は、清算機関によって異なる。一般的に清算会員証拠金 は、現金、信用状、政府証券または登録証券である。ドル以外の通貨建ての先物契約(たと えば、外国の株価指数に関する先物契約などの外国通貨建てで価格決定される商品)では、 外国通貨建ての当初証拠金および変動証拠金での支払いが必要なことがある。清算会員への 顧客証拠金の預託は、倉庫受取証などの他の流通証券も含まれる場合もある。 清算機関は、グロスの顧客建玉基準またはネットの顧客建玉基準のいずれかを用いて証拠 金を徴収することができる。シカゴ・マーカンタイル取引所およびニューヨーク・マーカン タイル取引所は、各売り建玉および各買い建玉について清算会員からグロスの当初証拠金を 徴求する。 現在、その他の清算機関のほとんどは、清算会員業者が先物契約の特定の受渡月の顧客の 未決済の買建玉と売建玉をネットし、当該ネットされた建玉を裏付けるために必要な証拠金 だけを当該清算機関に預託することを認めている。たとえば、清算会員の顧客が5月限小麦 合計 500 枚を買い建て、5月限小麦合計 400 枚を売り建てた場合、ネット基準で顧客証拠 金を徴収する清算機関は、そのネットである 100 枚の買建てに証拠金を請求する。 変動証拠金、すなわち清算会員業者間での毎日の損益の決済もまた、清算機関を通して行 われる。各取引日の終了時に、各取引所の建値委員会(または他の取引所会員委員会)が各 21
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- 契約市場の決済価格、つまりそ の日の取引の終値を決定する。 決済価格は、受渡月ごとに決 定され、通常は、終了時に取引 された価格帯に収まる価格とな るが、終了時の取引がない比較 的不活発な受渡月の決済価格は、 建値委員会が定めるみなし価格 となることもある。みなし価格 は実際の約定価格ではなく、当 該受渡月と終了時に取引された 同一の先物またはオプション契 約の、他の受渡月の決済価格と ビッドとオファーの平均値を表す。 すべての清算会員業者は、現在の決済価格と約定価格の差額を毎日支払い、また既存の建 玉については前日の決済価格との差額を清算機関から受け取らなければならない。この差額 は変動証拠金として知られている。変動証拠金は、顧客建玉と当該清算会員自身の建玉とは 区別して徴収され、翌営業日の取引の開始前に当該清算機関に支払われる。支払いは清算会 員の顧客または自己証拠金口座への自動入出金によって行われるが、支払保証付小切手で支 払われる場合もある。変動証拠金も前日の建玉に基づいてその日のうちに徴収され、清算会 員が日中のマージン・コール(追加証拠金請求)から1時間も経たないうちに資金預託を求 められる市場もある。
ロンドンの国際石油取引所(FFAJ 補完:現 ICE Eutures Europe) 〈写真提供:International Petroleum Exchange〉
の価格関係を考慮して選定される。決済価格は、通常、取引が不活発な取引月の終了時の
保証預託金
清算会員は自己および顧客の建玉を裏付けるために必要な当初証拠金および変動証拠金を 預託することに加え、清算機関に多額の保証預託金を預託しなければならない。この預託金 は、業者が清算機関の会員であり続ける限り引き出すことはできず、清算機関やその会員に よっては、数千ドルから、数百万ドルに及ぶこともある。一般的に当該保証預託金は、現金、 有価証券または信用状である。債務不履行となった会員の財務上の義務を履行するために、 この預託金は、清算機関が必要なときはいつでも自由に使用できるものでなければならない。 万一清算会員の個別の顧客が、その財務上の義務または受渡しの義務のいずれかを履行で 22
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- 第2章 先物取引関連機関および専門業者
きなくなった場合は、清算会員自身が自己の資金を使用してどんな顧客の赤字額も補って当 該義務を履行しなければならない。これが、マージン・コールに迅速かつ全額で対応するこ とをブローカーが顧客に強く求める理由である。また各ブローカーの商品口座約諾において、 マージン・コールに迅速に応じられない場合は、当該ブローカーに顧客からの依頼がなくて もその建玉を反対売買する権利を与える理由でもある。 清算会員がその未決済建玉に関する財務上の義務を履行できない場合には、歴史上さまざ まな場面で生じたように、通常は以下のような手続が採られる。 ◦破綻した会員の帳簿におけるすべての未決済で証拠金が預託済みの顧客建玉は、支払能 力のある清算会員に移管される。証拠金不足になっている顧客建玉および当該業者の自 己建玉は反対売買される。 ◦清算機関に設定される会員の顧客口座が反対売買の結果、債務超過となる場合は、当該 会員がその清算機関に預託した残りの証拠金も顧客の建玉の不足額に充当される。 ◦破綻した会員の証拠金預託残高が十分でない場合は、その取引所会員権の売却、清算機 関保証基金に対する当該会員の寄与分の使用が可能である。 ◦破綻した会員の口座残高がそれでも足りない場合は、清算機関の剰余金があれば、清算 機関役員会の裁量で引き出すことができる。 ◦さらに必要な場合は、他の清算会員の保証基金への寄与分について請求することができ る。 ◦最終的にそれでも必要な場合は、当該清算会員以外のすべての会員に特別の負担を求め ることが可能である。つまり、 該当する会員にはそれ以前の 手続を踏まえた結果、なお不 足する保証基金の額を補うた めに、特別な比例配分で負担 することを求めることができ る。 清算機関がその義務を履行する ための清算会員の選定基準、保証 基金預託および清算機関が清算会 員を評価する能力は、各先物契約 の財務の安全性を支える。米国の 清算機関が清算会員の破綻を原因
ロンドンの国際石油取引所(FFAJ 補完:現 ICE Eutures Europe)の注文ブース 〈写真提供:International Petroleum Exchange〉
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- としてその財務上の義務を履行できなくなった例はない。
清算プロセス
清算機関の主要業務の1つは、清算会員が提出する取引データを突き合わせることである。 清算会員は取引日ごとに、顧客に代わって会員の自己勘定取引で執行したすべての取引内容 を清算機関に提出する。当該清算機関は、すべての取引相手として代わることが可能になる 前に、売り買い両方の清算会員から取引確認記録を入手していなければならない。 現代の清算機関では、会員業者が、コンピューター間接続を使って取引の詳細データを電 子的に入力することで提供する。取引データの提出には、厳しい期限が課せられている。な ぜなら、清算機関が成立した取引ごとの売付けと買付けの記録を突け合わせることは、すべ てのデータ記録を手元に保持していなければ不可能だからである。取引内容の矛盾、あるい は取引の片方がないために合致しない取引記録は、解決するために提出した清算会員に戻さ れる。関係する双方の取引所会員は、翌朝の取引開始以前にその相違を解決しなければなら ない。このような契約はその後、1日遅れて清算される。 報告されたすべての取引が正確であることが証明され、かつ建玉について当初証拠金が預 託された場合に、清算機関は全取引の相手方に対する法的および財務上の義務を引き受ける。 すなわち、清算機関は、契約を売り付けたすべての者の買い手となり、また契約を買い付け たすべての者の売り手となる。全取引の相手方としてこのように清算機関が介入すること、 つまり清算機関が地位を引き受けることによって、トレーダーは、当初の契約の相手方が手 仕舞いの決断を下すまで待たずに自らのポジションを手仕舞いすることができる。このよう に、同一の先物契約の相殺取引を終えた場合、個々のトレーダーは、その市場義務から解放 されることも清算機関に依存する。 清算機関の帳簿上では、この2つの取引(建玉を成立させる取引とそれを手仕舞う取引) はお互いに相殺され、未決済建玉は残らない。トレーダーは相殺の原理を利用して、新規の 買付け(売付け)またはそれに続く売付け(買付け)のいずれかにかかわる相手方への義務 なしでも、自由に先物市場に出入りできる。トレーダーの買付価格と売付価格の差額は、ブ ローカーに支払われなければならない手数料控除前の当該トレーダーのグロスの損益を表す。
受渡しおよび差金決済
取引終了時までに相殺されない先物契約は、受渡しまたは差金決済により決済される。実 際の受渡しは、現物コモディティまたは金融商品の特定量の所有権の移転を伴う。清算機関 24
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- 第2章 先物取引関連機関および専門業者
は、帳簿で未決済となっている各先物契約の財務上の履行を保証するが、受渡しを選ぶ買い 手が特定の商品を実際に受けることは保証しない。この保証は、以下に述べるように、清算 会員業者を通して提供される。清算会員業者の顧客が特定の受渡しに関して債務不履行にな ることがあるとしても、先物契約の条件を履行しなければならない。幸いなことに、受渡品 の引渡しまたは受取りのいずれにおいても会員業者の顧客が債務不履行となった例はほとん どない。 先物および先物オプション契約の中には、ユーロドル金利および株価指数に基づくものの ように、定期預金または有価証券のバスケットの受渡しではなく、現金の支払いで済むもの がある。第1章で説明したように、取引所は、実際の(現物の)受渡しによる決済か、差金 決済かを、すべての市場で決定する。差金決済契約の場合には、買い手および売り手が、清 算機関を通して、先物契約の満期における約定価格と原資産の現物価格または指数の差を授 受する。 現物の受渡しが必要な場合、すべての取引に対する相手方として清算機関が地位を引き受 けることによって、たとえ当事者同士が一度も取引を行ったことがないとしても、売り手は 資格のあるの買い手には直接受渡しを行うことができる。未決済の売り建玉を有する売り手 は、受渡期間中に、その建玉により求められるコモディティやその他の商品の受渡しを行う か、または同じ枚数の先物契約を買い付けて建玉を手仕舞わなければならない。 清算機関は、売り手から受渡通知を受け、買い手に当該通知を割り当てる。また、清算機 関は倉庫受取証の預託機関となり、現物コモディティの検査を手配するか、外国通貨および いくつかの金融商品については、売り手から受渡品を受け、買い手に渡す。 受渡しは、取引所によって認可され、売り手が選択した場所または倉庫で行うことができ る。先物契約の条件によって複数日が可能ならば、受渡しが行われる日を選ぶ権利もまた売 り手にある。これに対して、買い手が引渡し期間中に市場にとどまる場合、買い手にわかる ことは、いつか、どこかの認められれた受渡場所で現物の引渡しを受けるということだけで ある。なぜなら、買い手は引き渡されるコモディティまたは金融商品について、特定の日、 特定の場所、特定の様式または等級を選択することに関与しないからである。こうした考え 方は、売手選択として知られ、その価格決定への影響は後述する。 売り手が受渡しを行おうとするとき、清算機関はブローカーに指示して認められた期間内 に受渡意向通知を提出させる。この役務について、口座を設定しているブローカーは手数料 を徴求する。受渡手続や要件は、受渡し可能な財または商品の性格、一般的に行われている 25
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- 現物市場の慣行に応じて、先物契約および取引所によって異なる。CBOT で取引される倉庫 コモディティの受渡意向通知は、実際の受渡しを行う日の2営業日前に提出される。しかし、 他の先物契約の受渡意向通知については、受渡予定日の1日前から数週間前に提出できる。 受渡意向通知には、受渡しに関する基本的な事実、すなわち、コモディティの等級、重量、 受渡しが行われる場所、受渡しの予定日および受渡価格が含まれる。 受渡通知を受け取ったときは、直ちに清算機関は当該受渡品を受け取る買い手を特定しな ければならない。買い手の選定は、通常3つの一般的な方法が利用される。CBOT およびシ カゴ・マーカンタイル取引所においては、通常、清算機関の帳簿上未決済となっている買い 建玉のうち最も古いものを有する清算会員に割り当てる。次に、割り当てられた清算会員は、 その通知をその最も古い未決済買建玉を有するその帳簿上の顧客に渡す。 他の清算機関においては、適格清算業者に対する受渡通知の割当てを、ネット基準で行う ことがある。すなわち、通知の割当ては、清算機関の帳簿上の未決済のネットの買建玉の数 量に比例して会員業者に対して行われる。しかし、他の取引所は、清算会員への通知の割当 てをそのグロスの未決済買建玉の数量に基づいて行うことも容認する。最大のグロスの未決 済買建玉を有する清算業者は、最も大きな量の受渡通知を受け取る。これらの制度のもとで、 受渡通知を受け取る清算会員は、前述の方法のいずれかを利用して、買建ての顧客建玉に通 知を割り当てることができる。 この時点で、清算機関は売り手と買い手をまとめることを引き受ける。これは、関係する 双方の清算業者における受渡品の渡し方と受け方の名義を交換し、その後双方の当事者に直 接受渡しおよび決済を完結させるか、または清算機関を通じて受渡書類と支払いの実際の交 換を取り扱う。 受渡しが清算機関を通して行われる場合、その顧客が受渡品を引き渡す清算会員は、支払 われるべき金額の請求書とともに必要書類を清算機関に提出しなければならない。清算機関 は、支払保証小切手による支払いを受けたときは、受け方が口座を設定している業者に当該 書面を提供する。この手続は、各取引所の受渡規則に定める期間内に完了されなければなら ない。最後に、清算機関は受渡しを行う顧客の清算業者に受け取った支払保証小切手を引き 渡し、清算業者は当該小切手をその顧客に渡す。 先物契約の最終取引日は未決済建玉を相殺できる最終日である。その日を超えて未決済で 残存する建玉は、取引所の手続に従って、現物の受渡しまたは差金決済により決済されなけ ればならない。最終通知日、または申出日などとも呼ばれる日は、受渡通知を発行できる最 26
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- 第2章 先物取引関連機関および専門業者
図表2. 1 一般的な受渡手続の流れ
現物受渡し 1(同時の取引および受渡し)
最初の通知日 ◦ 売り手が受渡通知を発行できる最初の日;ただし、当該先物契約の条件に従って、当該売り手は、 当該日に当該通知を出す必要はなく、それ以降の日に出すことができる。 ◦ 取引は受渡しと平行して継続する。定められた受渡期間ならいつでも、売り手は通知を出すこと ができ、買い手は受渡しを履行する責任がある。 最終通知日 ◦ 売り手が受渡通知を発行できる最終日。 最終取引日 ◦ 当該契約の取引が行える最終日。
現物受渡し 2(取引終了後の受渡し)
最終取引日 ◦ 当該契約の取引が行える最終日。これ以降は、当該契約の取引を行うことはできない。残ったす べての未決済建玉は、受渡しにより決済される。 最初の通知日 ◦ 売り手が受渡通知を発行できる最初の日;ただし、当該先物契約の条件に従って、当該売り手は、 その日に当該通知を出す必要はなく、それ以後の日に通知を出すことができる。 最終通知日 ◦ 売り手が受渡通知を発行できる最終日。
差金決済
最終取引日 ◦ 当該契約の取引が行える最終日。取引が終了した後に未決済となって残るすべての建玉は、差金 決済される。 差金決済日 ◦ 未決済で残ったすべての建玉が、取引所規則で定められた、特定の日時現在の最終の現物市場の 価格を使用して現金の入出金により決済される日。
終の日である。先物契約のなかには最終申出日と最終取引日が同日のものがあるため、その 日の取引終了時にすべての売建玉は買建玉により相殺されるか、受渡通知を発行されること になる。同様に、その日の未決済買建玉のすべては、相殺取引によりその買建玉を手仕舞う か、受渡品を受け取る用意をして買建玉のまま保持されることになる。残るのは、取引所規 則の定める方法で行われる受渡書類と支払保証小切手の実際の交換のみである。図表2. 1 に、受渡手続の一般的な流れをまとめる。
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- スペキュレーターと受渡し
ヘッジャーと同じように、受渡期間に買建玉を有するスペキュレーターにも、受渡しの義 務がある。また、スペキュレーターが受渡通知を受け取る場合、他の誰かに受渡すプロセス の開始には、少なくとも1日間(週末である場合は、より長い期間のときもある。 )当該コ モディティを所有することになる。そして、スペキュレーターには、少なくとも受渡しおよ びその1日間の所有権に伴う支出すべてに責任がある。さらに、スペキュレーターは、口座 設定ブローカーに当該契約の全価額を支払うか、またはそのブローカーと資金調達のための 打合せをして、金利を負担しなければならない。いったん支払いがなされると、その商品は 当該スペキュレーターの財産となる。もちろん、この時点で、保管料および保険料が必要な 場合もある。もし、コモディティが当限月または期先の先物限月に再受渡しが可能になる前 に別の検査が必要にならば、その費用もまたスペキュレーターが負担しなければならない。 また、コモディティが検査で不合格になった場合は、不良品として現物市場で廃棄しなけれ ばならない。これらの理由から、並通のスペキュレーターは、先物契約に関する受渡品を受 け取ることにはほとんど無関心である。 もし最初の通知日が近づいて、スペキュレーターが、先物市場でその買建玉を維持したい 場合は、その当限月の建玉を売付け、同時に期先受渡月の同数量の契約を買い付けると受渡 しのリスクなしでその買建玉を維持することができる。このオペレーションは、先物ポジ ションのスイッチングまたはローリングとして知られる。このオペレーションはスペキュ レーターに超過手数料その他の取引費用を負担させるが、ロールオーバーは受渡しに伴うリ スクおよび費用に関する問題を解消する。
商品取引員およびイントロデューシング・ブローカー
商品取引員(FCM)
商品取引所法に基づき商品取引員(Future commission merchant.以下、 「FCM」とい う。 )として知られる先物ブローカー業者は、ヘッジャーおよび機関投資家を含む一般の顧 客 と 取 引 所 と の 間 の 仲 介 者 で あ る。 非 公 式 に は コ ミ ッ シ ョ ン・ ハ ウ ス(commission house)または口座設定業者(carrying firm)として知られる FCM は、当該取引所におい て顧客の注文を執行し、各顧客の未決済建玉、証拠金預託、金銭残高および成立した取引の 記録を作成・保存する施設や機能を提供する。FCM は、先物清算機関以外で顧客資金を保 有できる唯一の組織である。そして、FCM は、この一連の役務提供の見返りとして、手数 料を徴求する。 28
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- 第2章 先物取引関連機関および専門業者
FCM は、総合サービス業者ま たは対象地域や取扱商品を限定し た業者である場合がある。FCM には、有価証券および他の金融 サービスを提供する全米または地 域のブローカー会社の一員や、先 物や先物オプションだけを提供す る者もいる。加えて FCM の中に は、商業銀行や農業関連企業また はその他の営利企業を親会社とす る者や、これらの会社と関係を有 する者もいる。
世界の顧客と連絡する電話担当者にビッドとオファーを 信号で伝えるフロア担当者 〈写真提供:Chicago Mercantile Exchange〉
イントロデューシング・ブローカー(IB)
イントロデューシング・ブローカー(Introducing broker.以下、 「IB」という。 )は、1 以上の先物ブローカー業者と関係をもつ個人または業者である。FCM と同様、IB は顧客と の関係を保ち、顧客口座にサービスを提供する役割を担うが、担当する販売部門は手数料を 受け取る。ただし、IB は、その顧客から資金を受け取ることができない。その結果、IB の すべての顧客は、すべて開示された状態で FCM に口座を開設し維持しなければならない。 すなわち、各顧客の口座が確認され、当該 FCM の帳簿では区別して管理される。 IB には、独立と保証の2つのタイプがある。規制要件を満たす十分な資本金を有する IB は、多くの異なる FCM を通して依頼人を紹介することを選択できる。そのような IB は、 (特定のブローカー業者からは独立して業務を行う)独立 IB または非保証 IB として知られ る。保証 IB は、保証者である FCM と法的および規制上の関係を有し、その FCM を通して その顧客を紹介する。 FCM および IB は、商品取引所法に基づき登録されなければならない。そしてその営業担 当者は、後述のように、FCM または IB の外務員(APs:Associated Persons)として登録さ れなければならない。
取引担当者
取引担当者すなわち外務員は、FCM または IB の代理人として、当該業者の顧客と直接取 引する。取引担当者には、通常、担当者の依頼人が当該取引担当者を雇用する業者に支払う 手数料に基づいて、報酬が支払われる(一般の人と取引を行う他の先物業者およびその代理 29
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- 人については、本章で後述する。 ) 。取引担当者は以下の業務を行う。 ◦新規口座に必要な書類を提供し、それらが署名されるよう取り計らう ◦情報開示要件、取引規則および手続について顧客に説明する ◦必要に応じて価格や市場状況について顧客に情報を提供する ◦顧客からの注文を発注する ◦執行された取引の価格および未成立の注文状況を報告する ◦顧客と業者の調査部門との中継の役割をする ◦マージン・コールが生じた場合は当該顧客に連絡する 顧客口座を開設および維持する際に、当該顧客に関する必要情報を取得し、それを最新の 情報にしておかなければならないのは、通常取引担当者である。全米先物協会(NFA:National Futures Association)規則第 2-30 条の顧客情報およびリスク開示では、少なくとも 顧客の以下の事項を確認し、その顧客を把握することを FCM に求めている。 ◦氏名、住所および職業 ◦年収および純資産の予測 ◦おおよその年齢 ◦以前の投資および先物取引経験 取引担当者は、自らと自らの業者が顧客の資金源および関連した投資経験を保証し、先物 取引が当該顧客にとって適切な投資商品であるかを確認するために情報を入手する。 ほとんどのコミッション・ハウスは、商品取引担当者が既存の顧客に配布したり、または 新規顧客を勧誘する際に使用する、個人的な商品助言の書面または市場レポートを書くこと を、たとえ取引担当者がそのような能力を持っていても、認めない。全米先物協会規則第 2-29 条の「顧客とのコミュニケーションと販売促進資料(Promotional Material and Communication with the Public) 」では、このようなコミュニケーションについては、資料の内 容および FCM または IB の監督責任を網羅する厳しい規則を示している。多くの業者は、法 令遵守のため、業者の調査部門または販売部門が作成し、業者全体で使用することを認めた 調査報告書または勧誘資料の使用を認めるだけである。
商品投資顧問および商品プール・オペレーター
先物・オプション業界の資金運用者には、大まかに商品投資顧問(Commodity Trading 30
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- 第2章 先物取引関連機関および専門業者
Advisors.以下、 「CTA」という。 )と商品プール・オペレーター(Commodity Pool Operators.以下、 「CPO」という。 )の2種類に分類され、ともに商品先物取引委員会および全米 先物協会によって規制されている。CTA は、単一の依頼人(個人、企業または機関)のた めの個人口座を取引し、CPO は、その名が示すように、多くの投資家の資金をプールし、 1つの口座のもとに統合されたすべての個人のために取引を行う。加えて、資金運用業者、 特に大企業または機関投資家向けにそのサービスを提供する者の中には、運用者の運用者 (Managers of Managers:MoM)としての役割を担う者もいる。これに関連して、そのよ うな業者は、トレーダーの選択を監督し、CTA を特定の依頼人の投資目的およびリスク許 容度に合わせるか、または、代わりにこれらの業者が大手依頼人の投資ニーズを満たす CTA のグループを招集する。規制上、そのような運用者の運用者は、CPO または CTA のい ずれかとして登録できる。
商品投資顧問(CTA)
商品取引所法は、一般的に、CTA を、 「報酬または利益を受けて先物または先物オプショ ンの取引の価値、または適否に関し他の者に助言する個人または組織」と定義する。運用さ れる先物またはオプション口座は、取引の時間と内容についての決定が口座または取引の運 用について権限を有するプロの投資顧問に委任されていることを除けば、他の証券口座に似 ている。この裁量権は、委任状として文書化される。 CTA に口座を開設することに決めた投資家は、当該投資顧問がその投資家の最終目的を 達成する取引方針を有しているかを確かめるべきである。また、これから投資しようとする 者も、許容リスク、利益レベル、市場に対して、ファンダメンタル・アプローチかテクニカ ル・アプローチか、どちらかを採る CTA に資金を預けたいかを決めるべきである(先物・ オプション市場のファンダメンタルおよびテクニカル分析については第4章を参照。 ) 。 単一の依頼人の口座を運用することに加え、CTA は、以下のように、CPO が集め管理す る資金を取引する。その CTA は FCM でなければ、CTA 名義で顧客から資金を受け取れない ことにも留意すべきである。その代わり、このような CTA の依頼人は、その資金を顧客の 口座を管理する FCM に預託しなければならない。 投資顧問は、通常、その役務提供に対して手数料を徴求する。一般的に、その手数料には 以下のものが含まれる。 ◦奨励金または成果手数料。ほとんどの場合、各四半期の終了時現在における、依頼人の 運用口座の取引利益に対する比率である。この手数料は、通常、当該利益が定めた水準 31
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- を超える場合に限って、累積利益に関してのみ支払われる。 ◦運用報酬。当該口座が利益を生み出すか、損失となるかにかかわらず課されるが、通常 は当該顧問が運用する資産の年率である。この手数料は毎月または四半期ごとに徴収さ れる。 ◦ブローカー手数料。すべての CTA ではないが、その一部を受け取る CTA もいる。CTA が FCM と手数料を分ける場合は、この事実を CTA の依頼人に開示しなければならない。
商品プール・オペレーター(CPO)
商品プールの主要な概念は、先物やオプションを、そのつど1依頼人ごとに取引を行うの ではなく、多くの投資家の資金をまとめるか共同出資して取引を行うことである。商品取引 所法では、 「CPO とは、投資信託、シンジケートまたは類似する形態の企業の性質をもつ事 業者であり、それに関して、先物取引を行うことを目的として他の者から資金、有価証券ま たは財産を受け取ることを勧誘し、受入れまたは受け取る者」と CPO について定義する。 実際には、商品プールは証券業における投資信託に類似した役割を果たす。 大手ブローカー業者がスポンサーになっている商品プールが投資手段として普及した主な 理由は、そのいくつかの有利な特性にある。その1つは、顧客が商品プールに参加すること ができ、通常 5,000 ドルのような比較的少額の投資でも専門的な運用を受けることができ ることである。これに対して、個別に運用される口座は、その金額の 10 倍以上の資金を必
ニューヨーク商品取引所の子会社、ニューヨーク先物取引所(FFAJ 補完:現 ICE Futures U.S.) での取引 〈写真提供:New York Board of Trade〉
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- 第2章 先物取引関連機関および専門業者
要とすることがある。そのうえ、プールによって、より大きな資本額を有する投資家がいく つかの異なるプールに投資することができるようになり、それによって、アプローチや使用 するシステムを異にするさまざまな CTA によって運用されることが可能となり、さらにそ れによって、分散投資をすることができる。 有限責任は、商品プールのもう1つの重要な利点である。商品プールは、通常、有限責任 組合であり、CPO はゼネラルパートナーとなる。そのような組織形態により、プールは流 動(フロースルー)課税のメリットを受けることができ、プール参加者のリスクを制限する。 実質的に、投資家のリスクは、損失額が投資する資本の額よりも大きくなることはない。 個々の商品取引口座では、投資家が当初口座に入れた金額以上に損をすることがある。解散 条項を取り入れたプールもある。たとえば、1口の当初の価額が 1,000 ドルで 50%の解散 条項がある場合は、1口の価額が 500 ドルに達したときに当該ファンドは取引を停止し、 投資家はその投資資金の約半分を受け取る。
顧客
FCM の先物・オプションの顧客には以下の者が含まれる。 ◦個人の投機目的トレーダー ◦ヘッジ業者または会社 ◦資金運用者、資金運用業者および機関投資家 ◦清算機関に属さず、コミッション・ハウスの清算機能を利用しようとするフロア・ブ ローカー ◦特定の清算機関または取引所の会員でない他のブローカー業者 コミッション・ハウスを通してあるコミッション・ハウスで行われた先物取引は、2つの 業者間の約諾書に応じて、顕名(当該他の業者の顧客の実名で行う。 ) 、またはオムニバス口 座(個々の顧客のために必要な、詳細な会計記録を作成する口座設定業者に管理された当該 他の業者の顧客のすべての取引、およびポジション単一の帳簿および証拠金口座)のいずれ かで行い、帳簿は清算業者が作成する。
顧客資金
すでに述べたように、コミッション・ハウスに預託された顧客証拠金資金の当該業者によ る取り扱いは、特別な規則で規律される。たとえば、先物の未決済建玉に必要な証拠金のた めに当該業者が受け取った顧客資金は、法律により、当該コミッション・ハウス自身に属す 33
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- る資金と混合してはならない。そのような顧客証拠金資金は、先物建玉から生じる、実現お よび未実現のすべての利益に加算して、当該業者自身の資金とは区分された銀行口座に預託 されなければならない。その理由は、コミッション・ハウスが破綻した場合、顧客に属する 残存証拠金および利益は、当該業者の一般債権者に対する債務の履行のために利用できない からである。そのような資金は、当該業者の先物顧客のためにのみ利用することができる。 ただし、コミッション・ハウスは、顧客証拠金資金を当該業者の顧客業務に対する清算機関 の証拠金要件に適合するために使用することができる。
考えてみよう
新しい種類の電子通信の出現は、株式トレーダーと同じく、先物トレーダーに対しても影 響を与え、トレーダーが FCM の担当者との接触を避けることができることも多くなってい る。これは、 「顧客サイドの人間」としての取引担当者の伝統的役割にも大きな影響を及ぼ す。従来、FCM が証拠金の徴求や顧客の取引を一定の範囲内で行う際、つまり、FCM が顧 客口座に関連する法令遵守や不良債権の問題を抱えないことを保証するにあたって、FCM は顧客との接点として取引担当者に依存してきた。仲介者としての取引担当者がいなければ、 これらの目的を達成するためにどのような新しい方法、技術または規制が必要だろうか?
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- 第2章 先物取引関連機関および専門業者
第2章附録 ――
コミッション・ハウスが開設できる顧客口座の種類
コミッション・ハウスが開設できる顧客口座の種類には、以下の口座があげられるが、こ れに限定されるものではない。 ◦個人顧客口座:個人顧客のすべての現金取引および先物取引の活動が記録される口座。 通常、そのような口座に必要な書類は、新規口座情報書、商品取引口座約諾書、リスク 開示書および資金移動許可書である。資金移動許可書は口座設定業者が法的に必要とす るものではないが、その書類がなければ、顧客の先物取引口座からその他の種類の口座 (たとえば、証券口座)への顧客資金の振り込みが必要なときには特定の書面による承 諾が必要とされていることから、ほとんどの投機的な顧客はこのような書面に署名する ことになる。 ◦共同口座(共同所有者としてまたは生存者権が付されているものとして) :所有者同士 の関係の有無にかかわらず、合弁事業で先物を取引を行おうとする者2名の口座。生存 者権が付されている合同口座では、共同口座オーナーのうち1人が死去した場合、直ち に当該口座の持分全部が当該生存者に帰属し、それ以降、当該口座においては死亡者の 財産としての持分はなくなる。共有者口座においては、生存者権がない場合は、共同所 有者のいずれかの死去について書面による通知を受けた場合は、口座設定会員業者は、 当該口座の1つは生存者の名義に、もう1つは遺産の名義に基づいて、2等分に分割し なければならない。共同口座は、個人顧客に要求される証拠書類に加え、当該口座に対 する各当事者の権利を義務を明らかにし、両当事者の署名入りの共同口座に関する書面 によって裏付けられなければならない。 ◦パートナーシップ口座:パートナーシップ契約書に基づいて運営される2名以上の個人 口座。ビジネス界で行われる共同事業を規律するものが署名されたパートナーシップ契 約書である。このような口座は、クローズド・パートナーシップとオープンエンド・ パートナーシップの場合がある。オープンエンド・パートナーシップは、随時、新規の パートナーが加入することができる。このような口座の証憑として、個人顧客口座に必 要な全書類、加えて、パートナーシップ契約書とパートナーシップ書類の写しが提出さ れなければならない。パートナーシップ書類では特に、発注、資金の引出しおよびパー トナーシップのために他の業務を行うことによって、パートナーのうちの誰がパート ナーシップの責任をもつ法的な権限を有するかについての概要が示される必要がある。
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- ◦法人口座:法人として事業を行うことを州から認められている顧客の口座。多くのヘッ ジ顧客は法人口座である。このような口座が開設されるとき、コミッション・ハウスは、 当該法人が法的に先物取引を行う権限があることを確認するため、当該顧客の法人設立 許可書または取締役会決議の写しの提出を要求する。権限がない場合で、かつ当該法人 顧客が損失の生じている取引から撤退することを後に決定する場合、当該口座を設定し たコミッション・ハウスは、当該顧客が法的に先物を取引できなかったとしても、損失 を負担すること以外にできることはほとんどない。必要な取引権限が法人設立許可書に 記載されている場合、当該法人顧客は、最低限、新規口座情報カード、リスク開示書、 商品取引口座契約書および法人口座に関する書面に記入し、署名することを求められる。 特に最後に掲げた商品(取引)口座約諾書は法人の役員らを指定するもので、当該役員 らは取締役会の発注権限とその法人を法的に拘束するホジションを建てる権限を委任さ れている。そして、コミッション・ハウスもまた、顧客が資金移動許可書に署名するこ とを助言することがある。 ◦オムニバス口座:口座設定業者として知られる他のコミッション・ハウスを通して、コ ミッション・ハウスの自己(自己オムニバス)口座またはその顧客(顧客オムニバス) 口座の取引の清算、またはその口座を保有する当該コミッション・ハウスの口座。当該 口座設定業者の顧客は他のコミッション・ハウスであるが、その顧客は口座設定業者に は知られていない。 ◦代理権取引口座または一任取引口座:当該所有者または所有者たちが、取引一任権、ま たは全代理権(資金の引出しおよび取引を行う権限を含む。 )を他の者に委任した口座。 取引を管理する者は、FCM の従業員、または先物資金運用者の CTA である場合がある (代理権限保有者としての FCM 従業員の承認およびそのような口座の行為を規定する 特別の規則がある。 ) 。一任取引口座で提出が必要な書類は、個人顧客口座に必要な書類 に加え、適用される代理権委任状の署名のある写しである。後者の代理権委任状は、通 常、代理権を委任された者が顧客のために行った行為についてコミッション・ハウスを 免責するものである。 ◦受託者口座または信託口座:すべての人に権限が与えられるわけではないので、先物口 座を開設する前に、コミッション・ハウスは受託機関または信託が先物取引および関連 オプション取引の権限を与えられているかどうかを確認する。 ◦投資会社口座:先物取引という特定の目的で、1つのファンドに資金をプールしている 多数の投資家が取引を行うための口座。取引権限は、通常、当該ファンド内の1以上の 36
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- 第2章 先物取引関連機関および専門業者
参加者または部外者に委任される。このような口座には、特別な文書が必要である。 前述したように、ほとんどのヘッジ口座は、企業の所有下にある。その理由は、ヘッジ取 引の本質が「事業」活動であるからだ。ただし、ヘッジャーは、ヘッジャーの事業構造と合 致するどんな口座所有形態でも利用できる。たとえば、多くの農家は個人事業主であり、そ の先物ヘッジ口座は個人の口座である。FCM は、一般的な事業活動およびそのヘッジ口座 のヘッジニーズを検証する努力をしなければならない。いずれにしても、ヘッジャーは、 ヘッジ口座約諾書またはヘッジレターのような追加的書類を完成させ、そのヘッジポジショ ンのおおよその概算を提出するよう求められる。
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- FUTURES & OPTIONS
第3章 会計、 証拠金およびレバレッジ
◦ 筑波大学 ビジネスサイエンス系 教授 弥永真生
この章を読み終えると、以下のことができるようになる。 ◦先物損益をたどるための基礎的な計算をする ◦先物に対する資本要件(証拠金)の背景にある原則を説明する ◦ SPAN 証拠金賦課の背景にある基礎的なプロセスを説明する
買建玉と売建玉
トレーダーは、先物市場において買建てにすることも売建てにすることもできる。いずれ のポジションも一般的な取引規則と証拠金要件のもとでは平等に取り扱われるが、契約条項 のもとでは反対の義務を意味する。買建玉は、転売または受渡しによって手仕舞いされてい ない買付けを意味する。買建玉の保有者は、受渡しを受ける(または差金決済契約において は、金銭で債務を同様に決済する。 )義務を負っているが、受渡期日前に、先物市場におい て、そのポジションを相殺することができる。買建玉はその契約の価格の上昇から利益を得 る。 売建玉は、買戻しまたは受渡しによって手仕舞いされていない売付けを意味する。売建玉 38
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- 第3章 会計、証拠およびレバレッジ
図表3. 1 買建玉先物ポジションのペイオフのダイアグラム
利益
先物価格(-)変化
0
45℃
先物価格(+)変化
損失
の保有者は受け渡す(または差金決済契約においては、金銭で債務を同様に決済する。 )義 務を負っているが、受渡期日前に、先物市場において、そのポジションを相殺することがで きる。売建玉はその契約の価格の下落から利益を得る。 スペキュレーターもヘッジャーも、多くの投資家は、受渡期日前に、彼らの先物ポジショ ンを相殺する。しかし、受渡しまたは差金決済を最終的に強制されることは、先物契約に原 資産であるコモディティまたは商品に応じた現在市場価値を与える。これらの現物市場/先 物市場間の価格の関係は後の章において検討される。 買建玉であれ、売建玉であれ、先物ポジションの保有者は、その先物契約の価格変動と完 全に連動する。この価格変動の効果は、動きの方向およびポジションが買建玉であるか売建 玉であるかによって、利益または損失となる。ニューヨーク・マーカンタイル取引所 (NYMEX:New York Mercantile Exchange)原油(1契約当り 1,000 バレル)の4月限買 建玉1契約を有するトレーダーは、契約価格が1バレル当り 50 セント上昇すれば、500 ド ルの利益を得る。売建玉を有するトレーダーは、これに対応する 500 ドルの損失を被る。 買建玉先物ポジションについての潜在的損益を検討するために、図表3. 1に示されてい る、そのようなポジションのペイオフのダイアグラムを見てみよう。縦軸は、横軸で示され た異なるレベルの先物価格に対応する、先物契約の利益または損失を意味する。この損益は、 39
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- ページ: 40
- 図表3. 2 売建玉先物ポジションのペイオフのダイアグラム
利益
先物価格(-)変化
45℃
0
先物価格(+)変化
損失
契約が開始されたときの価格(図表3. 1の原点またはポイント0)の上または下にある先 物契約の価格の変化に1対1で変化する。この損益は、45 度の角度で引かれるペイオフの 矢印によって表される。したがって、契約が締結されたときの価格から、先物価格が1単位 下落すると、買建玉保有者には1単位の損失が生ずる。当初価格から、先物価格が2単位上 昇すると、買建玉保有者には2単位の利益が生ずる。 売建玉先物ポジションのペイオフまたは損益のダイアグラムは図表3. 2に示されている。 横軸と縦軸は、買建玉先物ポジションのそれらと同じで、ペイオフの矢印は 45 度の角度を 保っていることから、先物価格の変化と損益の変化が1対1で対応していることを表してい る。しかし、矢印の向きが 90 度、変化または回転している。売建玉先物ポジションの場合 には、先物価格が当初価格から上昇すれば、1対1の損失が生じ、先物価格が当初価格から 下落すれば、1対1の利益または利得が生ずる。
利益または損失の計算
賢明な投資家は、継続的に先物ポジションを清算したとすれば生ずる、その未実現損益を 算定し、常にすべての未決済ポジションの状況を把握する。 それにはいくつかの方法がある。
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- 第3章 会計、証拠およびレバレッジ
通常の算定方法
砂糖:100 ポンド当り 8.48 ドルまたは1ポンド当り 8.48 セント 金: 1オンス当り 355.00 ドル あるトレーダーがニューヨーク商品取引所(NYBOT:New York Board of Trade)の砂糖 #11 を 契 約 価 格 8.48 ド ル で 1 契 約 買 付 け し、 ニ ュ ー ヨ ー ク・ マ ー カ ン タ イ ル 取 引 所 (COMEX division)の金を契約価格 355.00 ドルで2契約売付けしたとしよう。砂糖 #11 の 1契約は 112,000 ポンドからなり、COMEX(ニューヨーク商品取引所の愛称)金の1契約 は 100 トロイオンスからなる。口座の現在の状況を計算するためには、顧客は、関与して いる契約の規模とその価格がどのように表示されているかの両方を知らなければならない。 翌日、砂糖は 8.98 ドルで、金は 351.00 ドルで決済されるとすると、未実現利益は以下 のように計算できる: 砂糖 決済価格に基づく価値: (112,000 x .0898) = $ 10,057.60 (買建て)買いの価値: (112,000 x .0848) = $ 9,497.60 未実現利益/(損失) 金 (売建て)売りの価値: (200 x 355.00) = $ 71,000.00 決済価格に基づく価値: (200 x 351.00) = $ 70,200.00 未実現 利益/(損失) $ 800.00 $ 560.00
この方法は正しい答えをもたらすが、効率的ではない。この方法で計算するには、契約の 数と価格に加え、契約当りの数量と価格表示を知っていなければならない。特定のコモディ ティの単位は、オンス、ポンド、ブッシェル、トン、その他の重量または数量の測定単位で ある。価格は、1単位または複数の単位当り、ドルもしくはセントまたはその両方で値付け られていることがある。現物コモディティ、ならびに米国および海外の市場で取引されてい る金融商品の何百もの先物については、多様な単位、1契約当りの数量および価格表示の可 能性は多い。
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- ポイント算定法
この方法は1契約当り数量と価格表示という2つの要素を1つに結合する。砂糖の契約に おける1セントの変化は、たとえば、112,000 lbs. x $.01 である 1120 ドルを表す。した がって、100 分の1、すなわち、砂糖の最低価格変動である 11.20 ドルが1ポイントの価 値である。このポイント・バリュー(1ポイントの価値)と 100 ポンド当り 8.48 ドル、つ まり、1ベーシス・ポイント(1bp)当り 8.48 の積が砂糖の買いまたは売りの価値である: 決済価格に基づく価値: $11.20 x 898 points = $ 10,057.60 (買建て)買いの価値: $11.20 x 848 points = $ 9,497.60 未実現利益/(損失) $11.20 x 50 points = $ 560.00
同様に、このポイント・バリューとポイントの差の積が未実現損益である。このアプロー チは、単純に全部の価値を計算することを回避し、ポイントでの価格差のみを用いて誰でも 損益を計算できる。 金のポイント・バリューは 1.00 ドルに等しいので、前の例における顧客の売建玉は、2 契約 x $1.00 x 400 points、すなわち、800 ポイントまたは 800 ドルの未実現利益を有する。 (売建て)売りの価値: 2 x $1 x 35,500 points = $ 71,000.00 決済価格に基づく価値: 2 x $1 x 35,100 points = $ 70,200.00 未実現利益/(損失) 2 x $1 x 400 points = $ 800.00
砂糖および金における利益のこの再計算では、ポイント・バリューを知っていれば、1契 約当りの数量および価格における小数点の位置を知る必要がないことは明らかだ。 特に、コモディティの場合は: ◦コモディティがセントまたはドルとセントで値付けされているときには、小数点の右の 最後の桁によって表される1ポイントは “ 1” の価格増分である。たとえば、金の1単 位当りの価格がドルとセントで値付けされている場合には;小数点の後に2桁あり、最 後の桁は常に0である。したがって、1の価格または1ポイントの 10 進相当は .10 ド ルである。 ◦コモディティが整数のドルでのみ値付けされているときは、最後の桁によって表される 1ポイントは “ 1” の価格増分である。たとえば、ココアの価格は整数(たとえば、ト 42
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- ページ: 43
- 第3章 会計、証拠およびレバレッジ
ン当りドル)で値付けされている。この場合には、1の価格増分の 10 進相当は 10 ト ンの1契約当り 10.00 ドルとなる。 “ 1の価格増分の 10 進相当 ” の結果と “ 契約当り数量 ” がポイント・バリューである。 長期国債(米国) (および他の金融商品)の最低価格変動はしばしばティック(tick)と いわれる。この場合、1ポイントの動きはハンドル(handle)の変化である。すなわち、 1/32 =最低価格変動=1tick 32/32 =1point(1ハンドルまたは1フルポイント) たとえば、9月米国長期国債が 95
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/32 から 96 7/32 の間で取引されていたとすれば、こ
れは 20 ティックの取引レンジを表す。95 16/32 から 97 8/32 の取引レンジは1フルポイント を超えるレンジ、すなわち、1ポイントと4分の3を表す。 1ポイントは、必ずしも、すべてのコモディティにおける最低価格変動ではない。たとえ ば、すべての家畜および畜産物先物において、最低変動は 2 1/2 ポイントである。1/2 の端数 は価格表示からは省略されるが、価格の一部であると考えられている;.4492 および .4497 のような価格は、実際には .4492 1/2 および .4497 1/2 である。IFM(Institute for Financial Markets)から入手可能な『The Futures & Options Factbook』では、すべての先物および オプション契約についての最小価格の変化を記載している。
先物口座の評価
商品取引員(Future Commission Merchant.以下「FCM」という)は、顧客の活動を記 録し、買建玉および売建玉を追跡し、顧客口座の価値を計算して清算機関(クリアリングハ ウス)と突き合わせるために、毎日多くの計算を行う。これらの計算は、未決済のポジショ ン、相殺された契約および口座価値の現金およびネット価値部分の取扱いを含む。これらす べての合計額は、毎日の決済価格に基づく、口座の正味財産または価値である。FCM は顧 客に対する義務として財務的責任を負っており、したがって、その顧客の口座が常に財務的 に健全であることを保証しなければならないことを認識することが重要である。
未決済ポジション
取引日の終わりに、未決済ポジションは、すべて値洗いされる。未決済の買建玉または売 建玉の価格と決済価格との差は、紙上の損益または未実現損益を決定する。
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- ページ: 44
- 契約が未決済である日は毎日、FCM は、その日の決済価格に基づいて未実現損益を再計 算する。新たな未決済建玉もこの計算の一部となる。この過程は、FCM にとって、同様に、 清算機関にとって、利益と損失がまだ実現していなくとも、トレーダーの資本を、日々、判 定することを可能にする。以前未決済であっても相殺された契約はすべて、すでに実現して いるので、未実現損益から除かれる。
手仕舞い、または相殺されたポジション
ある未決済の契約が相殺されたときに、損益は実現する。この実現損益は、キャッシュに は記帳されない値洗い評価である未実現損益とは異なり、口座のキャッシュ・バランスに借 記または貸記される。この時点で、FCM は、手仕舞われた取引の売り側と買い側をまとめ、 そのポジションについての最終的な実現損益の計算を示す売買計算書(P&S:Purchase and Sale Statement)を発行する。 その名称が示唆するように、売買計算書は会計上の記帳の証拠として、顧客に送付するこ とを目的としたステートメントである。現在では、多くの会社はこのステートメントを新し い取引、預託および引出しのような他の情報を含む一般的な日次取引残高報告書に組み込ん でいる。
正味財産
正味財産は、毎日の決済価格を通じた先物口座のネットの価値と定義することができる。 それはまた、“ 元金 ” と呼ぶことができる。正味財産には、通常、負担するかもしれないが まだ徴収されていない手数料は反映されていないものの、これは、仮にすべてのポジション が決済価格で相殺されたならば、その口座が有する価値である。 正味財産=キャッシュ・バランス +/- 未実現損益 キャッシュ・バランスは、預託、引出しおよび実現損益をネットしたものである。売買計 算書からの実現損益の数値はこの数値に加算され、または、この数値から減算される。未実 現損益は、現在のところ未決済であって値洗いされた契約のネットの状態である。
手数料
先物取引を行うための顧客の口座に対する請求は手数料として知られている。それぞれの FCM はその顧客に請求する手数料を決定する。一般的な手数料率や特定の顧客と取り決め る料率を設定するにあたって、ブローカー会社が考慮に入れるファクターには、取引のタイ 44
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- ページ: 45
- 第3章 会計、証拠およびレバレッジ
プ、注文のサイズ、口座のサイズ、特定の口座を扱うリスクおよび提供される他のサービス がある。この収入から、FCM は、フロア・ブローカレッジの費用、取引所手数料、運用お よび管理部門の従業員の給与、通信費、調査費用および家賃、ならびに営業担当者の手数料 収入を賄わなければならない。 大多数の米国の先物ブローカー会社は、先物について往復の料率を請求する。これは、先 物ポジションの建て(entering)と落ち(offsetting) 、すなわち、往復について請求される 単一の手数料を意味する。会社は、往復の手数料の半分を先物ポジションを建てるときに請 求し、残りの半分をポジションが手仕舞われたときに請求することがある。この2つの方法 は、会社とトレーダーにとって異なるキャッシュフローをもたらす。採用する方法によって、 手数料の請求は、取引を建て、かつ、相殺した後に発行される顧客の確認書に示されたり、 すべての手仕舞い取引の後に発行される売買計算書に示されることもある。その額は、顧客 の口座に1回(全額を)または2回(それぞれ2分の1ずつ)借記される。この借記は、も ちろん、取引に係る顧客の利益を減少させ、または損失を増加させる。 先物の手数料は、片道または相殺時に全額請求されるが、オプションに対する手数料は、 典型的には、片道またはポジションを建てたときに全額請求される。第6章で検討するよう に、オプションのポジションについては反対取引が必ずしも存在しないため、このようにさ れる。
口座報告書
取引が生ずるときは、それが開始取引であれ、手仕舞う取引であれ、取引確認は顧客に送 付されなければならない。実務では、顧客がその口座の現状をモニターするのに必要な、す べての情報を提供する口座報告書または日次計算書の一部として取引確認を発行することと なっている。口座報告書は、図表3. 3の典型的な口座報告書に示されるように、5つのカ テゴリーで現在の財務的情報を提供する。 1.キャッシュ・バランス。これは、キャッシュ取引(入金および出金) 、手仕舞った先 物取引についての実現損益(売買計算書から) 、買い建てたおよび/または売り建て たオプション、ならびに関連する手数料についての情報を含む。 2.先物未決済評価損益(未実現損益) 。これは、決済価格を用いて値洗いされた未決済 先物ポジションについて生じている未実現損益をいう。 3.正味財産総額。これは、キャッシュ・バランスと先物未決済評価損益を合わせたもの である。 45
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- ページ: 46
- 図表3. 3 口座報告書兼コモディティ計算書
Ev Re Trader 123 Main Street Localville, ll 60600
課税申告用 日時
一任勘定
August 28, 20XX 口座番号 123456 総計
日時
買
売
コモディティ/オプション 銘柄
約定価格
借方
貸方 1,447.16
分別管理された資金必要額(預かり金)
8/25/XX ACCOUNT BALANCE
分別管理された資金必要額(預かり金)
C O N F I R M A T I O N WE HAVE MADE THIS DAY THE FOLLOWING TRADES FOR YOUR ACCOUNT AND RISK 2 2* 1 1 2* DEC XX J-YEN MCE DEC XX MCE T-BOND DEC XX MCE T-BOND DEC XX MCE T-BOND P U R C H A S E & S A L E 8/27/XX 8/28/XX 1 1* 1 1* DEC XX J-YEN MCE DEC XX J-YEN MCE .94640 .94260 P&S COMM FEE DEC XX MCE T-BOND 99.11 DEC XX MCE T-BOND 99.12 DEC XX MCE T-BOND 99.14 P&S COMM FEE TOTAL COMMISSION & FEES NET PROFIT OR LOSS FROM FUTURES
分別管理された資金必要額(預かり金)
.94260 99.11 99.12 99.14
2
2*
8/28/XX 8/28/XX 8/28/XX
2
237.50 18.00 1.20
2*
1 1 2*
36.00 2.40 57.60* 232.62*
62.48
CURRENT ACCOUNT BALANCE
1,214.54
O P E N 8/26/XX 1 1* 1 1* 1 1* 1 1*
P O S I T I O N S 98.23 99.10 670.50 674.35 .90 .50 .94260 .93850 593.75 593.75 1,925.00 1,925.00 250.00 250.00 256.25 256.25 2,262.50 1,047.96 .00 797.96*
VALUE
8/26/XX
8/28/XX
8/28/XX
DEC XX T-BOND OPEN TRADE EQUITY SETTLEMENT PRICE DEC XX NYSE INDEX OPEN TRADE EQUITY SETTLEMENT PRICE DEC XX NYSE INDEX P 162 PREMIUM VALUE SETTLEMENT PRICE DEC XX J-YEN MCE OPEN TRADE EQUITY SETTLEMENT PRICE TOTAL OPEN TRADE EQUITY TOTAL EQUITY TOTAL LONG OPTION MARKET VALUE TOTAL SHORT OPTION MARKET VALUE NET LIQUIDATING VALUE
SECURITIES ON DEPOSIT
250.00
MATURITY
11/03/XX
10,000
US TREASURY BILL
TOTAL
9,820.28 9,820.28
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- ページ: 47
- 第3章 会計、証拠およびレバレッジ
図表3. 4 月次取引残高報告書/残高と未決済ポジション
Ev Re Trader 123 Main Street Localville, ll 60600
課税申告用 日時
月次取引残高報告書 残高と未決済ポジション
October 31, 20XX 口座番号 123456 総計
日時
買
売
コモディティ/オプション 銘柄
約定価格
借方
貸方
9/29/XX 10/25/XX
BALANCE FORWARD SEGREGATED FUNDS US$ 1 1 長期国債 12 月限 P & S COMM 19.20 50.00 20.35 312.50 19.20
10,0000.00 625.00
10/25/XX
1
1
DEC XX NYSE INDEX
P & S COMM
10/25/XX
1
1
DEC XX J-YEN MCE
P & S COMM
10/25/XX
1
1
DEC XX NYSE INDEX
P & S COMM 20.35
1,700.00
10/26/XX
1
1
DEC XX J-YEN MCE
P & S COMM 19.20 187.50 19.20
393.75
10/29/XX
1
1
DEC XX J-YEN MCE
P & S COMM
10/31/XX
1
1
DEC XX J-YEN MCE
P & S COMM 19.20
512.50
10/31/XX ACCOUNT BALANCE SEGREGATED FUNDS US$ NET FUTURES GAIN FOR MONTH NET PREMIUMS PAID / RECEIVED FOR MONTH O P E N 10/25/XX 10/26/XX 10/31/XX 1 1* 1 1* 1 1* P O S I T I O N S 99.28 100.03 670.50 669.30 .93950 .93700 600.00 600.00* 156.25 156.25* 537.50 2,544.55 0.00
12,544.55
長期国債 12 月限 OPEN TRADE EQUITY DEC XX NYSE INDEX OPEN TRADE EQUITY DEC XX J-YEN MCE OPEN TRADE EQUITY TOTAL OPEN TRADE EQUITY TOTAL EQUITY TOTAL LONG MARKET VALUE TOTAL SHORT MARKET VALUE NET LIQUIDATION VALUE
218.75 218.75*
12,007.05 .00 .00 12,007.05
SECURITIES ON DEPOSIT
VALUE
.00
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- ページ: 48
- 4.ネット清算価値。このカテゴリーは、正味財産総額とネット・オプション価値といわ れる、すべての未決済の買建てまたは売建てのオプションのポジションのネットの現 在価値とを合わせたものである。 5.代用有価証券。 オプションはその性質上、若干異なる取り扱いが必要とされる商品である。米国方式では、 先物オプションは取引時に買い手から売り手に対するすべてのプレミアムの支払いを伴う。 そのような未決済のオプション取引の収益性を追及するために、オプションの現在市場価格 に基づいて、どんなプレミアムが(売建玉オプションポジションを清算するために)支払わ れるか、または(買建玉オプションポジションを清算するために)受け取られるか、を反映 するために、ある価値がそのポジションに上乗せされる。この価値はネット・オプション価 値と呼ばれ、口座のネット清算価値を得るために、正味財産に加算される。 毎月末直後に顧客に送付される月次報告書(図表3. 4を参照)は、その月の間の口座の 入出金と月末における口座の状況をまとめている。報告書には、取引、借方と貸方、ならび に月末における未決済のポジションおよびそれらのポジションについての未実現損益を含む、 すべての動きが一覧表にされている。この計算書には、また、月初と月末における残高が示 されている。 ある先物口座は、外国の先物取引所で取引されているもの、先物に対して受渡しがされる ものなどに細分割される。これは、法的な要求事項を満たし、一定の記帳上の効率性を与え るために行われる。
先物証拠金
先物証拠金は、契約を締結するトレーダーの義務の履行を確実にするために預託される取 引証拠金(good faith deposit)―一種の保証ボンド―である。証拠金は市場で取引を行う ためのリスク保険である。証拠金の差入れは、トレーダー(ブローカー業者およびその他の 清算会員)が締結した契約の相手方となる、または、その背後にいる他の者を保護し、その 結果、市場が円滑で効率的な機能を確保できる経済的機能を有する。 必要証拠金は取引所およびその清算機関によって定められ、かつ、ある特定の時点のある 特定の市場に内在するリスクに応じて、時とともに変化する。 先物市場では、通常、すべての取引が証拠金を差し入れて行われているということを理解 することが重要である。先物証拠金は株式の信用買いと混同されてはならない。両者とも資 産価値の全額より少ない預託金を伴った取引を含むが、株式証拠金は株式買付け者による最 48
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- ページ: 49
- 第3章 会計、証拠およびレバレッジ
低割合の頭金を含み、株式の残りのコストは借入れによってカバーされ、残高に対して利息 が支払われる。これに対して、先物証拠金は契約額の頭金ではなく、 「取引証拠金」または 証拠金(earnest money)である;これと整合的に、先物の顧客は、契約額の残高に対して 利子を払うことは求められない。先物市場においては、原資産であるコモディティまたは商 品の現実の受渡しがあったときに限り、契約額の全額が支払われる。 先物のトレーダーは、契約を締結するときに、その契約後の履行を確保するために証拠金 を預託する。先物契約を値洗いする過程は、日々、契約から生ずる利益および損失が支払わ れることを確実にする。決済で利益が生じれば、この利益は顧客に支払われることがある。 決済で損失が生じれば、顧客は、その損失の全責任を負う。損失が預託している証拠金額よ りも大きいときには、顧客は差額を埋めること、そして、未決済のポジションについて要求 されている証拠金を回復することが求められる。証拠金の預託は、つまり、買い手、売り手 および口座管理営業員にとって、日々適切な決済がなされるよう、個々の顧客口座に十分な 資金があるようにするための安全策である。その後、契約が相殺されたときに顧客と実現損 益として決済されるのは買付価格と売付価格との差額である。 証券先物取引(security futures)を除き、FCM の顧客に適用される最低証拠金率は、先 物およびオプション契約ごとに、その契約が取引される取引所の清算機関委員会によって定 められる。証券先物については、 (当初証拠金も維持証拠金も)最低顧客証拠金は制定法な らびに証券取引委員会および商品先物取引委員会の規則によって定められる。証券先物取引 以外の契約に対して要求される顧客当初証拠金の額は、取引所によっていつでも変更されう る。このような証拠金の水準の調整は、通常、価格のボラティリティの変化を反映している。 当初証拠金率は0という低率になることもあれば(たとえば、特定のスプレッド・ポジ ションの場合) 、契約額全額と同じくらい高くなることもある(たとえば、契約の緊急清算 が行われている間) 。しかし、1契約当りの当初証拠金は 1,000 ドルから 3,000 ドルである ことが一般的である。先物契約の価値総額はその当初証拠金の水準に影響を与えるが、価格 のボラティリティがこれらの要求水準を定める際の最も重要なファクターである。 証券先物取引における連邦最低証拠金は契約額に対する割合として定められるのに対し、 先物取引所は、前述した例のように、証拠金必要額を1契約当りドルで定める。このシステ ムによって先物の顧客が利用可能となるレバレッジを示すために、すべての先物契約につい て求められている証拠金の預託と取引されている契約額を比較して検討することはためにな る。図表3. 5には、先物証拠金のレバレッジ効果を示す一連の計算が含まれている。
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- ページ: 50
- 図表3. 5 先物取引のレバレッジ
10 年米国債先物
当初証拠金必要額 $2,000 買い値 売り値 グロス利得(ポイント) グロス利得(ドル) 100-16 = 100 101-08 = 101
16 08
/32 /32
= 24/32 = 24/32 x 1% x $100,000 = $750
ネット利得(グロス利得−手数料) = $750 − $35 = $715 ネット利得率(価格ベース) = $715 ÷ 100,500 = .71% ネット利得率(当初証拠金預託額ベース) = $715 ÷ $2,000 = 35.75%
先物契約の買い手も売り手も定められた当初証拠金をそれぞれのブローカーに預託するこ とが求められ、買建玉または売建玉について要求される証拠金の額には差がない(後の章で 検討するように、買建玉および売建玉オプションポジションのリスクは非対称的であるため、 買建玉および売建玉オプションポジションは証拠金について異なる取扱いを受ける) 。 ブローカーによって顧客に要求される1契約当りの証拠金額は取引所が定めた額よりも高 いことはあるが、低いことはない。口座管理ブローカーが、関連するより大きな財務的損失 に対する十分な安全策を設けるため、大規模または集中したポジションをもつ顧客口座に対 して、より高い1契約当りの証拠金を要求することはめずらしいことではない。 FCM は、通常、その営業担当者に配布するために、証拠金の一覧表を公表する。その一 覧表は取引所および清算機関の委託証拠金を含む。
清算機関と業者間の証拠金
清算機関はその清算会員すべてのポジションを保有している。顧客を有する個々の清算会 員について、清算機関は2つの口座を設けている。顧客口座と自己(proprietary)口座で ある。ある取引所は清算会員にすべての顧客のグロスのポジションをカバーする当初証拠金 を預託することを要求する。すなわち、すべての買建玉の総額をカバーするための証拠金が 要求され、すべての売建玉の総額をカバーするための追加証拠金が要求される。他の取引所 は、ある業者の顧客が保有するある特定の市場および限月のすべての買建玉とすべての売建 玉との差に基づいて、当初証拠金が定められるというネット・アプローチを用いている。シ カゴ・マーカンタイル取引所およびニューヨーク・マーカンタイル取引所は、その清算会員 50
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- ページ: 51
- 第3章 会計、証拠およびレバレッジ
に対してグロスでの証拠金を要求する。そして、CBOT およびニューヨーク商品取引所は、 その清算会員に対してネットでの証拠金を要求する。
顧客証拠金
取引所が顧客の最低証拠金率を設定するときには、通常、その取引所の先物市場ごとに当 初証拠金および維持証拠金の水準を設定する。いくつかの取引所において、ヘッジ口座につ いては、当初証拠金および維持証拠金の率が同じ時がある。しかし、大多数の契約について は、取引が開始されるときに預託されるべき証拠金額(当初証拠金)と、顧客が未決済のポ ジションを裏付けるために、常にその口座に維持すべき最低証拠金額(維持証拠金)との間 には差がある。 たとえば、ニューヨーク・マーカンタイル取引所は、銀先物取引について1契約当り 1,000 ドルの当初証拠金を設定することがあるが、取引所規則が定める最低維持証拠金は当 初証拠金の 75%または1契約当り 750 ドルである。顧客が銀先物契約を買付けまたは売付 けする希望を示したときには、口座管理ブローカーから1契約当り 1,000 ドル以上の当初 証拠金を預託することを求められる(口座管理ブローカーが定める料率がより高い場合には、 それよりも多額であることがある。 ) 。そして、維持証拠金水準の 750 ドルに至るまで、銀 市場が1オンス当り5セント(5,000 オンスの1契約当り 250 ドル) 、顧客に不利に動くこ とがありうる。この例においては、顧客の持ち分が1契約当り 750 ドル以上である限り、 さらに証拠金を預託することは求められない。他方、銀先物ポジションが未決済であるにも かかわらず、ある顧客の正味財産が、ある日(顧客の証拠金の状況が決定される日)の引け において 750 ドル未満に低下したとすると、ブローカーはその顧客に対し、少なくとも正 味財産を回復するのに十分な証拠金の追加(当初証拠金レベルである1契約当り 1,000 ド ルまで)を要求するであろう。 先物当初証拠金の預託のために、現金の代わりに他の手段が利用されることがある。現金 の最も一般的な代替手段は米国長期国債であり、これによって顧客は、先物取引のために FCM に証券を預託しつつ、米国長期国債の利息を稼得することができる。当初証拠金とし て受け入れられる他の手段に、信用状や倉庫証券が含まれることがある。これらの受入れや 取扱いは取引所ごとに異なる。当初証拠金として現金が用いられない場合であっても、すべ ての損失は日々の値洗いを通じて、現金の預託によって埋め合わさなければならない。 顧客証拠金率を設定するにあたって、多くのファクターが取引所によって考慮に入れられ る。証拠金を要求することの基本的な狙いは、取引所および取引所の会員、清算機関、FCM、 そして、究極的には、その市場を利用する顧客やトレーダーのような、金融リスクにさらさ 51
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- れるすべての者を保護することにあることを覚えておく必要がある。 最初に考えなければならないのは、口座を管理する清算会員が、その顧客の未決済契約を 保護するために清算機関に預託しなければならない1契約当りの証拠金の額である。一般に、 取引所が顧客の当初証拠金として設定する額は清算機関がその会員に対して要求する当初証 拠金よりも大きい。 第2に考えなければならないことは、証拠金の対象となっている契約の現在の価格ボラ ティリティ(一定期間における価格の変動)である。特定期間にわたる先物契約の値幅は、 未決済契約のある顧客を保証する際に会社が引き受けるリスクのように、こうした期間に契 約を保有することで引き受けられるリスクをよく表している。価格が毎日かなり広い範囲で 変動するときには、当初証拠金率を価格ボラティリティが低い契約よりも高く設定するのが ふつうである。清算機関は、清算会員について証拠金の水準を設定するにあたっても、その ような価格ボラティリティを考慮に入れる。 第3に考えなければならないことは、当該顧客ポジションの種類である。たとえば、取引 所はヘッジ目的行為者のポジションに対する当初証拠金を、投機者のポジションに対する当 初証拠金よりも低く設定するのがふつうである。一般に、ヘッジ目的行為者は在庫の価値を 維持し、または先渡売付けまたは直物の売持ちに対して買建玉を引き受けている。そのうえ、 ヘッジ目的行為者は現物市場に参加している先物市場においてのみ活動している。 最終的に、必要性になったときは、ヘッジ顧客はコモディティの現物を引き渡すか、また は受け入れるためにスペキュレーターよりも、態勢が整っている場合が多い。
オプションを含むポートフォリオについての証拠金
委託証拠金は、未決済の個々の契約の証拠金を単に集計したものというより、トレーダー が有するすべてのポジションの全体的なリスクと価値をますます反映するようになっている。 この変化は、主に、オプションおよび先物ポジションに対する合理的な証拠金を設定する必 要性を反映している。しかし、さまざまなタイプのオプションのポジション(そして、先物 およびオプションを組み合わせたポジション)に固有のリスクは、先物のみを保有するリス クに比べて評価がはるかに複雑である(オプションについては第6章を参照) 。 リスク評価に基づいて証拠金の水準を設定することは、先物に関してはかなり簡単である。 単一の市場におけるアウトライト・ポジションについては、ポジションが大きければ大きい ほど、エクスポージャーが大きく、プロテクションのために要求される証拠金は大きくなる。 52
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- 第3章 会計、証拠およびレバレッジ
しなければならないことは、一定の期間(通常は1日)に生ずる可能性がある市場における 最大変動を設定し、保有している契約数で調整することである。 このようなリスク評価は、オプションや多くの市場におけるポジションを含むポートフォ リオについては、はるかに難しい。オプションのリスクにおける重要な事実は、オプション のプレミアムまたは価格が、原資産である先物価格の変動と足並みをそろえて動かないとい うことである。売建玉オプションポジションは、原資産の価格がポジションに不利に変動す ると、ますます危険を伴いうる。そのうえ、オプションと先物とのある組合せはネットのリ スクを増加させるが、他の組合せはネットのリスクを減少させる。物事をさらに複雑にする のは、オプションの価格が原資産である先物価格の関数であるだけではなく、原資産である 先物価格のボラティリティおよびオプションの行使期限までの残存期間のような、他のファ クターの関数でもあるということである。 オプションを含むポートフォリオのリスクが、多くのファクターに左右され複雑に変化し うるという事実を反映した、委託証拠金へのアプローチが生まれた。現在、このアプローチ には、異なった取引所によって採用されているいくつかのバリエーションがある。多くの取 引所は、ポートフォリオを基準にしてリスクを決定する、SPAN(リスクの標準的ポート フォリオ分析を意味する、シカゴ・マーカンタイル取引所の登録商標)に似た証拠金賦課シ ステムを用いている。このアプローチは、さまざまなシナリオのもとでの顧客口座の価値の 写真またはスナップショットを撮り、そのシナリオのもとでポートフォリオの価値に何が起 きているか、その概要に基づいて、口座またはポートフォリオのリスクを決定する。ポート フォリオの委託証拠金を決定するこのようなシステムは、ネット清算価値とリスクという2 つの要素がある。
SPAN の委託証拠金に関するネット清算価値の構成要素
本章ですでに述べたように、先物ポートフォリオにおける正味財産はその所有者にとって のその価値を表している。つまり、それは口座にある金銭(現金または計算上の損益額)お よび未決済先物ポジションに係る未実現損益(計算上の損益額)である。先物について口座 価値をこの方法で算定することは適切であるが、このようなアプローチは単体でも、先物と 結合していても、オプションのポジションの価値を十分には反映していない。オプションの 買いは、買い時点で口座のキャッシュ・バランスを減少させ、オプションの売り手は売り時 点で現金の増加を享受する(先物は、開始時ではなく、ポジションの相殺時に現金の増減を 生ずることに留意すること。 ) 。 オプションを含む口座についての追加的な処置は、買建玉オプションの価値を売建玉オプ 53
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- 図表3. 6 ネット清算価値の計算
未決済先物ポジション Long 3 December crude oil @ 26.30 Short 5 January soybeans @ 4.74 Long 2 December S&P 500 @ 1431.00 先物未実現益(損)合計 未決済オプション・ポジション Long 4 December gold 290 calls Long 2 December silver 5.00 puts Short 5 March T-bond 100 calls Short 2 September S&P 1460 calls 買建玉オプションの市場価値 売建玉オプションの市場価値 ネット・オプション価値 キャッシュ・バランス 先物未実現益(損)合計 正味財産 ネット・オプション価値 ネット清算価値 約定価格 5.20 .12 2-16 33.00 約定価格 26.42 4.79 1/2 1429.20 未実現益(損) $360.00 ($1,375.00) ($900.00) ($1,915.00) オプション価値: 買ポジション(売ポジション) $2,080.00 $1,200.00 ($11,250.00) ($16,500.00) $3,280.00 ($27,750.00) ($24,470.00) $100,000.00 ($1915.00) $98,085.00 ($24,470.00) $73,615.00
ションによって表されている負債と相殺することである。この価値は、ネット・オプション 価値として知られている。したがって、先物およびオプション口座の価値は、ネット清算価 値として知られている正味財産にネット・オプション価値を加えたものに基づいている。こ れらの計算は、図表3. 6に要約されている。
SPAN の委託証拠金に関するリスク・コンポーネント
1998 年の終わりに、シカゴ・マーカンタイル取引所は、オプションの特性を考慮するた め、先物およびオプションに対して証拠金を賦課するためのリスクベースのポートフォリ オ・アプローチである SPAN を開発した。このアプローチは、ボラティリティおよび原資産 である先物契約の、 (価格のある)オプションのポジションのリスクに対する寄与を評価す る。このシステムの目的は、全ポートフォリオに内在するリスクを委託証拠金全体に反映さ せることである。このシステムは、受渡月および限月をまたがり、契約をまたがり、また、 一定の範囲内では取引所をまたがって、市場の反対側のポジションのリスクを削減する可能 性(potential)を認識することによって、これをなそうとしている。その結果が、単一の先 54
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- 第3章 会計、証拠およびレバレッジ
図表3. 7 SPAN 証拠金システムの 16 のシナリオ
シナリオ番号 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 概要 先物価格変動なし;ボラティリティ上昇 先物価格変動なし;ボラティリティ下降 Futures up 1/3 of range;ボラティリティ上昇 Futures up 1/3 of range;ボラティリティ下降 Futures down 1/3 of range;ボラティリティ上昇 Futures down 1/3 of range;ボラティリティ下降 Futures up 2/3 of range;ボラティリティ上昇 Futures up 2/3 of range;ボラティリティ下降 Futures down 2/3 of range;ボラティリティ上昇 Futures down 2/3 of range;ボラティリティ下降 Futures up full range;ボラティリティ上昇 Futures up full range;ボラティリティ下降 Futures down full range;ボラティリティ上昇 Futures down full range;ボラティリティ下降 Futures up extreme move Futures down extreme move
物およびオプションに対して証拠金を賦課するためのリスクベースのポートフォリオ・アプ ローチである。SPAN 証拠金システムは米国の業界標準となった。 このシステムは、原資産である先物価格、ボラティリティおよび残存期間を用いて現在の オプション価値を算定する1つの標準的オプション価格モデルに基づいて、ポートフォリオ の委託証拠金のリスク・コンポーネントを算定する。さらに、このシステムは、先物価格、 ボラティリティおよびオーバーナイト・リスクの起こりうる変化に基づいてオプション価値 を決定するために算定を行う。この結果、通称リスク配列として知られる 16 のリスク値が 得られる。SPAN は、生ずると合理的に予想される重要なパラメーターの一定の変化を前提 として、ポートフォリオ価値の 16 のスナップショットを算定する。続いて、リスク証拠金 を得るために、起こりうるリスクのこれらのスナップショットの中から、最大の潜在的損失 を生じさせるものが精査される。 55
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- 図表3. 8 買持ちの6月限のユーロ・コール・オプションについての SPAN 価値サンプル
列 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 価値 -$ 50 シナリオ 先物価格変動なし;ボラティリティ上昇 先物価格変動なし;ボラティリティ下降 Futures up 1/3 of range;ボラティリティ上昇 Futures up 1/3 of range;ボラティリティ下降 Futures down 1/3 of range;ボラティリティ上昇 Futures down 1/3 of range;ボラティリティ下降 Futures up 2/3 of range;ボラティリティ上昇 Futures up 2/3 of range;ボラティリティ下降 Futures down 2/3 of range;ボラティリティ上昇 Futures down 2/3 of range;ボラティリティ下降 Futures up full range;ボラティリティ上昇 Futures up full range;ボラティリティ下降 Futures down full range;ボラティリティ上昇 Futures down full range;ボラティリティ下降 Futures up extreme move Futures down extreme move
$ 110 -$ 420 -$ 250 $ 260 $ 420 -$ 830 -$ 680 $ 520 $ 670 -$1290 -$1150 $ 730 $ 860 -$ 890 $ 570
合理的に予想される成果を予測するために用いられる所定のパラメーターは、概して取引 所または清算機関の証拠金委員会によって定められる。コンピューターによる算定のモデル またはセットは、 16 のスナップショットまたはシナリオを生成する。これらの 16 のスナッ プショットは図表3. 7に示されている。 極端な変動(図表3. 7のシナリオ 15 および 16 における)とは、柔軟な市場の変動であ り、固定されたものではない。しかし、その意図は明確である。つまり、極端で異常ではあ るが、きわめて蓋然性が低いわけではない条件のもとで起こる可能性のあることを反映して いるからである。リスク配列に含まれるすべての価値は、価値の減少という形で表現される。 16 の中で最も大きな正の数が最大の損失であり、最も大きな負の数が最大の利得である。 したがって、最も大きな正の数がリスク配列で表わされる契約における買ポジションをス キャンリスクで表し、最も大きな負の数がリスク配列で表わされる契約における売ポジショ 56
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- 第3章 会計、証拠およびレバレッジ
ンをスキャンリスクで表す。図表3. 8は、買持ちの6月限のユーロ・コール・オプション におけるリスク配列サンプルに関して具体的な例を示している。 2種類以上のオプション契約を含む複雑なポートフォリオのリスクを決定するために、リ スク配列は、価値がシナリオごとに集計されうるように――並べられ、行をまたいで合計さ れ――結合される。次に、ポートフォリオ・リスクに対する 16 のシナリオのうち最も大き なリスクを採用して、ポートフォリオ全体に対する合成リスク配列について、スキャン機能 が、実行される。 前述したように、ポートフォリオ証拠金はネット清算価値とリスクという2つの要素から なる。ポートフォリオに対する証拠金賦課モデルは、後に、委託証拠金額を得るためにポー トフォリオのネット清算価値と比較されるリスク・コンポーネントを算定する。仮に、ネッ ト清算価値がリスク・コンポーネントの算定によって決定されるリスク要求より大きいなら ば、口座には証拠金の余剰があるため、この場合には、そのポートフォリオには追加証拠金 は要求されない。他方、仮に、口座のネット清算価値がリスク要求を下回ったならば、その 口座は証拠金不足のため、追加的資金を預託することを求めるマージン・コールが発せられ る。
考えてみよう
近年、先物取引所の統合が加速化している。さらに、取引所の間で、清算機関機能の統合 が検討されている。先物清算機関が1つになることの取引コスト、および委託証拠金のよう なものに対するインパクトはどのようなものか。これは業界における財務の安定性に悪影響 を与えるか。株式オプションを取り扱う米国のすべての取引所が同じ清算機関を有している ことを考慮すると、それぞれの先物取引所が独自の清算機関を有しているのはなぜだと思う か。
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- FUTURES & OPTIONS
第4章 先物を取引する
◦ 一般社団法人金融先物取引業協会 元調査部長 宮崎雅雄
この章を読み終えると、以下のことができるようになる。 ◦先物取引の価格および他の日次統計を解釈する ◦先物注文に含まれるであろう情報を列挙する ◦さまざまな先物注文およびトレーダーによるそれらの用途を説明する
先物価格表を読む
価格は先物市場が生み出す統計値であり、先物価格は日刊紙等さまざまな情報源から入手 可能である。ほとんどの場合、取引量と未決済建玉も併せて報告される。ニュースサービス と新聞の表示方法は様々なので、一般的な価格表を図表4. 1に示す。 ほぼすべての先物価格表では、左の縦列は受渡月を示す一連の月である。各受渡月の価格 は、図表4. 1のように水平方向に表示される。各市場のデータの一番上の横列は、商品名、 取引を行う取引所、取引単位および価格が提示される単位の情報である。 また、ほとんどの価格表の一番上に見出しがある。一般的に、見出しには商品名あるいは 58
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- 第4章 先物を取引する
図表4. 1 ユーロドル先物の価格表
ユーロドル(CME)100 万ドル;100 万ドルを 100%としたポイントで表示 Open 始値 8月 9月 10 月 11 月 12 月 93.25 93.19 93.08 93.05 93.02 High 高値 93.27 93.23 93.08 93.06 93.06 93.10 Low 安値 93.25 93.19 93.08 93.05 93.01 93.05 93.03 93.03 Settle Chang Settle Yield Change Open Interest 清算価格 前日比 清算価格 利回り前日比 未決済建玉 93.27 93.22 93.08 93.05 93.05 93.09 93.08 93.07 + .01 + .03 + .03 + .04 + .03 + .04 + .04 + .04 6.73 6.78 6.92 6.95 6.95 6.91 6.92 6.93 ー .01 ー .03 ー .03 ー .04 ー .03 ー .04 ー .04 ー .04 25,649 610,519 7,648 477 554,483 440,282 287,215 221,916
3月 04 93.05 6月 9月
93.04 93.09 93.03 93.08
推定取引量 323,302 枚;取引量 火曜日 302,805 枚;未決済建玉 3,193,521 枚、+ 8,118 枚 (出典)Wall Street Journal
商品名の略称が使われる。 ◦始値:その日の最初の取引の価格または価格帯。多くの出版物では、一定範囲の価格で いくつかの取引があったかどうかにかかわらず、市場の始値または終値だけを印字する。 ◦高値:その取引時間帯で先物契約の最も高い取引価格(最も高い価格よりも高いビッド が、最も高い実際の取引価格の代わりに報告されることが時々あることに留意すべきで ある) 。 ◦安値:その取引時間帯で先物契約の最も低い取引価格(最も低い取引価格よりも低いオ ファーが、時々最も低い実際の取引価格の代わりに報告されることがあることに留意す べきである) 。 ◦終値:市場終了と指定された期間(または終了のコール時)に取引があった価格または 価格帯。終値を省略して、清算価格のみを記載する出版物もある。 ◦清算価格:終了時の価格帯から取引所規則により決定される契約の最終価額、または単 一の価格がある場合は終値。出版物または市場によっては、清算価格が一番上の横列の 見出しとして使用される。他の表では、清算価格を示す小文字「s」を使用されること 59
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- もある。清算価格は、各先物契約の値洗いのため毎日使用される。 ◦利回り、利回り終値、利回り清算価格、利回り前日比または同様の用語の組合せが使用 される金融先物もある:これは、先物提示価格および損益を年率換算した数値である。 ◦上場来高値-安値:契約が取引された最初の日から現在までの各限月について記録され た最も高い価格および最も低い価格。 ◦未決済建玉: (未決済建玉の定義については、第1章の「先物取引の取引高および未決 済建玉(オープン・インタレスト) 」を参照)未決済建玉の報告は、出版物が異なれば、 異なる方法をとる。各市場の限月ごとに未決済建玉を表示する出版物もあれば、すべて の期日の未決済建玉を一緒にして、それに未決済建玉の前取引日からのネットの前日比 も合わせて表示する出版物もある。未決済建玉の算出に必要な帳簿を作成しなければな らないため、活字メディアにとって報告を受けるのが(その日のうちの)遅すぎる時間 になることも多い。したがって、新聞で未決済建玉が報道されるのは、価格報告の翌日 になることがよくある。 ◦取引量: (取引量の定義を見直すならば、第1章の「先物取引の取引高および未決済建 玉(オープン・インタレスト) 」を参照)市場終了後、短時間でその日に取引された枚 数を報告する取引所もある。ただし、取引量集計に必要な帳簿を作成しなければならな いため、報告を受けるのが活字メディアにとって(その日のうちの)遅すぎる時間にな ることも多い。その場合、当該取引所は、一般的に、その日の取引量の推計を発表し、 翌日に「公式の」数量を報告する。
商品および月識別記号
価格報告を単純化するため、特定の商品および限月を特定するための記号が用いられる。 各記号は2つの識別記号から構成される。1つは商品、もう1つは受渡月である。記号の最 初の部分は市場を表し、しばしば容易に特定される略語であるが、市場によっては、記号が、 明瞭ではないこともある。たとえば、 W C LC SP CL GC 小麦 コーン 生牛 S&P 500 原油 金 CBOT CBOT CME CME NYMEX NYMEX
限月を識別するために、標準文字記号が使われる。規則性がないように見えるが、最も早 60
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- 第4章 先物を取引する
く始まった市場(たとえば穀物)に、記号が割り当てられた後に残った文字が割り当てられ る、というのが業界の伝統である。 F G H J K M N O U V X Z 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10 月 11 月 12 月
このように、12 月限小麦(CBOT)の取引は WZ と、7月限原油(NYMEX)の取引は CLN と、3月限 S&P 500(CME)は SPH と表現される。 伝統的に、文字の組合せの2つ目が翌年の限月を示すために使用されてきた。たとえば、 現在の暦年および翌暦年の 12 月限がともに取引される場合、Z以外の文字が期先の 12 月 限を示す。これは、取引所が2年を超えて期先の限月を上場し始めたときまでは十分だった (今日では、とりわけ CME のユーロドルのように、将来の 10 年先まで限月を有する市場も ある) 。 この問題に対し、上に掲げた標準の月識別記号には、しばしば一桁の年識別記号が付され ている。たとえば、2005 年 12 月限 金(NYMEX)は「GCZ5」となる。先物トレーダーは、 これらのより期先の限月を、たとえば、 「赤 12 月限」または「ピンク3月限」のように、 しばしば色を用いて参照する。これは、取引所での価格掲示板の色の影響である。色は、会 員が異なる年の限月と限月を区別する際の手助けとなる。 注:リアルタイムで電子的に価格を提供する多くのサービスでは、さまざまの組合せの銘 柄記号および年識別記号の文字が使用される。しかし、すべては上記の基本的な 12 カ月の月識別記号を使用する。
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- 日次値幅制限
取引所は、しばしば、1日の取引時間帯に先物および先物オプション価格が変動すること ができる範囲に制限を設ける。このような制限は、前日の清算価格に比べた上下ポイント数 で表される。買い手と売り手が価格に関して合意することを想定し、その制限価格では売買 できるが、値幅制限を超えた場合は売買できない。値幅制限により、市場参加者は市場に参 入することについての新たな情報を評価したり適応したりする時間的猶予を与えられ、清算 機関(クリアリングハウス)は状況の変化がもたらす財務上の影響を評価する機会を与えら れる。値幅制限は取引所が変更することが可能であり多くの先物や関連オプション契約は、 現在、値幅制限なしで取引される。IFM(Institute for Financial Markets)が出版する『The Futures & Options Factbook』は、世界中で取引される先物およびオプションに値幅制限が あれば、記載されている。 先物またはオプションの価格が値幅制限に到達する場合、取引はしばしばひどく遅くなり、 その値幅制限またはその値幅制限内で取引しようとする買い手と売り手の意思によっては、 まったく停止する可能性がある。これは、その市場で取引する人々に特別なリスクをもたら しうる。たとえば、価格が「下に下がって制限価格で固定する」または「制限価格でオ ファーする」場合、売り手はいるが、このような低い価格帯の制限価格での買い手はいない。 その結果、市場で買建玉を有し、売りたいトレーダーは売ることができない。さらに、時と して価格は、買い手と売り手が価格に関して合意する水準に到達するまで数日連続して制限 価格まで下がるか、上がるかする。これは、損失を生じさせているポジション(破滅的に費 用がかかる可能性がある状況)を迅速に反対売買することを困難にするか、または不可能に さえするかもしれない。 部分的には、この事象の異常だが高費用となる可能性を認識して、多くの取引所は、先物 およびオプションに値幅制限を設ける方法を修正した。1つの例は、値幅制限の拡大である。 そして、初めに値幅制限まで動いた後の日々における価格変動可能な幅を広げることである。 たとえば、日次値幅制限は、限度まで動いた日の後は 150 パーセントに拡大することがで き、 (第)3日目または(第)4日目にこの措置を解除することができる。値幅制限はボラ ティリティが弱まるとき、通常に戻る。 期日を迎えるまたは期近の先物およびオプション、いわゆる「当限月」契約に関しては、 制限を設けない取引所もある。これは、先物またはオプション契約がきわめて重大な受渡期 間中、日次値幅制限による束縛から開放されている現物市場との経済的な価値の関係を維持 62
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- 第4章 先物を取引する
することを可能にするためである。 株価指数、有価証券の先物およびオプションの場合は、取引所は「サーキット ・ ブレー カー」方式を採用してきた。これは、ニューヨーク証券取引所(NYBOT:New York Board of Trade)の指定するトリガーイベント、とりわけダウ平均株価(DJIA:Dow Jones Industrial Average)の特定の動きに対応して、その日の一定の時間、取引を停止するか、または 取引幅に限度を設けることである。サーキット・ブレーカー方式は値幅制限よりも複雑であ り、これまで時とともに変化してきた。したがって、最新の状況を知るためには、有価証券、 株価指数の先物およびオプションを上場する先物取引所に問い合わせる必要がある。
買い手と売り手の出合い
誰が取引所で取引できるか
上述のように、取引所の会員権または取引特権を保有する者だけが直接取引に参加できる。 そのような会員は、会員権または株式会社化した取引所の取引株を所有する者、また借主で ある。会員が所有するか、あるいは賃貸する取引特権は、その取引所のすべての市場への完 全アクセスを提供できるか、あるいは、一定の市場だけにアクセスできる限定的な特権であ る場合がある。取引所には、会員権の他の権利を有さず、許可保有者に1つの市場へのアク セスのみを認める特別取引許可を交付する取引所もある。これらの取り扱いは、しばしば、 新規の市場または低迷する市場に流動性を生み出すために行われる。 会員制取引所は、その会員権に係る流通市場を保有し、会員および会員権取得に関心をも つ当事者がビッドやオファーを提示することを許可する。 これらのビッドやオファーは、市場における該当取引所の関心の程度によって、上下する。 ただし、提示価格を支払うことは、取引所会員になる1つのステップにすぎない。なぜなら、 どの取引所も新規会員を受け入れるための厳しい手続を有しているからである。そのプロセ スには、申請書、現会員による推薦、背景検査および面接等がある。加えて、取引所は、新 会員(または取引所の取引特権を取得する他の者)に対し、当該新会員が取引所フロアで取 引を開始する前に、その取引所の取引規則と手続について勉強し、テストに合格することを 義務づけている(同程度の要件は電子取引所を利用する場合にも適用される) 。 トレーディング ・ フロアで働いている会員は、一般的に大きくは2つの種類に分類され る:
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- ◦ローカルまたはフロア ・ トレーダー:自己勘定で取引する会員は、ローカルと呼ばれる。 この会員は、自己の資本と市場における取引技術を駆使して収入を得る。ローカルは、 フロアでのその存在と、その資本を取引に投入する意欲が市場に膨大な流動性を供給す る。 ◦フロア ・ ブローカー:他人の勘定で注文を取引する会員は、フロア ・ ブローカーとして 知られる。フロア ・ ブローカーは、ブローカー業者によって雇用され、その業者の顧客 だけのために取引を取り扱う。または、フロア ・ ブローカーは独立して、請負業者とし て複数のブローカー業者の顧客のため注文を成立させることもある。 ローカルまたはフロア ・ ブローカーであり、かつ取引所フロアで顧客業務を取り扱う者は、 二重取引を行っているといわれる。利益相反の可能性もあるため論議の的になるところだが、 有価証券先物を除き、この実務を一律に禁止する先物市場はない。しかし、二重取引の実務 を律する規制はある。これらの規則で重要なものは、顧客の注文を常に会員自身の取引より も優先させるという要件である。
取引所の取引フロア 1
米国の先物取引所の取引フロアはどれも似ている。その中心に位置するのは取引リングや ピット(通常、フロア ・ ブローカーやトレーダーが売買を行う丸形か八角形の場所)である。 さらに、すべてのビッドとオファーはオープン ・ アウトクライで行わなければならないので、 距離と騒音で話に耳を傾けるのが困難になるほど大きな取引ピットでは、ビッドとオファー は標準化された手信号で他のピットのブローカーに通知される。 ピットで取引するすべてのブローカーには、同一の取引権がある。取引が成立すると、通 常ピットに隣接した壇か台の上で業務を行っている観察・報告担当者が各取引を記録する。 取引がその取引所で記録されると、その価格は、世界中のブローカー事務所や取引センター に同時に、広く発信される。 各フロア ・ ブローカーは、取引を成立させると、取引カードに取引を記録する。取引カー ドには、取引された数量、取引相手、取引価格および取引時刻が記載される。取引カードの
[FFAJ 補完記載]
1 なぜ取引はフロアから電子に移行したのか 1990 年代以降に新設された取引所の多くは、最初から電子取引を採用したが、伝統的にフロア取引を行ってきた取 引所でも電子取引の導入が進み、特に 1997 年に BUND 先物の主要市場が LIFFE から DTB(現在の Eurex)に移った事 件をきっかけに、各種ストラテジー取引がやりやすいこと等でフロア取引を続ける CME オプション等一部の例外を除 き、主要取引所のほとんどが完全電子取引になった。その要因であるフロア取引の短所には、取引所にとって運営上の コストが高く、取引所会員にとって立会場に多数の人員を配置するコストがかかること、一方電子取引の長所には、運 営上のコストが低いことのほか、 取引のグローバル化やバックオフィスの STP 化が取引の電子化を促したこと等がある。
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- 第4章 先物を取引する
写しは、その日中に取引所職員に定期的に手渡される。会員は、他の会員およびコミッショ ン・ハウス、または他の注文元と二重チェックを行うためにその写しを使用できる。 取引所の取引フロアによっては、原資産であるコモディティ、資産または指数に関連する 重要な情報が掲示されるいくつかの電子掲示板やティッカーテープがあることもある。電子 掲示板などには、しばしば、スポット提示価格や在庫、競合品の提示価格や天気図も掲示さ れる。さらに、一般のニュースあるいはコモディティ関係のニュースのティッカーテープは、 通常、フロアで利用が可能で、政府声明や主要な記者会見のようなニュースが即時に提供さ れる。
立会開始
いくつかの取引所、特にシカゴ市場では、各ピットの取引は、一般的な取引から開始され、 取引されるすべての受渡月において一斉に行われる。他の取引所では、 「コール(Call) 」に よって取引が開始される。それにより、取引開始時に手元にある最期近の受渡月のすべての 注文が順番に処理され、その後順次に次の受渡月に移る。開始のコールに続いて、同時にす べての限月の取引を行うことが取引日中を通して認められている。取引所によっては、特に 日本では、一般的な取引は定期的に中断されるので、市場が再開されるたびに追加の開始 コールがある。さらに、取引終了時には、比較的不活発な市場において定期的に有効な提示 価格を創り出すため、受渡月の取引開始に別のコールがあることがある。 伝統的には、買付けおよび売付けの顧客注文は、フロアの発注業者を代理する受注係が取 引所のフロアで、最初に受け取る。受注係はリング内の適当なフロア・ブローカーにメッセ ンジャーを通して注文を送るか、手信号で注文を伝える。近年では、電子注文経路指定シス テム(EORS:Electronic order routing systems)の出現により、注文は、発注を行う事務所 から直接取引所の取引フロアに伝達され、さらにピットにも伝達される。そして、注文はま た、その発信元に電子的に伝達されることができる。 もし注文が成行注文の場合、メッセンジャーは、通常フロア ・ ブローカーからの執行報告 を待ち、その後フロアの受注係のところにそれを持ち帰って、フロアの受注係は、自分の会 社に電話で終了した取引報告を伝える。あるいは、フロアの受注係は、ピット ・ ブローカー から手信号による確認を得る場合もある。もし注文が指値注文で、ある程度「市場価格から 離れている」場合は、メッセンジャーは、そのビッドとオファーをフロア取引会員のところ に残しておき、フロア取引会員はその注文を受けた価格と時間の順にファイルした「一包み の」未執行の注文束の中に挿んでおく。こうすることでブローカーは、価格が変動したとき に常に現在の市場価格で、またはそれに近い価格で、これらの注文をすぐに執行できる。 65
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- ビッドおよびオファー
買い手と売り手、またはその代理の者が出会う取引ピットは、価格を叫ぶ騒々しい声が途 切れることはない。価格とは、買い手がその価格で直ちに買い付ける用意がある価格であり、 売り手がその価格で直ちに売り付ける用意がある価格である。これらは、それぞれビッドお よびオファーとして知られる。 ビッドは、どんな買い手も特定の瞬間、特定の先物またはオプション契約に支払う気があ る最も高い価格である。買い手が支払う気がある最も高い価格のみが有効なビッドである。 より低い価格水準に関心のある買い手は、その価格が買い付けようとしているすべての買い 手の中で最高価格になるまで価格提示しない。ある時は、ビッドは非常に急速に変化し、ま たある時はビッドはしばらくの期間存続する。 オファー( 「オファー価格(Offering price) 」 「アスク(Ask) 」または「アスク価格(Ask price) 」としても知られる)は、どんな売り手も特定の瞬間、特定の先物またはオプション 契約を売る気がある最も低い価格である。売り手が売る気がある最も低い価格のみが有効な オファーである。より高い価格水準に関心のある売り手は、その価格がすべての売り手の中 で最低価格になるまで価格提示しない。ある時は、オファーは非常に急速に変化し、またあ る時は、この価格がしばらくの期間存続する。 フロア ・ ブローカーは、取引リングの中で取引相手を見つけ、注文で伝達された顧客の指 図に従わなければならない。ビッドとオファーが現在の市場価値を反映すること、フロア・ ブローカーがその枠組みの中でしか業務を行うことができないこと、ただし、ビッドかオ ファーが、頻繁に変化することもあれば変化しないこともある、を覚えておくことは非常に 重要である。
価格分析
ヘッジャーとスペキュレーターは、取引決定を行うにあたり、さまざまなツールを使用す る。実際には、先物トレーダーの数と同じくらい多くの先物価格分析に使用される分析法も 多いだろう。しかしこれらの方法は、おそらく2つの大きなカテゴリー、 「ファンダメンタ ル分析」と「テクニカル分析」に分類されるだろう。哲学的には正反対であるが、実際には、 これらの2つの学派は、互いに相容れないわけではない。両アプローチの長所と短所を考慮 して、これらのツールを別々の分野のものから単一の市場アプローチに合成することは、よ くある。
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- 第4章 先物を取引する
ファンダメンタル分析
ファンダメンタル分析は、先物価格を予測するために需給統計を利用することだと説明す ることができる。ファンダメンタリストは、特定のコモディティに対する供給可能量と需要 水準に関わる「現実の世界」の統計を研究する。これらの研究は、需給見通しによって正当 化される価格水準の予測を提供する。 たとえば、コーン価格を調査するファンダメンタル・アナリストは、繰越し量(最後の収 穫からの残った供給量) 、米国の作付(または作付を目的とした)面積および世界の他の地 域における生産予測等の供給情報から分析を始めるかもしれない。需要情報には、米国で飼 育される動物の数や米国から穀物を輸入する国の予想必要量などがある。 これらの基礎的な情報入力に加え、ファンダメンタリストは、天候や競合コモディティの 価格、貯蔵と運送の利用可能性や費用などの、より短期的な需給のファンダメンタルを追跡 する。これらのデータの情報源は、米国や外国政府の報告のほか、貿易機関や生産販売に関 する国際的な協会が発行する分析等がある。 上記のすべての事項は、ミクロ経済学と言われている。すなわち、それらは、コーンの供 給と需要に特有なものである。ファンダメンタル・アナリストも取引されるコモディティに 関するマクロ経済要因を考慮しなければならない。マクロ経済要因には、金融と財政政策、 インフレなどの背景となる経済状況や為替レートがある。そのようなデータは、データ自身 は調査や分析の結果であり、そのデータが公表されるときは、金融メディアで一般に報告さ れる。 まとめると、 ◦ファンダメンタル分析は、市場での需給に関する重大な問題に対処する ◦ファンダメンタル分析には、価格に影響を及ぼすかもしれない広範囲にわたるデータの 収集が必要である ◦各市場は、異なる統計の収集および分析を必要とする ◦課題は、データを適切に重み付けすることにある ◦知られていないことは、市場に多大な影響を与える可能性がある
テクニカル分析
テクニカル分析は、ファンダメンタル分析に必要な関係データすべてを知ることができる 市場参加者はいない、という理論に基づく。この理論はまた、市場が全体としてすべての関 67
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- 係データを有し、それに適切に重み付けしているとする。市場全体の分析結果は、価格と資 本のフローに表されるので、テクニカル・アナリストはこれらだけに焦点を当てる。つまり、 テクニカル・アナリストは、その分析作業で価格や取引量、未決済建玉といった市場の動き だけを使う。大量のこれらの数的データは図で簡単に示すことができる。こうして、チャー トやグラフは、テクニカル分析と同義語になった。テクニカル分析の主な最終目的は、傾向 として知られる市場の全体的な方向性を特定することである。テクニカル分析指向のトレー ダーの中には傾向を見て取引を試みる者もいるが、それとは反対の者もいる。そして、非常 に短期の現象を探す者もいれば、より長期的な観点をもつ者もいる。それでもなお、テクニ カル分析専門家の仕事は、選択された対象期間内に一般的な市場が向かう方向を特定するこ とに向けられる。チャートの形でまとめられ、表現されたデータを使用することは、明らか に数字が書かれた表をじっくりと眺めるよりも容易である。 取引量および未決済建玉は、テクニカル・アナリストが兆候を示す指標を確認するものと して用いられている。取引量は活動の一般的な水準を反映し、未決済建玉は資本の市場への 流入または市場からの流出の測度である。これらは、相場を示す兆候を裏付ける。たとえば、 未決済建玉の減少を伴う価格上昇は、取引動機のある買い手がその売建玉を買い戻す。すな わち市場から資本を引き上げていることを示唆する。 図表4. 2は、価格、取引量および未決済建玉の相対的な動きから描ける、一般的なテク ニカル分析の結論を表している。 テクニカル分析は、この限られた量の生データ(価格、取引量および未決済建玉)から、 視覚的チャート分析を補完する、驚くほど多くの数学アルゴリズムを創り出した。移動平均 等の計算には、傾向を特定する道具として利用されるものもある。たとえば、 「10 日移動平 均」は、直近 10 日の終値の平均である。チャートにすると、一般的な価格の方向性を描く 手助けとなる線が描かれる。 他の計算は、たとえば相対力指数(RSI:Relative Strength Index)のように、市場がその 傾向の中で進む速度を測定するために使用される。たとえば、 「14 日 RSI」は、最近 14 日 内に生じた上方向および下方向の価格変化を計算し、この数値を指数に変換する。これは、 最も強気の市場でさえ特定の時間はある程度までしか変化しない、という考え方が前提とな る。
オプション分析
先物オプションについては第6章で詳しく説明するが、オプション価格(プレミアム)の 68
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- 第4章 先物を取引する
図表4. 2 価格、取引量、未決済建玉の相対的変動に基づくテクニカル上の一般的結論
Prices 価格 Volume 取引量 Open interest 未決済建玉 Rising 上昇 Falling 下落 Rising 上昇 Falling 下落 Falling 下落 Rising 上昇 Falling 下落 Rising 上昇 Technical Condition テクニカル状況 Strong rally 力強い上昇
Heavy 多い Up 上昇 Light 少ない
Moderate rally 緩やかな上昇
Weak rally 弱い上昇 Weak sell-off 弱い値下がり
Light 少ない Down 下落 Heavy 多い
Moderate sell-off 緩やかな値下がり
Strong sell-off 強い値下がり
分析についていくつかの用語をここで取り上げる。どんなオプション・トレーダー(オプ ションだけ取引をして先物を取引しない者を含む)でも、原商品である先物に関する分析も いくらかは行わなければならない。これは、ファンダメンタルもしくはテクニカル分析、ま たはその組合せの場合がある。ここまでであれば、オプション・トレーダーと先物トレー ダーの分析作業は同じである。 しかし、両者の進路が分かれるのは、オプション ・ プレミアムが現在の先物価格とオプ ションの残存期間から見て適当であるかどうかを決定するために、オプション・トレーダー が数式を適用するときである。追加計算は、変動する先物価格や他の投入要素のオプション のプレミアムに与える影響を予測することになる。 オプション分析のこの分野が数学に大きく依存している限り、それはテクニカル分析だと 説明できる。ただし、これらはオプション価格決定理論に基づく評価およびリスク分析であ り、価格、取引量および未決済建玉の市場の動きを研究することとの関連でのテクニカル分 69
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- 析ではないことは明からである。
注文指示事項および発注
すべてのブローカーやトレーダー、スペキュレーター、ヘッジャーが、先物または先物オ プション契約を取引する前に知っておかなければならない、先物取引についての重大な特徴 がいくつかある。その中には以下の事項を知ることも含まれている。 ◦契約単位で表示されるのは何か ◦各契約の価格はどのように表示されるか ◦建玉に関する最低価格変動が及ぼす金銭上の影響 ◦どのように注文を適切に発注するか。そうしないと高くつく失敗につながる可能性があ る IFM(Institute for Financial Markets)の『The Futures & Options Factbook』ならびに先 物および先物オプションを取引する各取引所は、各契約の取引単位、最小価格変動および価 格提示に関する情報を提供している。本章の後半は、発注に焦点を合わせて説明する。
先物注文(Futures Order)の要素
各コミッション・ハウスには、業者の経理や注文発注の要件に最も適した商品注文用の書 式がある。ただし、すべての注文伝票には次の情報が必要である。 ◦買付けまたは売付けのいずれか ◦買付けまたは売付けの数量(枚数) ◦先物契約および取引所(特定の受渡月および年を含む) ◦特定の価格および他の取引条件 ◦口座番号または他の顧客識別記号 ◦注文有効期間(注文がすぐに取引されない場合の有効期間) 注文が正しく書かれると、執行のために指示された取引所に送信される。米商品先物取引 委員会(CFTC:Commodity Futures Trading Commission)規則によれば、顧客から注文を 受けた直後に時刻印を押さなければならない。また、注文では、執行のため送信されたとき も、成立してフロアから報告があったときも、時刻印を押さなければならない。この時刻印 の規則は、すべての注文の取扱いにおいて追跡記録を作成するよう設計されている。さらに、 時刻印は、注文が特定価格で執行されるため時間内に発注されたかどうかに関して、後の紛 70
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- 第4章 先物を取引する
争の場合の確認を容易にする。電子取引所においては、注文プロセスの全段階、つまり当初 の発注から執行、顧客への確認を瞬時に行うことができる。
注文有効期間
すべての注文の有効期間は、別の指示がある場合を除き、それが発注される特定の取引時 間帯にのみ有効であるとみなされる。たとえば、発注される日に執行不可能な価格で買い付 ける注文は、自動的には翌日に持ち越されない。ただし、顧客がその日を超えて有効である ことを望む場合、その注文は次のように発注できる。 ◦取消しまで有効(GTC) ◦その週に限り有効(GTW) ◦特定の日または日付まで有効(GT date)
先物取引注文の種類
先物および先物オプションを取引するために出される注文には多くの異なる種類がある。 各注文の種類はその取引がどのように取り扱われるか、特に、適用する特定の価格や他の取 引条件を示す、コンパクトなコミュニケーションである。各注文の種類は、すべての注文の 種類が全取引所で有効なわけでも、すべてのブローカーによって受け入れられるわけでもな いが、トレーダーのニーズと市場環境に適合する用途があり、各取引所には独自の慣習があ る。ただし、実行可能ならばどのような注文も、空売りを含めてポジションをつくるか、相 殺するために利用できることに留意しなければならない。
成行注文(Market Order)
例:買付け 1枚 3月限長期米国債 成り行き 例:売付け 5枚 7月限原油 成り行き 成行注文は、それらがフロア・ブローカーによって取引フロアで受け取られた直後の最良 の価格で執行される。上記のような買付けの成行注文は、現行のオファーで執行される。フ ロア・ブローカーは、有効なオープン ・ アウトクライのオファーによって証明される取引相 手(このケースでは、売り付けようとする売り手)を見つける。売付けの成行注文は、ビッ ドに対して執行されるか、あるいは成立される。その価格が買い付ける用意のある買い手が 支払うことを希望する価格だからである。
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- 成行注文を執行できない状況はきわめて少ない。1つは、市場の終了間際に、注文が取引 フロアに持ち込まれた場合である。もう1つは、買付けの成行注文が、たとえば、市場が上 限値幅限度まで上昇したときに持ち込まれた場合である。この場合、上限値幅制限での需要 を満たすための有効なオファーや売る用意のある売り手はいないかもしれない。
指値注文(Limit Order)
例:買付け 例:売付け 20 枚 3枚 9月限日本円 7月限ココア 0.7927 1910
指値注文は、トレーダーが取引に関して受け入れる最悪の価格を提示する。フロア・ブ ローカーがより良い価格で取引を執行できる場合、トレーダーがそのような価格を受け入れ ると理解される。 「LIMIT」という用語は、上記の例には書かれていないが、特定の価格が 示されるとき、これらが指値注文であると理解される。指値注文は、 「買付け 20 枚 9月 限日本円 0.7927 OB」のように、 「or better(またはより良い価格) 」つまり「OB」のよ うに書くことがある。これによって、以下の説明のように、指値注文とストップ注文の間に 生じるかもしれない混乱を回避する。 したがって、買付けの指値注文は、その契約のためにトレーダーが支払う最も高い価格を 提示し、買い手にとって最も高い価格は、最悪の価格である。買付指値注文は、指値価格ま たはそれ以下の価格で成立することができる。買付指値は、相場が当該指値まで下落する場 合、買付けが執行されることを示し、現在の相場より下の指値価格で発注される。 売付けの指値注文は、トレーダーがその契約の売付けのために受け入れる最低価格を提示 する。売付指値注文は、指値価格またはそれ以上の価格で成立することができる。売付け指 値は、市場が限度まで上昇する場合、売付けが執行されることを示し、現在の相場より上の 指値価格でのみ発注される。市場が指値注文で定めた価格まで動きそうにない場合、フロ ア・ブローカーは、注文が「不可能」であるとしてこれを報告する。
ストップ注文(Stop Order)
例:売付け 例:買付け 15 枚 50 枚 4月限無鉛ガス 12 月限 S&P 500 0.8308 920.10 ストップ ストップ
ストップ注文とは、成り行きで買い付けるまたは売り付ける注文である。しかし、価格が 特定のストップ価格に達した後に限る。上記の例にある価格は指値ではなく、トリガー価格 である。もし、価格が特定のストップ価格に達するか、それを超えたときは、フロア・ブ 72
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- 第4章 先物を取引する
ローカーはその注文を成行注文と見なす。 売付ストップ注文は、現在の相場以下の価格で注文される。つまり、その商品がストップ 価格以下で取引されるか、オファーされる場合にのみ成行注文となる。 買付ストップ注文は、現在の相場以上の価格で注文される。つまり、その商品がストップ 価格以上で取引されるか、ビッドされる場合にのみ成行注文になる。そうなれば、ストップ 注文はフロア・ブローカーの手持ちの成行注文となり、その直後、最良の価格で成立する。 ストップ注文の執行価格は、トリガー価格に限らないことを理解しなければならない。そ のような注文はストップ注文が有効になった後、市場価格が何であろうと、ストップ価格よ り上または下の価格で執行できる。ストップ注文は、先物買建玉(売付ストップ注文)また は先物売建玉(買付ストップ注文)に関し、損失を制限するのによく利用される。ストップ 注文もまた、市場が主要なサポートまたはレジスタンスに達するとき、買建玉または売建玉 を新規につくるためにトレーダーによって利用される。 ストップ注文を出すことで意図される保護は、大きく見ると錯覚かもしれない場合がある ことに留意することは重要である。動きの早い市場において、ストップ価格の選択に際して 思い描いたことをはるかに超える重大な損失が生じることがある。そのような状況でストッ プ価格、あるいはそれ以上の価格でストップ注文を成立させることは、不可能ではないにし ても非常に困難なので、価格に乖離があるような市場で出すストップ注文に依存しないよう 注意しなければならない。
到達後成行注文(Market-if-Touched Order) (マーケット・イフ・タッチド・オーダー、MIT 注文、条件付成行注文)
例:売付け 10 枚 12 月限 銅 78.30 MIT 到達後成行注文(MIT(Market-if-Touched)Order.以下、 「MIT 注文」という。 )は、成 り行きで買い付けるまたは売り付ける注文である。しかし、定めた相場が指値に達した後に 限る。上記の例にある価格は、指値ではなく、トリガー価格である。もしその価格水準に達 したときは、フロア・ブローカーはその注文を成行注文と見なす。この説明は、ストップ注 文の説明と大変似ているように聞こえる。なぜなら、価格が成行注文を引き起こすために使 われるという点で、MIT 注文の仕組みがストップ注文に非常に似ているからである。主な 違いは、買付けの MIT 注文は、買付ストップと違い、現在の相場価格以下で出され、売付 けの MIT 注文は、売付ストップと異なり、現在の相場価格以上の価格で出されることである。 73
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- トレーダーにとって、MIT の効果は指値に似ているが、指値価格という確定した制限の ない注文を出すことである。トレーダーは、MIT 注文を利用し、その目標価格に達したら、 いくらでも売り買いする気持ちがあると言っている。しかし指値注文の場合、トレーダーは 絶対的な指値を指定している。 たとえば、トレーダーが 10 枚の 12 月限ユーロドル契約を、96.91 で売り付ける指値注 文を出したとする。この注文は 96.91 以上で成立するか、まったく成立しないかに違いない。 「売付け 10 枚 12 月限ユーロドル 96.91 MIT」として注文を出すことは、その注文が 96.91 で売買された後どんな価格でも成立できることを意味する。これは、フロア・ブロー カーがその取引を執行することをより容易にするかもしれないが、96.91 以下の価格に終わ る可能性もある。
ストップ指値注文(Stop-limit Order)
例:買付け 例:売付け 5枚 5枚 7月限銅 1月限大豆 78.05 612 ストップ指値 ストップ 611 1/2 指値
ストップ指値注文は、その執行が指値価格またはより良い価格に制限されることを除き、 通常のストップ注文とほとんど同じやり方で利用される。上記の最初の例では、7月限銅が 78.05 セント以上で取引されるか、ビッドされる場合、当該のストップ指値注文は有効とな る。その際、その注文を手持ちしているフロア・ブローカーは、7月限銅5枚を 78.05 セ ント以下で買い付けることを試みなければならない。そして、78.05 セントよりも高い価格 は払えない。 その次の例では、1月限大豆がブッシェル当り 612 セント以下で取引されるか、オファー される場合、売ストップ指値注文が有効となる。その時点において、その注文を有するフロ ア・ブローカーは、指値価格である 611 1/2 セント以下の価格で取引あるいはオファーす ることができる場合、5枚の1月限大豆を成り行きで売り付けなければならない。 ストップ指値注文には、多くの通常のストップ注文の存在とは対照的に、市場におけるド ミノ効果を誘発する可能性がない。一方、ストップ指値注文は指値注文となり成行注文には ならないため、ブローカーが動きの速い市場では、ストップ指値注文を執行できない場合が ある。このように、ストップ指値注文と通常のストップ注文の間の違いとしては、後者が不 利な価格を費やして取引を成立させることに対する大きな保証を提供するということである。
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- 第4章 先物を取引する
終了時限定注文(Closing Only Orders) :終了時成行注文(Market-on-Close Order) およびストップ終了時限定注文(Stop-Close-Only Order)
例:買付け 例:売付け 100 枚 20 枚 6月限 T-Bond 終了時成行(MOC)
6月限金 292.50 ストップ終了時限定
たいてい注文は、成行注文やストップ注文であるが、注文の中には価格が合えば、当該市 場の公式の終了時間帯内にのみ執行される旨の明確な指図があればできる注文がある。上記 のうち、最初の例のような終了時成行(MOC:Market-on-Close)注文は、その取引が当該 取引時間帯終了時に執行されることをトレーダーに請け合うが、そのような注文の実際の執 行価格は、執行が当該限月の公式の終了時間帯内の終値の幅内で収まる限り、正確に最後に 行われた売付けの執行価格である必要はない。トレーダーは、終了時の価格帯が取引時間帯 内の取引よりも価格が有利であることを反映するか、またはトレーダーが終了時の価格帯が どの程度であるかにかかわらず、その日のうちに取引を執行させたいと感じるかもしれない。 ストップ終了時限定注文は、公式の終了時間帯内にだけ執行され、終了時間帯内に限って 引き起こされる。上記の最初の例では、金先物契約は、6月限金が終了時間帯内に 292.50 以下で取引されるか、またはオファーされる場合、終了時間帯内に成り行きで売り付けられ る。6月限金が市場の終了時間までに 292.50 より大きく下回っても、終了前に当該取引時 間帯内に取引された価格は、ストップ終了時限定注文とは無関係である。
開始時限定注文(Opening Only Order)
例:買付け 10 枚 7月限 コーン 250 OPG Only 開始時限定注文(OPG:Opening Only Order)は、フロア・ブローカーがその契約の取引 の公式の開始時間帯内に執行できない場合、開始の直後に取り消される。実際の執行は、当 該受渡月の公式の開始時間帯内に記録された価格帯内に収まるならば、最初の取引の正確な 価格で行われる必要はない。この例は、7月限コーンが開始時間帯内に 250 セント以下で オファーされる場合に限り執行できる指値注文である。
裁量注文(Discretionary Order)
例:買付け 10 枚 3月限カナダドル 0.6454 5ポイント 裁量 そのような注文は、フロア・ブローカーによって、0.6459 と同じくらい高い価格または 0.6459 未満の価格で執行できることもある。裁量買い注文の場合、与えられた裁量は特定 75
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- された価格よりも上回り、一方、売り注文の場合は、裁量は特定された価格よりも下回る。 実際には、フロア・ブローカーは通常、注文の厳しい指図内でできるだけ速やかにどんな 注文にも応じる。したがって、このような注文は、一義的にはフロア・ブローカーがその注 文を「執行するよう努め」なければならないかもしれない、流動性のより少ない市場や取引 の少ない限月で主に利用される。この注文もまた、次のように、 「裁量権付成行」で出され ることがある。
裁量権付成行注文(Not-Held (NH) Order)
例:売付け 3枚 7月限砂糖 6.90 裁量権付成行 裁量権付成行
例:買付け 10 枚
3月限 カナダドル 0.6454 5ポイント裁量
裁量権付成行(NH:Not-Held)として出された注文は、注文の執行を困難にするかもし れないという状況を顧客が認識していること、または顧客がフロア・ブローカーに超過的努 力を求めていることをフロア・ブローカーに示唆する。その裁量権付成行注文は、超過的努 力が実らない、またはそうでなくても、顧客の気に入らなかった場合、その責任が免じられ ることをフロア・ブローカーに示唆する。特別な注意が必要な注文は、注文が出された時に 裁量権付成行の注意書きがある場合にのみフロア・ブローカーにより受け入れられる。そし て、取引が計画通りに正確に行われないかもしれない、ということを顧客が知っていること をフロア・ブローカーに保証する。
成立さもなければ取消し注文(Fill-or-Kill Order)
例:売付け 5枚 9月限コーヒー 72.50 成立さもなければ取消し 成立さもなければ取消し(FOK:Fill-or-Kill)注文(以下、 「FOK 注文」という。 )は、注 文が直ちに執行されなければならないか、取り消されなければならないかをフロア・ブロー カーに指図する。FOK 注文は、全部または一部のいずれかで成立できるが執行された部分 はすぐに報告され、その残りは取り消されなければならない。FOK 注文の手続は取引所に より異なる。たとえば、FOK に3回連続してビッドまたはオファーしても成立しない契約 は取り消されるという取引所もある。
刻み注文(Scale Order)
例:買付け 10 枚 7月限綿 成り行き および 10 枚 各 20 ポイント 下方 合 計 100 枚
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- 第4章 先物を取引する
刻み注文は、徐々に大きな建玉を増加するために利用される。この例では、フロア・ブ ローカーは成り行きで 10 枚買い付け、全部で 100 枚買い付けるまで注文の残りを一連の 指値注文として取り扱う。この注文はまた、 「成行(MKT) 」の代わりに注文の最初の部分 の指値価格、たとえば 60.00 などで出すこともできる。
スプレッド注文(Spread Order)
例:スプレッド 買付け 50 枚 売付け 50 枚 例:スプレッド 買付け 売付け 5枚 5枚 7月限原油 12 月限原油 5月限コーン 5月限大豆 2.90 プレミアム 大豆 OB 0.60 プレミアム 12 月限 OB
スプレッドは、同一または関連する先物市場での買建玉および売建玉を同時に含むポジ ションである。スプレッド注文は、単一の注文でスプレッド・ポジションの買建ておよび売 建ての要素(またはレッグともいう。 )の両方を成立させるか、または相殺するために利用 される(スプレッドについては、第5章で詳しく説明する) 。 最初の例は、市場内または限月間のスプレッドの注文である。スプレッドの各レッグは同 一の先物市場でも受渡月が異なる。これは、スプレッドの最も典型的なタイプである。第2 の例は、商品間のスプレッドの注文である。つまり、各レッグの市場は、関連するが異なる。 これらの例では、 「プレミアム」 、すなわちスプレッドの一方のレッグよりも他方に高い価 格が指定される。スプレッド注文は、 「成行」でも出すことができる。過誤を避けるため、 各スプレッド注文の買付け側は最初に書かれなければならず、またスプレッドという用語を 用い、これを各注文の指示事項部分より先行して記載することが必要である。 「またはより 良い価格」を示す記号「OB(or better) 」についても留意する必要がある。
スイッチ注文(Swith Order)
例:スイッチ 買付け 2枚 6月限金 売付け 2枚 4月限金、 2.90 プレミアム 6月限 OB スイッチ注文は、ある受渡月から別の限月まで既存の先物建玉を動かすために利用される。 そのような注文は、見かけとフロアでの取扱いでは、スプレッド注文にきわめて似ている。 「スプレッド」の代わりに、 「スイッチ」を利用することは、主に、その取引の一方が新規の 建玉であり、他方が相殺であることをブローカー自身の部署に対して知らせる手助けとなっ ている。 77
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- 現物との交換(Exchange for Physicals)または対現物注文( Against Actuals Order)
例:売付け 500 枚 5月限綿 #2 62.29 ピット外 ABC 社向け 対現物 現物との交換(EFP:Exchange for Physicals.以下、 「EFP」という。 )は、先物取引に加 えて現物取引に影響を与える、あらかじめ仕組まれた取引である。このように、EFP は現物 取引を完了させ、同時にその先物ヘッジを設定したり取り除いたりするヘッジャーに影響を 与えることがよくある。他の先物取引とは異なり、EFP は完了した取引として、帳簿に転記 するために取引所の取引フロアに送付されることも可能で、取引ピットにおけるオープン ・ アウトクライによる価格決定は必要としない。取引は、取引所規則に従って、場外で仕組ま れる。EFP については、第7章で詳しく説明する。
取消し注文(Cancel Order)
例:取消し 売付け 25 枚 1月限大豆 592 注文:121 本日発出 発注されるどのような注文も、執行されていない場合は取り消すことができる。上記の例 は、注文を執行しないようにというフロア・ブローカーへの注文 #121 である。この取消し は、フロア・ブローカーが「you’re out」と折り返し報告する場合にのみ確認される。注文 がすでに成立していた場合、フロア・ブローカーは「取り消すには遅すぎる」と報告する。 またその取引は顧客の責任となる。フロア・ブローカーは、一度成立した注文の取消しがで きないことに責任を負わない。
注文の取消し(Cancel Former Order) または 取消しおよび置換え注文(Cancel and Replace Order)
例:売付け 35 枚 1月限 No.2 灯油 0.6850 GTC、CFO
売付け 50 枚 1月限 No.2 灯油 NY 0.6850 GTC 発出(日付) 例: 買 付 け 10 枚 4 月 限 プ ラ チ ナ MKT、CFO 買 付 け 10 枚 4 月 プ ラ チ ナ 658.00 注文の取消し(CFO:Cancel Former Order.以下、 「CFO」という。 )または取消し及び置 換え注文は、顧客が現在フロア・ブローカーの手持ちとなっている注文を修正する場合、ま たは新しい注文と置き換えようとする場合に利用される。この顧客が古い注文を上記の取消 し方で単純に取り消し、新規の注文を出せることが明らかであるかもしれない。ただし、こ れでは両方の注文が執行されることになるかもしれない。取消しと新規の注文とを1つの注 78
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- 第4章 先物を取引する
文に合体させることにより、顧客は古い注文が成立した場合は新規の注文がまったく出され ないことを保証される。古い注文がそれでも取消し可能な場合は、新規の注文が有効となる。 最初の例では、売り付ける数量を変える。第2の例では、注文は、4月限プラチナを 658.00 指値ではなく、成り行きで買い付けることである。当該契約の一部またはすべてが 658.00 ですでに買い付けられている場合、その契約枚数は成り行きで買い付けられない。 これが、買い付けた量の重複を防ぐ。
一方が他方を取り消す注文(One Cancels the Other Order)
例:買付け 50 枚 3月限ユーロ FX 例:売付け 10 枚 4月限生牛 1.0120 または MOC OCO 68.50 ストップまたは 70.25 指値 OCO
OCO(OCO:One Cancels the Other.以下、 「OCO」という。 )注文は、2つの指図を1 つの注文に合体して、その2つの指図のいずれかが執行される場合、一方が自動的に取り消 されることをフロア・ブローカーに通知する。上記の最初の注文は、ブローカーに 50 枚3 月限ユーロ FX を 1.0120 指値で買い付けることを指示する。取引日中にその注文を 1.0120 以下で成立させることができない場合、ブローカーは公式の取引終了時間帯中に 50 枚3月 限ユーロ FX を成り行きで買い付けることを指示される。契約が、当日中に 1.0120 以下で 買い付けられた場合は、OCO の MOC 部分は有効にならない。 第2番目の注文は、フロア・ブローカーに売付ストップ注文と売付指値注文を同時に出す。 この注文が出されたとき、4月限生牛が 68.50 と 70.25 の間で取引されていると推定でき る。したがって、売付ストップは、価格下落によって引き起こされる。そして売付指値は価 格の反騰があり、売付価格が指値価格以上になると執行される。前の例にあるように、フロ ア・ブローカーは他の執行に続いて残りの注文を取り消す。
考えてみよう
米国電子先物市場が開設され、トレーダーの注文が成り行きと指値注文だけに制限された ことと、これらの市場の流動性の欠如との間に因果関係があると主張する者もいた。しかし、 開設直後、電子先物市場はより多様な注文に対応する機能を追加した。電子市場において許 される注文がこれらの2つのタイプだけしかないとすれば、取引はどのようなものになるだ ろうか。現在ピットのオープン ・ アウトクライのトレーダーが当然のことのように出す注文 (たとえば、ストップ、スプレッドおよび MIT など)にもたらす流動性と融通性を、電子シ ステムはどのように生み出すことができるであろうか。 79
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- FUTURES & OPTIONS
第5章 先物スプレッド
◦ 一般社団法人金融先物取引業協会 元調査部長 宮崎雅雄
この章を読み終えると、以下のことができるようになる。 ◦スプレッドの性格を「相対価値」ポジションとして説明する ◦4種類の先物スプレッドを識別する ◦スプレッドのビッドおよびオファーを説明する
スプレッドとは何か
スプレッドは、同一のまたは関連する先物市場において買建玉および売建玉を同時に含む ポジションである(この章の説明の多くはオプション ・ スプレッドにも当てはまるが、それ は第6章で説明する) 。スプレッド ・ トレーダーは、これらの買建玉および売建玉を同時に 保有するが、その理由は、その関心が2つの商品の相対価値、あるいは相対価値の予想され る変化にあるためである。言い方を変えれば、トレーダーが焦点を合わせるのは、各商品そ れ自体の価格水準ではなく、商品間の価格関係、つまり差異に関してである。多くの理由で、 トレーダーはこの差異が増減すると考え、それに応じてスプレッドのポジションをとる。 スプレッドには、一方が買建玉、他方が売建玉の少なくとも2つのサイドがなければなら 80
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- 第5章 先物スプレッド
ず、各サイドはレッグとして知られる。トレーダーは、しばしばスプレッドの買建てレッグ およびスプレッドの売建てレッグという言い方をする。2以上のレッグをもつスプレッドも ある。ただし、その場合にも、スプレッドは、買建てレッグと売建てレッグの組合せである。 ほとんどのスプレッドは、各レッグの枚数が等しくなるように作られるが、つり合うように 作られるものもある。 スプレッドは、取引所の取引フロアで、まとまりで売り付けることも買い付けることもで きる。すなわち、スプレッド・ポジションは、一度にすべてのレッグにかかわる単一の取引 を行うことにより作られ、または相殺される。その場合、スプレッドは、単純にそれぞれの 商品の価格ではなく、ネットの価格差に基づいて値付けされる。しかしながら、ポジション はまた、一度に 1 つづつのレッグにかかわる取引により作られまたは相殺される。すなわち、 トレーダーは、1つの商品を買い付け、別の商品を異なる取引として売り付け、レッグごと にスプレッドを構築または分解することができる。これは、スプレッドへのレッグ構築また はレッグ分解として知られる。 相対価値の変化や個々の商品価格の変化は、スプレッドにおいては、個々の商品価格では なく、相対価値に焦点を当てるにもかかわらず、公開の市場において同時に起きている。た とえば、スプレッドの中には、そのコモディティまたは商品の価格が一般的に上昇している 場合に利益となる価格変動、すなわち、相対価値に有利な変化を見せる可能性のあるものも ある。これは、そのコモディティの価格水準が概して上昇している場合に、スプレッド差が そのスプレッドに有利に変動すると予想されるため、 「ブル・スプレッド(強気スプレッ ド) 」として知られる。 「ベア・スプレッド(弱気スプレッド) 」とは、そのコモディティの 価格が概して下落している場合、利益を得ることが予想されるものである。
スプレッド証拠金
スプレッド ・ ポジションの相対価値は、通常、商品単独の価値に比べ変動性が低い傾向が あるので、証拠金必要額が単独のポジションよりも少ない。各取引所は、単独の建玉と同様、 スプレッド(有価証券先物スプレッドを除く)に対しても証拠金必要額を定め、定めた額を 異なる種類のスプレッドのリスク負担(エクスポージャー)にも使用する。ただし、取引所 がスプレッドについてより少ない証拠金必要額を定める場合、その必要額は、スプレッド ・ ポジションが単一の取引を通じて作られるか、またはレッグ構築により作られるかどうかに かかわらず、適用される。反対に、スプレッドを通じて1レッグを相殺させることは、単独 のポジションを保持する口座における証拠金必要額を増加させることになる。
スプレッド取引に関する予防的留意事項
単独の先物ポジションよりもリスクがしばしば少ないように見えるスプレッド取引は、ト 81
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- レーダーにとって大きな魅力である。しかし、この魅力の一部分は、スプレッドが常に単独 の買建玉または売建玉よりもリスクが少ないというわけではないため、錯覚であるかもしれ ない。 スプレッドはリスクを減少させることもある。単純に買建てまたは売建てのポジションを とるトレーダーは、そのレッグが互いにバランスをとる傾向のあるスプレッド・トレーダー よりも、相場変動による損失が大きくなる潜在的リスクをとる。単独の買建てポジション、 または売建てポジションをとるトレーダーは、1日以上の連続する日に、当該トレーダーに 対して不利になる「値幅制限」に直面することがある。そのような「凍結状態」の損失は、 同一の商品(スプレッドの1レッグが価格制限の対象でない場合を除く)のスプレッド ・ ポ ジションにはおそらく生じない。しかしこれを除けば、スプレッドおよび単独のポジション の相対リスク負担(リスク・エクスポージャー)はさまざまであり、常にスプレッドの方が 優れているわけではない。 スプレッドのリスクと単独ポジションのリスクを比較するにあたっては、かなりの繊細さ を要する。すでに触れたように、たとえばスプレッド取引への証拠金は、しばしば、単純な 単独の先物ポジションに必要な証拠金額よりも少ない。その結果、トレーダーは、同一の市 場では単独の買建玉または売建玉を作るよりもスプレッド・ポジションを増やす傾向がある かもしれない。これによって、合計リスクが単独のポジションのリスクと等しいか、または それを越えるポイントまで上昇する可能性がある。1つのスプレッドは、1つの単独のポジ ションよりもリスクが少ないかもしれないが、多くのスプレッドは、より少ない単独のポジ ションよりリスクが高いことがありうる。 さらに、市場の力は、2つの先物間の伝統的な関係を永久に変化させるかもしれない。つ まり、スプレッド ・ ポジションは、価格関係の(傾向からの)ずれから利益を得る機会であ ると考えられたことを理由として作られたとしても、格差があることが常態的であると明ら かになる場合、かえって、凍結状態にされた損失に変わる可能性がある。
先物スプレッドの種類
先物スプレッドは、大きくは4つの種類に区分できる。下記の各カテゴリーは、スプレッ ドのレッグ間の市場関係や経済的関係に基づく。 ◦市場内スプレッド ◦市場間スプレッド 82
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- 第5章 先物スプレッド
◦商品間スプレッド ◦原材料・製品スプレッド 各スプレッドを一般的な例とともに、説明する。さまざまな市場部門を解説する各章にお いては、特定の市場での多様なスプレッドの応用とその意義に関する情報についてより詳細 に述べる。
市場内(限月間)スプレッド
市場内スプレッド(限月間スプレッド、カレンダー ・ スプレッドまたは時間スプレッドと しても知られる)は、同一の取引所における同一の商品の売建玉に対して、限月の異なる買 建玉とで構成される。下記は、市場内スプレッドの例である。 ◦買建て7月限原油および売建て 12 月限原油 ◦買建て 12 月限小麦および売建て7月限小麦 ◦買建て6月限 T-Bond および売建て9月限 T-Bond これらは、例にすぎない。買建てと売建てのレッグを組成する商品を逆転させると、その 取引の反対側のトレーダーのポジションとなり、そのトレーダーもスプレッド ・ ポジション を保有する。ただし、慣例によって、買建てレッグは最初に特定される。これはまた、当該 商品の受渡月にかかわらず、買いの方が最初に書かれたスプレッド注文においても当てはま る。例中の受渡月もまた、説明のための例示にすぎず、スプレッドは、上記以外の受渡月か ら構築することもできる。 これらのスプレッドの関係における重要な要因は、受渡しまでの時間の差、および受渡し 時期に関連した、または予想される受渡し時期に関する需給および保管の問題であることは すでに明らかだと思われる。 最初の例では、トレーダーは、北半球における夏と冬の季節に基づく原油の需要特性と供 給特性に関する近い将来の変動に気づいているかもしれない。これらの変化は、多分同じ方 向で7月限原油および 12 月限原油に影響するだろうが、これらの価格変動は同じ大きさで はないので、スプレッド差を変化させる可能性がある。 第2番目の例は、次の収穫前後の供給に影響がある限月にかかわる。その収穫に向けての 予想および結果として起こる現実の収穫は、これらの商品の相対価値の変化を引き起こす可 能性がある。第3番目の例は、主に、長期国債(短期金利)の資金調達コストによって影響 を受けるスプレッドである。短期金利が変動すれば、スプレッドも変動し、それは債券の在 83
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- 庫保有コストの変化に影響する。
市場間スプレッド
市場間スプレッドは、同一の商品における、ある取引所の買建玉および別の取引所の売建 玉から構成される。複数の国内取引所において取引されて流動性がある商品は比較的少ない ため、これらのスプレッドでは、米国外の取引所を利用することも多い。次に市場間スプ レッドの2つの例を示す。 ◦買建て9月限小麦(CBOT)および売建て9月限小麦(カンサスシティ商品取引所 2 ) ◦買建て 12 月限ブレント原油(インターコンチネンタル取引所、ICE:Intercontinental Exchange)および売建て 12 月限原油(ニューヨーク・マーカンタイル取引所) 市場間スプレッドにおける価値は、2つの商品間の受渡し条件の違いに基づく。各スプ レッドのレッグは同一の受渡月を反映するが、各商品は原商品の等級の違いおよび受渡場所 の違いを表す。原油の種類間の互換性は明確にあるものの、ニューヨークとロンドンの商品 は、異なる等級の原油を受け渡す。各等級は、異なる量の石油製品を生み出す。加えて、先 物は、世界の異なる場所でのこれらの等級に対する需要と供給を表す。市場間スプレッドは、 異なる取引所での取引を必要とするので、より執行困難な取引の1つである。
商品間スプレッド
商品間スプレッドは、同一の商品の買建玉、およびその商品とは異なるが経済的には関連 する商品の売建玉から構成される。商品間スプレッドの例を次に示す。 ◦買建て9月限スイスフランおよび売建て9月限ユーロ FX ◦買建て 12 月限 T-Note および売建て 12 月限 T-Bond ◦買建て7月限コーンおよび売建て7月限大豆 商品間スプレッドは、基礎的な需要と供給の関係を共有する同一の産業または部門の2つ のコモディティによって変動するか、あるいは金融商品間の経済的関係および市場関係に よって変動する。スプレッド ・ トレーダーは、通常、需要と供給の状況が変化すれば、これ らの動く方向が同じだが、異なる大きさで両市場を動かし、その結果スプレッドの差に変化
[FFAJ 補完記載]
2 カンザスシティ商品取引所は、米国ミズーリ州のカンザスシティに 1856 年に設立された商品先物取引所であった。小 麦の現物取引から開始し、世界で初めて株価指数先物取引を取り扱った取引所としても知られていた。2012 年に CME グループが、傘下のシカゴ商品取引所(CBOT)が上場する小麦先物の種類を増やすために、カンザスシティ商品取引 所(KCBT)を 1 億 2600 万ドルで買収し、現在は KCBT としては存在していない。
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- 第5章 先物スプレッド
をもたらすことを予想する。 最初の例は、2つの通貨先物を含むスプレッドである。トレーダーは、2つの通貨間の関 係を変化させる経済状況、おそらく相対的な金利や経済成長率などの変化を予想する。 第2番目の例は、米国債の利回り曲線(異なる償還までの期間ごとの利回りを図にしたも の)上の異なる位置で金利を反映する2つの金利先物に関係する。政府の政策、連邦準備制 度の政策または他の経済要因は、償還の異なる債務の金利に異なる効果を及ぼす可能性があ る(この特定のスプレッドは、長期国債対中期国債(notes over bonds)スプレッド、すな わち NOB スプレッドと呼ばれる) 。最後の例は、タンパク質と炭水化物の価値、コーンと 大豆の一般的な供給状況を見ているトレーダーに使用されるスプレッドである。両方とも家 畜の給餌に使用されるが、しばしば一方は動物の給餌で他方を代替することができる。
原材料・製品スプレッドおよび逆原材料・製品スプレッド
原材料・製品スプレッドは、原料から製造される製品の売建玉に対するその原料の買建玉 から構成される(理論的には、逆原材料・製品スプレッドは、製品の買建玉と原料の売建玉 に関係する) 。原材料・製品スプレッドは、原料とその原料の製品の両方の先物がある市場 にのみ存在する。 2つの一般的な原材料・製品スプレッドがある: ◦クラッシュ(分解)スプレッド原油の買建て、ガソリンの売建ておよび灯油の売建て ◦クラック(圧搾)スプレッド大豆の買建て、大豆油の売建ておよび大豆粉の売建て トレーダーは、これらの商品間スプレッドにおいて、 (大豆を圧搾するまたは原油を精製 する)事業の営業利益率または粗利益率を複製しようとしている。たとえば、原油1バレル の製品の価値が、精製業者にとって利益を生み出すのに十分なほどの原油価格を超えないな らば、当該精製業者は、事業を減速させるか停止するかもしれない。これらのスプレッドは それらの事業運営への機会および、精製業者や圧縮業者がリスクを管理する余地を、トレー ダーに与える。 これらの原材料・製品スプレッドには3つのレッグがあり、各レッグは通常、同一枚数で はない。その代わり、レッグの割合は原料がどれだけの量の製品を産出するかによって決定 される。たとえば、5バレルの原油が3バレルのガソリンと2バレルの灯油を産出するなら ば、ヘッジャーは5:3:2のクラック、すなわち原油5枚、ガソリン3枚および灯油2枚 を作る。 85
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- スプレッド注文
この章ですでに述べたように、スプレッドはしばしば取引フロアでまとまりとして取引さ れる。そのため、価格も当然にまとまりとして提示される。次の例は市場内スプレッドを単 純化して示す。 ビッド オファー 直近 6月限金 312.40 312.60 312.50 12 月限金 320.00 320.30 320.30
各契約の直近約定価格を使用して、スプレッドの価値は、 「7.80 12 月限超」または 「7.80 プレミアム 12 月限」 (320.30 - 312.50 = 7.80)と記述される。スプレッドをど の契約が他に対して、またはそれ以上にプレミアムであるかを記述することによって、スプ レッドを提示することはふつうである。 ただし、別の市場では方法が異なることもあるため、すべての当事者が適切に情報交換し ているかどうか注意すべきである。 1契約に関するビッドに対して別の契約に関するオファーを仮定すると、そのスプレッド は、 「7.40 ビ ッ ド、7.90 オ フ ァ ー」 (320.00 - 312.60 = 7.40;320.30 - 312.40 = 7.90)のようになる。スプレッドに関するビッドおよびオファーは、個々の契約のビッド およびオファーとは異なることもあるが、あったとしてもきわめて小さく、一瞬の間であろ う。ローカル、ディーラーおよびその他の活発なトレーダーの取引は、アウトライト価格ま たはスプレッド価格を正しく保とうとする傾向がある。どのような利益でも、マーケット メーカーのような、少ない手数料等の費用で取引できる低コストトレーダーに素早くかすめ 取られてしまうであろう。 トレーダーが6月限に対する 12 月限のプレミアムが金利上昇により拡大すると考えると すれば、このトレーダーは、第4章で説明したような次の注文を出すだろう。 例:スプレッド 買付け 5枚 12 月限金 売付け 5枚 6月限金 MKT
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- 第5章 先物スプレッド
例:スプレッド 買付け 5枚 12 月限金 売付け 5枚 6月限金、7.70 プレミアム 12 月限 フロア用語で言うなら、そのときフロア・ブローカーは「5枚 6月/ 12 月 スプレッ ドを 7.70」でビッドするであろう。市場によって価格提示のやり方に違いはあるが、スプ レッドの買い手は、通常、より高い価格の商品を買い付け、より低い価格の商品を売り付け る当事者となる。この場合、トレーダーは、プレミアム付きで 12 月限を買い付け、スプ レッドを買い付けるため 7.70 でビッドしている。 フロア・ブローカーが当該スプレッドを 7.70 で売ろうとする売り手を代表するローカル、 またはフロア・ブローカーのいずれかの会員を取引相手として見つける場合、この2会員は、 この取引が 7.70 のビッドに基づいて執行される当該売り手により受入れを考慮する。その 後、この2会員は、リング内で取引された 7.70 差と一致する個別契約の価格を記入するこ とによって事務手続きを完了する。
考えてみよう
先物市場は、経済およびさまざまな産業のリスク管理の必要性を反映して進化する。電力 産業が規制緩和され、新しい原材料・製品スプレッドが形になり始めている。それは、 「ス パーク・スプレッド」として知られ、原料としての天然ガス先物と製品としての電力先物か らなる。どのような市場が進化するか。特に産業の成長や規制緩和によりどのようなスプ レッドが進化するだろうか。新素材対再生利用可能品は、ガソリン対排出権は、コーン対エ タノールではどうか。
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- FUTURES & OPTIONS
第6章 先物オプション取引
◦ 一般社団法人金融先物取引業協会 統括役・事務局長 山﨑哲夫
この章を読み終えると、以下のことができるようになる。 ◦リスク管理商品としての、先物取引とオプション取引を比較する ◦オプションを体系的に理解する ◦オプション価格の決定要因や、それらがオプション価格にいかに影響を与えるかを 説明する
議会によって法的に禁止されていたほぼ 50 年の取引停滞期間後、先物オプション取引は、 1982 年に米国で開始された。今日では、ほとんどの主要な米国の先物契約には、それと対 をなすオプション取引があり、対応するオプション契約を伴わずに新規の先物契約が上場さ れることは、全世界の主要取引所をみても稀である。この章では、オプションの用語や特性、 利用方法を紹介する。
先物オプション取引とは
先物オプション取引とは、原資産である先物契約を、将来のある期日、またはその前まで にあらかじめ決められた価格で売買する権利であり、義務ではない。オプションに関連する いくつかの重要な用語がある。 88
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- 第6章 先物オプション取引
◦コールオプション:オプションの買い手に、予め決められた価格で原資産である先物契 約を限られた期間内に買う(買いポジションとなる)権利を与えることであり、買う義 務はない。 ◦プットオプション:オプションの買い手に、予め決められた価格で原資産である先物契 約を限られた期間内に売る(売りポジションとなる)権利を与えることであり、売る義 務はない。 ◦権利行使価格:オプションの原資産である先物契約を買付け(コールならば)または売 付け(プットならば)ができる価格である。上記のコールやプットの定義では、これが “ 予め決められた価格 ” である。 ◦オプション料(オプション価格、プレミアム) :オプションの購入に際して、買い手が 売り手に支払う価格。価格は先物と同様に取引所での取引を通じて形成される。 ◦買い方または保有者:コールまたはプットオプションを買い付けし、オプション料を支 払う者。すなわち、オプション・ポジションを買い建てた者である。これは、オプショ ンの条件にもとづく権利を有する当事者であるが、義務は負わない。 ◦売り方または付与者:コールまたは、プットオプションを売却し、オプション料を受け 取る者。すなわち、オプション・ポジションを売り建てた者。この当事者は、オプショ ンの条件にもとづいて買い方が行使した権利を履行する義務を負う。 ◦権利行使:コールの権利行使は、オプションの買い方が原資産である先物契約をオプ ション権利行使価格で買い建てること、プットの権利行使はオプションの買い方がオプ ションの権利行使価格で先物契約を売り建てること。 ◦割り当て:オプションの売り方(売建ての当事者)は、もしオプションの条件にもとづ きオプションの買い方または保有者(買建ての当事者)が、そのオプションを権利行使 した場合に、義務を負うことに応じる。保有者が権利行使した場合、売り方は割り当て られた、または割り当てを受けたといわれる。 ◦残存期間:現時点からオプション契約で定められた最終日(満期日)までの期間 ◦満期日:オプションが存続しており、権利行使が可能な最終日 ◦アメリカンオプション:満期日までの期間中であればいつでも権利行使ができるオプ ション。米国外で取引される先物オプションの大部分がこのスタイルであるのと同様に、 米国の先物取引所に上場されているほぼすべてのオプションがアメリカンタイプである。 ◦ヨーロピアンオプション:オプションの満期日のみに権利行使ができるオプション。 ◦原資産先物:オプションは、先物契約を買い付ける(コールオプション) 、または売り 付ける(プットオプション)権利であり、加えてそれぞれのオプションは特定の先物限 月に関連する。たとえば、12 月限米国長期国債コールの原資産とは、12 月限の米国長 期国債先物取引契約であり、3月限米国長期国債コールの原資産は3月限米国長期国債 先物契約である。オプションの満期日が先物取引の満期日と同じ日でない場合、たとえ 89
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- ば1月限米国長期国債オプションの原資産となる先物取引は、通常、次に満期を迎える 先物取引、すなわち3月限米国長期国債となる。後者は “ シリアル ” オプションと呼ば れている。
オプションの呼称
オプションの銘柄名は4つの条件からなる。すなわち、原資産である先物契約、オプショ ン契約の限月、権利行使価格、そしてオプションタイプ(コールまたはプット)である。以 下でいくつかの例をあげると 12 月限原油 25 コール:オプションの買い方が、12 月限の原油先物契約を1バレル 25 ドルで1枚買い付ける権利を保有。 11 月限大豆 5.75 プット:オプションの買い方が、11 月限の大豆先物契約を1ブッシェ ル 5.75 ドルで1枚売り付ける権利を保有。 9月限 S&P5001200 コール:オプションの買い方が、9月限の S&P500 先物契約を 1200.00 で1枚買い付ける権利を保有。
満期日
上の例では、オプションの満期日は銘柄名に明確に表示されてはいない。上述の例にある 月の指定のように、12 月、11 月そして9月は、原資産である先物取引の受渡月であり、オ プションの満期日ではない(これは、株式オプションの命名方法と際立った違いである) 先物オプションの満期日は、取引が上場されている取引所の諸規則に従って設定され、取 引所間において一貫性もなければ、同一の取引所内のさまざまなオプションにおいてさえも 一貫性はない。特に、多くの先物オプションは、原資産である先物契約の受渡月よりかなり 前に満期日を迎える。たとえば、 12 月限原油オプションは 11 月に満期日を迎える。一方で、 9月限 S&P500 オプションは、9月中旬に満期日を迎える。シリアルオプションでは、満 期日はさらにはっきりしない。たとえば、12 月限米国長期国債先物を原資産とする 11 月 限米国長期国債オプションは 10 月に満期日を迎える。そのため、原資産の先物契約とオプ ション契約の期日を確認することは重要である。
先物取引とオプション取引
先物取引とオプション取引には、3つの重要な違いがある。第1に、先物契約は、契約を 履行することが利益になるかどうかにかかわらず、それらの契約を履行することを買い方と 売り方の双方に求める。対照的に、オプションの買い方は、予め定められた期日またはその 期日の前までに、定められた価格で買い付ける(コール)または売り付ける(プット)権利 を得るが、履行する義務は負わない。すなわち、もし利益とならなければ、オプションの買 90
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- 第6章 先物オプション取引
図表6. 1 先物取引の買建てペイオフ図
利益
先物価格(-)変化
0
45℃
先物価格(+)変化
損失
図表6. 2 満期日のコールオプションの買建てペイオフ図(アット・ザ・マネー)
利益
先物価格 変化(-)
0
先物価格 変化(+)
損失
い方はオプションを権利行使せず、代わりに、オプションを権利放棄できる。オプションを 放棄できるということは、オプションを買い付けることで生じる(潜在的)損失をオプショ ンコストに限定することである。第2に、オプションは、満期日に価値を得る特有の “ トリ ガーポイント ” である、権利行使価格がある。しかし先物取引にはそのようなトリガーポイ ントはない。第3に、オプションの買付けや買建ての場合、買い方はオプションの売り方に 91
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- オプション料を支払う必要があり、オプション建玉のペイオフを計算する場合にはオプショ ン料を勘案しなければならない。先物契約が成立したときには、買い方と売り方の間でいか なる支払いもない。 コールオプションの買建てペイオフ図を検討する前に、図表6. 1にある満期時における 先物取引の買建てペイオフ図を再度検討することは有益である。前述したように、仮に先物 価格が取引成立時の価格よりも上回っていれば、先物の買建て(買い方)は利益となり、も し価格が下落すれば損失 となる。2つの軸が交差したグラフの原点は、先物取引が成立し た時点での価格であり、よって水平軸にそった変化は先物価格の変化を示している-原点か ら右は価格の上昇、左は下落―。図表6. 2に示されている満期日のコールオプションの買 建て(買う権利)は多少異なる。 仮に先物価格が上昇した場合、コールの買建て保有者はそのオプションのために支払った オプション料を除いた利益を得ることになるので注意しなければならない。コールオプショ ンの損益分岐価格は、権利行使価格にオプション価格をプラスした価格である。先物ポジ ションでは、損益分岐価格は取引が成立した時点の価格である。仮に先物価格が下落した場 合でも、オプションの保有者は購入したオプションのオプション料以上に損失を被ることは ない。これは、オプションの保有者がオプションを権利行使して利益となるまで権利行使は せず、また先物価格がオプションの権利行使価格より下にある場合は、コールオプションを 権利行使することは決して利益とならないためである。オプションのペイオフ図で明確な点 は、取引成立時の価格をグラフの原点とせず、正しくは、オプション料をペイオフ線の水平 部分と、水平線ないしはX軸との垂直幅で表す。すなわち、それがオプションを買い付ける 金額である。 プットの価格計算は、満期日の先物契約の売建てのペイオフ図との関係で理解することが できる。図表6. 3にあるように、先物の売建ては、先物価格が取引成立した価格より下落 した場合に利益となる。また、価格が上昇した場合には損失となる。プットオプションの買 建て(ロング)の満期日のペイオフ図が図表6. 4である。プットの満期日に、図表6. 4の 原点であるオプションの権利行使価格より先物価格が低い場合は、プットオプションの買建 てには価値がある。先物のプットの損益分岐価格は、先物の価格からそのプレミアムを差し 引いた価格である。先物価格がオプションの権利行使価格より高い場合は、満期日における プットオプションの価値はなく、購入者の損失はオプション料のみである。 コールの売建てのペイオフ図(図表6. 5)は、コールの買建てのペイオフ図の左右対称 の鏡像である。 92
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- 第6章 先物オプション取引
図表6. 3 先物取引の売建てペイオフ図
利益
先物価格(-)変化
45℃
0
先物価格(+)変化
損失
図表6. 4 満期日のプットオプションの買建てペイオフ図(アット・ザ・マネー)
利益
先物価格 変化(-)
0
先物価格 変化(+)
損失
コールの買建ての損失は限定的で、 (潜在)利益は無限大であり、コールの売建ての損失 は無限大で、 (潜在)利益はオプションを売り付けたときに得るオプション料に限定される。 図表6. 6 の中で満期日のプットの売建てのペイオフ図が描かれているが、同じことは プットの売建てについても当てはまる。満期日にプットの売建ては、原資産の先物価格が、 93
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- 図表6. 5 満期日のコールオプションの売建てペイオフ図(アット・ザ・マネー)
利益
先物価格 変化(-)
先物価格 変化(+)
損失
図表6. 6 満期日のプットオプションの売建てペイオフ図(アット・ザ・マネー)
利益
先物価格 変化(-)
先物価格 変化(+)
損失
オプション権利行使価格よりも高ければ、最大利益は当初得たオプション料である。プット オプションの売建ての(潜在)利益はオプション料に限定されるが、 (潜在)損失は事実上 無限大である。とはいえ、先物価格はマイナスにはならずゼロになるだけであるので、実際 の損失は、プットを売り付けたときに受け取るオプション料を差し引いたうえで、プットの 権利行使価格とゼロとの差に限定されている。 94
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- 第6章 先物オプション取引
オプション建玉の損益分岐価格は、オプション契約の権利行使価格、すなわち、原資産で ある先物価格に、そのオプションのために受け払いした金額を加減した価格である。この価 格はオプションのオプション料と権利行使価格から簡単に計算される。コールの場合、コー ルの損益分岐価格は、オプション価格を権利行使価格に加えたものである。プットの場合、 プットの損益分岐価格は、権利行使価格からオプション価格を差し引いたものである。たと えば、5月限銀のコールオプション料が 15 セント/トロイオンス、権利行使価格 425 セ ント/トロイオンスの場合は、損益分岐価格は 440 セント/トロイオンスである。反対に、 7月限小麦のプットオプション料が 12 セント/ブッシェル、権利行使価格が 340 セント /ブッシェルの場合は、損益分岐価格は 328 セント/ブッシェルとなる。
オプションの権利行使と本源的価値
オプションを評価する重要な考え方は、オプションが権利行使され先物契約が成立し、直 ちに手仕舞いされた場合の価値である。すなわち、コールを権利行使して先物を買い建て、 それを同種の先物で転売したり、プットを権利行使して先物を売り建てて、それを買戻すこ とである。この価値はオプションの本源的価値、または権利行使価値とも呼ばれている。 コールオプションの場合、それは先物価格がオプションの権利行使価格を上回っている限り においては、先物価格と権利行使価格の差となる。 (先物価格が、コールの権利行使価格よ り低い場合には本源的価値はない) プットの場合の定義は逆となる。なぜかというと、先物価格が下落すればプットオプショ ンは価値が上昇するからである。つまり、先物価格が権利行使価格を下回る限り、プットの 本源的価値は権利行使価格と、その原資産である先物価格との差となる。これらの定義は以 下のように表すことができる。 先物価格>権利行使価格の場合、コールの本源的価値=先物価格−権利行使価格、逆の 場合は、コールの本源的価値は0 権利行使価格>先物価格の場合、プットの本源的価値=権利行使価格−先物価格、逆の 場合は、プットの本源的な価値は0
イン・ザ・マネー、アット・ザ・マネー、アウト・オブ・ザ・マネーのオプション
前述の議論/解説では、オプションのペイオフ図を含めて、オプションの権利行使価格は、 オプションの買付けまたは売付けがされた時点の先物価格と同一であるとの暗黙の仮定をお いていた。ただしそれはそうである必要はない。実際には、オプションは、先物価格とオプ ションの権利行使価格との関係に基づいて、3つの態様のいずれかで説明することができる。
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- 図表6. 7 イン・ザ・マネー、アット・ザ・マネー、アウト・オブ・ザ・マネーのオプション
ユーロドル先物価格(94.06 のとき) 権利行使価格 93.50 93.75 94.00 94.25 94.50 コール イン・ザ・マネー イン・ザ・マネー アット・ザ・マネー アウト・オブ・ザ・マネー アウト・オブ・ザ・マネー プット アウト・オブ・ザ・マネー アウト・オブ・ザ・マネー アット・ザ・マネー イン・ザ・マネー イン・ザ・マネー
図表6. 8 コールとプットの本源的価値
オプション イン・ザ・マネー アット・ザ・マネー アウト・オブ・ザ・マネー コール プット
本源的価値あり 権利行使価格<先物価格 権利行使価格>先物価格 本源的価値なし 権利行使価格=先物価格 権利行使価格=先物価格 本源的価値なし 権利行使価格>先物価格 権利行使価格<先物価格
◦オプションの権利行使価格が先物価格と同一である場合には、コール、プットともアッ ト・ザ・マネーと呼ばれる。 ◦オプションが本源的価値を有している場合(すなわち、コールの権利行使価格が先物価 格より低く、プットの権利行使価格が先物価格より高い場合)そのオプションはイン・ ザ・マネーと称される。 ◦オプションがアット・ザ・マネーでもなく、イン・ザ・マネーでもない場合、 (すなわ ちコールの権利行使価格が先物価格より高く、プットの権利行使価格が先物価格より低 い場合)そのオプションは、アウト・オブ・ザ・マネーと称される。 オプションの残存期間中は、同一のオプションでも、先物価格とオプションの権利行使価 格との関係において、時点が異なれば、イン・ザ・マネー、アウト・オブ・ザ・マネー、そ してアット・ザ・マネーとなりうる。たとえば、図表6. 7にあるように、ユーロドル先物 価格が 94.06 のときに、権利行使価格 93.75 コールや 94.50 プットはイン・ザ・マネーで ある。権利行使価格 94.00 コールやプットは双方ともアット・ザ・マネーと同等とみなさ れる(それらは先物価格 94.06 に近接しているからである) 。そして権利行使価格 94.25 コールと 93.50 プットはアウト・オブ・ザ・マネーとなる。本源的価値とオプションの関 係をまとめた図表6. 8も参照。 96
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- 第6章 先物オプション取引
図表6. 9 アウト・オブ・ザ・マネーのコールオプションの買建てペイオフ図
利益
先物価格 変化(-)
S
先物価格 変化(+)
権利行使価格
損失
先ほど検討したペイオフ図は、オプションの本源的価値を勘案して変形することができる。 たとえば、満期時のアウト・オブ・ザ・マネー・コールの買建てのペイオフは、図表6. 9 のように描ける。ここで注意しなければならないのは、権利行使価格が原点ではなく右に移 動している点と、権利行使価格が高くなったことで権利行使時の損益分岐点が右に移動した 点を除いて、この図が、図表6. 2にあるアット・ザ・マネー・コールの買建てのペイオフ 図と同じように見えることである。このように、アウト・オブ・ザ・マネー・コールは、図 表6. 9にあるように、原資産である先物価格が権利行使価格を上回るS点までは本源的価 値はない。
オプションの価格表
先物価格を掲示している新聞にはおおむね先物オプション価格も同様に掲示されている。 しかしながら、オプションの価格表は先物価格表とは異なった構成となり、同じような データは含まれていない。図表6.10 は、 日刊の金融専門誌に掲示されている先物オプショ ン価格表の代表的な項目である。それぞれの項目は、銘柄名から始まり、上場されている取 引所、売買単位、そして呼び値の単位となる。個々のオプションは、1つの原資産である先 物契約をカバーしているため、結果としてオプションの売買単位は先物の売買単位と完全に 連動することとなる。これは一般的な価格提示方法として共通であるが、重要な例外もある。 いくつかの取引所、とりわけ CBOT では、価格の提示条件を原資産の先物価格よりも、オ 97
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- 図表6.10 ユーロドルオプションの価格表
ユーロドル(CME)− 100 万ドル;1ベーシスポイント(bp) 権利行使価格 9275 9300 9325 9350 9375 9400 コール・決済価格 8月 4.75 2.25 0.20 0.00 0.00 … 9月 4.75 2.35 0.50 0.05 0.00 0.00 10 月 … 1.50 0.40 0.10 … … 8月 0.00 0.00 0.45 … … … プット・決済価格 9月 0.02 0.10 0.75 2.80 5.25 7.75 10 月 0.35 1.00 2.40 … … …
推定取引数量 65,586 枚;火曜日取引数量 コール 33,564 枚、プット 32,080 枚 ;未決済建玉 火曜日 コール 1,109,142 枚、プット 1,151,360 枚 (出典)ウォール・ストリート・ジャーナル
プション価格の最小変動幅(呼び値単位幅)を小さくしている場合がある。たとえば、 CBOT の米国債オプション(1/64 パーセント) 、穀物オプション(1/8 セント)の最小変動 幅は、原資産である先物価格(1/32 パーセントそして 1/4 セント)の半分となっている。 図表6.10 の第1列には、権利行使価格の一覧がある。大多数の出版物は最低でもイン ・ ザ・マネーとアウト・オブ・ザ・マネーの数個の権利行使価格を掲載している。次の3列に は、満期日が直近の3つの満期日に消滅するコールオプションの決済価格がある。最後の3 列には、満期日から最も近い3つのプットオプションの決済価格がそれぞれ記載されている。 最後は、すべてのコールとプットのオプション取引の出来高と未決済建玉を伴う各市場の データで締めくくられている。出来高や未決済建玉は流動性や市場の注目度を把握するのに 有用な情報であるが、情報ソースは取引所や専門情報業者に限られる。
オプションのスプレッド取引
さまざまな権利行使価格と満期日に係るオプション取引の決済価格を掲載した金融新聞の 配置構成が、オプションのスプレッド取引と呼ばれる取引、つまり、コールの買建て、売建 てないしプットの買建て、売建てを抱合する建玉(第5章先物のスプレッド取引の検討を参 照)を生み出した。特に、オプションのスプレッド取引の戦略としては、価格表内のオプ ションの並びに基づいて、垂直型、水平型および対角型が特に知られている。たとえば、同 98
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- 第6章 先物オプション取引
一権利行使価格だが、満期日が異なるコールの買付けと売付けを行うコール・タイムスプ レッドは、オプションの価格表で水平線上に2つのオプション価格が並んでいるため、ホリ ゾンタル(水平) ・スプレッドと呼ばれる。これとは対照的に、ヴァーティカル(垂直) プット・スプレッド取引は、スプレッドを構成する2つのプットのオプション価格が対角線 上にある、すなわち、満期日は同一だが権利行使価格が異なる2つのプットの買付けと売付 けを行う。当然のことながら、ダイアゴナル(対角) ・スプレッドでは、権利行使価格も満 期日も異なる2つのコール(または2つのプット)の買付け、売付けを行う。その場合、同 スプレッドの2つの個別のオプション建玉(レッグ)の価格はオプション価格表の対角線上 にある。
オプションの理論価格
1970 年代半ば以来、オプション評価理論(式)とその応用は洗練さと利用し易さの面で 進化してきた。オプション価格決定モデルは非常に複雑であるが、優れたソフトウェアがあ り、オプションの理論値を計算して、オプション・ポジションのリスクの測定と管理を助け ている。オプションの評価理論を理解するうえでの第一歩として、これらの価格決定要因を 理解し、価格決定要因が変化することでオプションの価格にどのような影響を与えるかを理 解する必要がある。先物オプションの価格に直接影響を与える要因は以下のとおりである。 ◦先物価格 ◦オプションの権利行使価格 ◦残存期間 ◦先物価格のボラティリティ 前述の要因はオプション価格に影響を与える主な要因であるが、原資産となる先物価格に 影響を与えるすべてのもの、たとえば原資産商品の供給や需要、金利、株式オプションであ れば配当もまたオプションの価値に影響を与える。
本源的価値
前述のように、満期日に、もし原資産である先物価格とオプションの権利行使価格に差が あると、その差から生じる価値がオプションの本源的価値である。原資産である先物価格と オプションの権利行使価格の差から、そのような価値が生じるからである。もっとも、満期 日前には、オプションはほとんどの場合本源的価値以上の価値をともなう。
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- 図表6.11 アット・ザ・マネーのプレミアム・タイムディケイ(先物価格一定の場合) ※
オプション価値 2.0 1.8 1.6 1.4 1.2 1.0 .8 .6 .4 .2 0 70 残存期間
※先物価格は変化せず
40
10
0
時間的価値
オプション価値の2番目の構成要素は、オプションの時間的価値と呼ばれている オプション価値=本源的価値+時間的価値 オプションの時間的価値は、満期日までの残存期間、原資産である先物契約のボラティリ ティ、そして現在の先物価格とオプションの権利行使価格の関係との関数である。残存期間 が長いオプションは、短いオプションより高い価値を示す。これは、期間が長くなればそれ だけ原資産の先物価格が損益分岐点に達し、価値を生む可能性(ないしは、すでに損益分岐 点を超えていれば、さらなる利益となる可能性)が高くなるためである。言い換えれば、残 存期間が長くなれば、オプションの建玉から利益を得る機会が多くなる。すなわち、満期日 まで6カ月を残しているオプションは、満期日までが3カ月の同じ権利行使価格をもつ同じ 先物契約のオプションよりオプション料は高くなる。オプションは、また消耗資産ともいわ れている。時間が経過し満期日が近づくと、オプションの時間的価値はゼロに向かい下落し ていく。そのため満期日を迎えると、仮にオプションの価値があるとしても、それは本源的 価値である。タイム・ディケイ(オプションが時間をかけて減価すること)はアット・ザ・ マネー、イン・ザ・マネー、アウト・オブ・ザ・マネーでそれぞれ異なる。図表6.11 は 100
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- 第6章 先物オプション取引
アット・ザ・マネー・プットの例を示している。ほぼすべてのオプション価値の減価はオプ ション期間の最後の数週間に起こり、時間的価値が急速にゼロへと減価する。 オプションの時間的価値の第2の要素は、原資産である先物契約のボラティリティである。 ボラティリティとは、期間を通じて先物価格がどれほど変動するかの度合いであり、変動が 大きくなればなるほど、オプションの価値が上がることになる。2つの異なる原資産で先物 契約を考えてみると、現在の価格が双方とも 100 ドルとしたときに、最初の先物契約は価 格が一度も変わらず 100 ドルのまま満期日を迎える。2番目の先物契約は連日激しく価格 が変動し、現在は 100 ドルの価格であるが、満期日には価格がいくらとなるかは不明である。 このシナリオに3通りのオプション、1つはイン・ザ・マネー(例:権利行使価格 95 ド ルのコール) 、また1つはアット・ザ・マネー(例:権利行使価格 100 ドルのコール) 、そ してもう1つはアウト・オブ・ザ・マネー(例:権利行使価格 105 ドルのコール)を加え てみる。2つの異なる先物契約を原資産としているオプションはどれほどの価値があるだろ うか。最初のオプションは簡単に評価することができる。すなわち、仮に満期時の先物価格 が 100 ドルとすると、権利行使価格 95 ドルのコールでは満期日には価値は5ドルとなる。 しかしながら、権利行使価格 100 ドルと 105 ドルのコールはまったく無価値となる。なぜ ならば、それらの本源的価値が満期日には皆無だからである。一方で、2番目の先物契約、 つまり価格変動が激しい先物契約を原資産とするオプションの価値を評価することはよりむ ずかしい。たとえば、満期日に先物契約が 150 ドルで決済される可能性と 50 ドルで決済 される可能性が同じであるとしよう。150 ドルで決済される場合には、3通りのオプショ ンとも相当の価値があることになるが、50 ドルで決済される場合には、3通りのオプショ ンのすべてに価値がなくなる。このように、オプションの価値は非常に不確実性がある。 ボラティリティは、不確実性の尺度として先物価格の変動結果を標準偏差にし、通常年率 ベースで表される。ボラティリティは無指向性で、相場の強気や弱気、価格の上昇や下落を 表すものではない。 上記の2例目では、原資産である先物契約の将来価値に関する不確定性が高まるにつれて、 そのオプションのリスクが増加することを示している。そして、より多くのリスクがあると、 オプションはより価値が上がり、よりコストがかかるようになる。 2番目の例の先物オプションの売り方は、仮に先物価格が不利な方向に動いた場合に、大 きな損失が発生してしまう極端な結果を防ぎたいと思う。また同様に、原資産である先物契 約が大きく変動するこれらのオプションの買い方は、大きな利益を得る可能性がかなりある ことから、たとえ多額なオプション料でも支払いを厭わない。実際に、高いボラティリティ 水準では、上下双方向に大きく価格が変化する可能性が高くなる。すなわち原資産となる先 101
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- 物価格が変動しやすいときは、プットもコールも期待される価格がより高くなる。 また、ボラティリティは、権利行使価格が異なるそれぞれのオプションの価値に影響を与 える。価格があまり変化しない先物オプションを想定すると、アウト・オブ・ザ・マネーで は満期日に本源的価値はなくなるので、基本的には無価値である。しかし、変動が大きい先 物契約であれば、アウト・オブ・ザ・マネーであっても、イン・ザ・マネー・オプションに より類似することになる。それは、先物価格が劇的に変動すると、権利行使価格が異なって いても同じような影響を受けるためである。図表6.12 は、オプション価格の価格決定要 因の変化がコールとプットのオプション料にどのように影響を与えるかを示したものである。
オプションデルタ
ここまでは、オプションの価格に影響する特定の要因を評価することによるオプション価 値に焦点を当てた。そこで次に、原資産となる先物価格の変化によって、オプションの価格 がどのように変化するかを検証する。先物価格の変化に応じて、オプション価格がどのよう に変化するかを理解するには、2つの点に注目する。 ◦オプション価格は先物価格と同じ動きはしない ◦オプション価格は原資産の先物価格が変化しなくても変化する。それはオプションの価 値が先物価格に加え他の要素によって決定されることによる。 オプションデルタ(ギリシャ文字Δにちなんで命名された、変化を意味する)は、原資産 である先物契約価格の変化に対して、オプション価格がどの程度変化するかを数値化したも のである。正式には、原資産である先物契約の価格が1単位変化したときのオプション価格 の変化割合と定義される。実際には、オプションデルタは、原資産である先物価格の一定の 変化におけるオプション価格の変化を示す。また、先物価格が変化したときにオプションの 価格が変化する額は、先物価格の水準やオプションの権利行使価格が違えば異なることには 注意する必要がある。つまりそれが、オプションのデルタが先物価格の比較的小さな変動幅
3 に対してのみ有効である理由であり、その後計算をし直さなければならない。
オプション価格が変動する仕組みについて、以下の例がわかりやすく示している。オプ ションの満期日の 60 日前に、1バレル当りの原油先物価格が 20 ドルであるとき、権利行 使価格が1バレル 15 ドル、20 ドルそして 25 ドルの原油先物コールオプションを想定する。
[FFAJ 補完記載]
3 先物価格が変化したときには、オプションの価格が変化する額は、先物価格水準やオプションの権利行使価格が違え ば異なり、オプションのデルタは先物価格の微細な変化で変動してしまうために継続的な再計算が必要となる。
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- 第6章 先物オプション取引
図表6.12 価格決定要素の変化がもたらすオプション価格への影響
増加 先物価格 時間 流動性 権利行使価格
コール・プレミアム
プット・プレミアム
もし特段何もおきなければ、満期日には権利行使価格 15 ドルのオプションはイン・ザ・マ ネー、25 ドルのオプションはアウト・オブ・ザ・マネー、20 ドルのオプションはそのどち らにもなる可能性がある。オプションが権利行使されれば先物契約に変わることから、オプ ション契約をあたかも権利行使された先物契約として扱うことは自然である。原油価格は一 般的に 60 日間で5ドルも動くことは稀なため、権利行使価格 15 ドルのオプションは結果 的には先物契約に変わると想定できる。したがって、オプションがイン・ザ・マネーになれ ばなるほど、あたかも先物契約であるかのように動くようになる。つまり、ディープ・イ ン・ザ・マネー・オプションの予想ペイオフ曲線は、原資産である先物契約に想定されるペ イオフ曲線に類似してくる。一方で、権利行使価格 25 ドルのコールが権利行使されること はほとんどなく、時が経つにつれ、ほぼ無価値として評価されていく。権利行使価格 25 ド ルのコールは比較的低デルタであり、権利行使価格 15 ドルのコールは比較的高デルタとな る。 デルタは、パーセンテージまたは小数点で測定される。ディープ・イン・ザ・マネーの コールオプション(たとえば上記の権利行使価格 15 ドルのコール)のデルタは、1ないし 100 パーセント、ファー・アウト・オブ・ザ・マネーのコールオプション(たとえば上記 の権利行使価格 25 ドルのコール)のデルタは、0パーセントに近いか0パーセントとなる。 パーセンテージは、先物価格が一定の変化をしたときに、オプション価格がどれほど変化す るかの割合である。たとえば、原油先物価格が 20 ドルから 21 ドルに上昇すると、デルタ が1のオプションはオプション価格が同様に1ドル上昇する。デルタが0のオプションなら ば、オプション価格はまったく変動しない。それでは、権利行使価格 20 ドルのオプション の場合はどうなるだろうか。
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- ページ: 104
- 前述のように、先物価格が 20 ドルの場合は、権利行使価格 20 ドルのコールは、イン・ ザ・マネーになるか、またはアウト・オブ・ザ・マネーとなるかは不確定である。つまり、 そのどちらかになる可能性は同じようにあると考えられる。当然に、アット・ザ・マネー・ オプションのデルタは、50 パーセントまたは 0.5 となる。原資産である先物契約の価格が 1ドル変化すると、アット・ザ・マネー・コールのオプション料は、50 セント変化するこ とになる。 オプションデルタは別の見方をすれば、オプションが満期日にイン・ザ・マネーとなる確 率である。権利行使価格 20 ドルのコールが、満期日にイン・ザ・マネーとなる可能性は五 分五分であり、デルタは 0.5 となる。また一方で、権利行使価格 15 ドルの原油先物オプ ションは、満期日にはほぼ 100 パーセントの確率でイン・ザ・マネーとなることから、デ ルタは 0.99 になる。これとは逆に、満期日に近く権利行使価格 25 ドルのコールは、イン ・ ザ・マネーとなる可能性はほとんどなく、デルタは限りなく0となる。 オプションデルタについて忘れてはならないいくつかの重要な点は以下のとおりである。 ◦プットとコールはともにデルタがある。プットは先物価格が下落すると価値は上がるた め、プットの買建てのデルタは0から−1の範囲で常にマイナスとなる。つまり、プッ トオプションの価格は原資産である先物契約の価格変動と反対方向に変動する。対照的 に、先物価格が上昇すると価値が0から+1の範囲で上がるプットオプションの売建て のデルタは、先物価格が上昇すると価値も上るコールオプションの買建てのデルタと同 じである。 (これと同じように、コールオプションの売建てのデルタは0から−1の範 囲となる) ◦デルタは、先物価格の上昇、下落と同様に変動する。たとえば、コール(買建て)のデ ルタが 0.5、そして先物価格が 10 ベーシスポイント下落したとすると、コールの価格 はおよそ5ベーシスポイント下落する。 ◦デルタは先物価格の変動に合わせ非線形に変化する。オプションがアウト・オブ・ザ・ マネーからイン・ザ・マネーに変わるとデルタの絶対値は上昇する。 ◦他のすべての条件が同じであるなら、ボラティリティの上昇は、デルタを徐々に 0.5 に 向かわせることになる。これは、ボラティリティが上昇すると、すべての権利行使価格 がよりアット・ザ・マネー・オプションとなりうることからである。しかしながら、前 述したように、この点は満期日までの残存期間の長さにも影響されやすい。 ◦満期日直前になると、満期日には、オプションがイン・ザ・マネーないし、アウト・オ ブ・ザ・マネーのいずれかとなることから、デルタは極端なイン・ザ・マネーまたはア ウト・オブ・ザ・マネー状態となり、0か1(ないしは−1)へと徐々に収斂する。そ 104
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- 第6章 先物オプション取引
図表6.13 ユーロドルコールオプションの仮想デルタ─先物価格が 93.50 の場合
コール権利行使価格 残存期間 1日 1週間 1カ月 3カ月 6カ月 1年
92.50 100% 100% 90% 77% 70% 64%
93.25 96% 75% 62% 57% 55% 54%
93.50 50% 50% 50% 50% 50% 51%
93.75 4% 25% 38% 43% 45% 47%
94.50 ─ ─ 10% 23% 30% 36%
の結果、満期日直前には先物価格の変化に合わせて、オプションがアウト・オブ・ザ・ マネーからイン・ザ・マネーへ、またその逆へと変わることで、アット・ザ・マネー・ オプションのデルタは、0か1(ないしは−1)に揺れ動くことになる。 ◦これとは対照的に、他の条件が同一であるならば、オプションの残存期間が長くなるに つれ、オプションはアット・ザ・マネー・オプションへと変化する。これは、オプショ ンの残存期間が長期化すればするほど、そのオプションが満期日に本源的価値を有して いる確実性が低下するためである。したがってデルタは 0.5 または 50 パーセントへと 収斂し、よりアット・ザ・マネー・オプションとなりうる。 ◦デルタとは、オプション価値についての理論的予想を基にした概算値である。ただし、 実際のオプション価格は、オプションデルタによる予測とはしばしば異なる動きをする。 図表6.13 は、ユーロドルコールオプション(買建て)が、先物価格が 93.50 の、残存 期間ごとの仮想デルタを一覧にしたものである。表中の対称性に注目すると、仮に表の上部 の権利行使価格を逆に並べると、プットのデルタに類似した分布となる(市場で買い建てた 場合は、正のデルタではなく、負のデルタとなる) 。
シンセティック・フューチャー(合成先物)とシンセティック・オプ ション(合成オプション)
オプションのペイオフ図を注意深く見ると、他の箇所では異なるところもあるが、本源的 価値に係るペイオフの部分は、先物ポジションのペイオフと似ていることがわかる。コール の買建てがイン・ザ・マネーになると、そのペイオフは先物取引の買建てにおけるペイオフ 105
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- のようである。買建てしたプットがイン・ザ・マネーになると、そのペイオフは先物取引の 売建てのペイオフのようである。このことは先物取引の建玉のペイオフを正確に複製するオ プションの買建てと売建ての組合せがあることを意味する。 先物の買建ては先物価格が上昇すると価値が上がり、先物価格が下落すると価値が下がる ことを思い出してみよう。オプションのペイオフに関しては、オプションコールの買建ては 先物契約の買建てと同じように上昇局面では価値が上がり、プットの売建てでは、先物契約 の買建ての価値が下落する下降局面ではその価値が下がる。コールの買いとプットの売りを 組み合わせることで、このように先物契約での買建てと同一のペイオフとなる。これは “ シ ンセティック・フューチャーの買い ” と呼ばれる。シンセティック・フューチャーの売りも 同様な手法で組み合わせることで組成することができる。先物の売建ては、先物価格が下落 すると価値が上がり、先物価格が上昇すると価値が下がる。プットの買建て(先物価格が下 落すると価値が上がる)と、コールの売建て(先物価格が上昇すると価値が下がる)を組み 合わせることで先物契約の売りを複製する。 満期日にシンセティック・ポジションが適当な先物契約に変わることで、シンセティッ ク・フューチャーはペイオフの観点では実際の先物契約と同じように機能する。すなわち、 満期日にはコール、プットのどちらかが本源的価値をもって満期日を迎え、権利行使されて 先物契約が成立する。同様に先物ポジションだけでなく、オプションも上記と同じような理 由で合成することができる。 合成ポジションを組成するオプションや先物の組合せをまとめると次のようになる。 先物買建て=コール買建て+プット売建て 先物売建て=コール売建て+プット買建て コール買建て=先物買建て+プット買建て コール売建て=先物売建て+プット売建て プット買建て=先物売建て+コール買建て プット売建て=先物買建て+コール売建て シンセティック・ポジションの組成には、コールとプットは同じ権利行使価格でなければ ならず、また先物契約と両オプションは同じ満期日でなければならない。しかも買い付けた オプションのオプション料と、売り付けたオプションのオプション料は同額になるはずであ り、先物契約の場合と同様にシンセティック・ポジションでは実質的に組成費用は発生しな い。
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- 第6章 先物オプション取引
シンセティック・ポジションが重要となる1つの理由は、トレーダーが割安な建玉を買い 建て、割高な建玉を売り建てることで、先物やオプションのポジションを複製できることで ある。たとえば、コールが、先物の買いとプットの買いに比べ割高であると仮定する。コー ルを買い建てたい市場参加者は、実際の建玉の代わりにシンセティック・ポジションを取引 することになる。二者択一的に、コールが割高とみなしている取引所のマーケット・メー カーは、それを売付け、先物とプットを買い付け、合成コールを買い建てる。マーケット・ メーカーは、このシンセティック・ポジションをコンバージョンと呼ぶ。リバーサル、また は逆コンバージョンとは、先物の売りとシンセティック・フューチャーの組合せである― コールの買付けとプットの売付け。先物・オプションのペイオフがこれらの合成関係を通じ て複製できるという事実があることも、裁定を通じてオプションと先物の価格を互いに調和 させている。これは、オプションや先物が常に効率的に価格形成されていることを意味して いる。この章の付録では、プット - コール・パリティの概念をこれらの合成関係を数式で表 すことで紹介する。
シカゴ商品取引所での取引 〈写真提供:Chicago Board of Trade〉
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- 先物オプションの手仕舞いと権利行使
手仕舞い
満期前には、先物オプションも、先物取引と同様に建玉のある取引所において買い戻し、 または転売により決済することができる。たとえば、3月限小麦 375 プットの買建ては、 3月限小麦 375 プットを転売することで手仕舞える。オプションの建玉は、 同等のオプショ ンの反対方向の取引でしか決済できないことには注意する必要がある。つまり、プットの建 玉は、コールの建玉では決済することはできない。また、オプションの建玉を決済する場合 には、まったく同等なオプションのクラス(すなわち同じ原資産である先物契約のコールや プット)に属していることに加え、同じオプションのシリーズ(すなわち同じ満期日、同じ 権利行使価格)に属していなくてはならない。オプションを決済すると時間的価値と本源的 価値を実現することが可能であるが、オプションを権利行使した場合には、本源的価値のみ を受け取ることとなる。
権利行使
コールやプットを買付けすることは、権利行使により先物契約が成立するオプションを買 い建てることである。買い手による権利行使により、それに対応する売建ては売り手に割り 当てられる。コールの買建ての権利行使は、コールの権利行使価格で先物契約を買い建て、 先物の市場価格にオプション権利行使価格との差を加えた時価に引き直した(値洗い)価値 (コールが本源的価値をもっている限りにおいて)で評価される結果となる。コールの買建 てが権利行使されると、同じシリーズのコール(すなわち同種の先物契約を原資産とし、同 じ権利行使価格、満期日のコール)の売り方は、先物の売建てを割り当てられ、かつ建玉は 値洗いをされる。プットの買建ての権利行使は、権利行使時のプットの権利行使価格と先物 の市場価格との差を時価に引き直した(値洗い)価値(プットが本源的価値をもっている限 りにおいて)を加えた先物を売り建てる結果となる。同様に、プットの売り方はオプション
4 の権利行使価格で先物の買建てを割り当てられ、かつ建玉は直ちに値洗いされる。
オプションが権利行使されたことで成立した先物建玉が(手仕舞い取引として直ちに決済 されないで) 、未決済のままであるならば、すべての先物取引を開始する際に求められるよ うに、当初証拠金を預託しなければならない。それ以降、先物ポジションが未決済である限
[FFAJ 補完記載]
4 プットの売り手はオプションの権利行使価格を持値とする実勢比不利な先物の買いポジションを割り当てられること になる。
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- 第6章 先物オプション取引
り、日々の値洗いの対象となる。 先物オプションの権利行使に関して注意するその他の重要な点は、次のとおりである。 ◦オプションを権利行使することで得られるものは、そのほとんどがオプションの本源的 価値であることから、時間的価値がほとんどないかまたはまったく伴わないイン・ザ・ マネー・オプションだけを権利行使することは経済的にみて理にかなっている。 ◦前述したように、アメリカンオプションは、オプションが買い付けられた取引日を含め 権利行使期限まで、オプションが取引されている営業日であればいつでも権利行使をす ることができる。 ◦差金決済される原資産の先物契約と同日に満期日を迎えるオプションの場合、最終取引 日での権利行使はオプションの建玉を差金決済する結果となる。なぜならば、原資産の 先物契約が同時に取引を終了するからである。 ◦清算機関は、その清算会員に、無作為に権利行使通知を割り当てたり、清算業者がもつ 最も古い建玉を割り当てる等して、権利行使されるオプションの売建ての割り当てを公 平に執行する手順を定めている。 ◦割り当ての指定通知は、権利行使通知を申告した翌日の取引開始前までに清算会員に届 けられる。 ◦多くのオプション契約においては、満期日にイン・ザ・マネーとなったオプションを自 動権利行使としている。 ◦自動権利行使がない場合、オプションの買い方の清算会員は、満期日のその契約に予め 指定された時刻までに、権利行使通知を取引所の清算機関に申告しなければならない。
コール、プットの権利行使事例
販売会社には、3月限ガソリンオプション1ガロン 60 セントが権利行使価格である 42,000 ガロンの買建てがあり、 現在の3月渡のガソリン先物価格は 64 セントであるとする。 オプションが権利行使されると、販売会社は 1680 ドル(42,000 ガロン/契約×4セント/ ガロン)の値洗い益のある3月限先物契約の買建てが成立する。希望すれば、先物の建玉を 直ちに差金決済することも可能である。 次の例では、生産加工業者が8月限大豆油1ポンド 20 セントを権利行使価格とする先物 プットオプションを 60,000 ポンドもっているとする。生産加工業者は8月限先物価格が1 ポンド 18.5 セントの時に権利行使すると、8月限大豆油の先物契約の売建てに加え 900 ド ル(60.000 ポンド/契約× 1.5 セント/ポンド)を受け取ることになる。先物の売建ては 直ちに差金決済するか、またはその満期まで任意の数量を保持することも可能である。 109
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- オプションの買建てを権利行使すると、オプションの売り手であるオプション売り方に対 して権利行使がなされる。上記の最初の例では、ガソリンのコールオプションの売り方はオ プションの権利行使価格(1ガロン当り 60 セント)でガソリン先物の売建てが成立し、そ のポジションは直ちに値洗いされて、オプションの売り方から損失分 1680 ドルが買い方へ 支払われることになる。2番目の例では、オプションの売り方は1ポンド当り 20 セントの 権利行使価格で8月限大豆油先物の買建ても成立し、そのポジションは直ちに値洗いされて、 オプションの売り方から支払われる 900 ドルが清算機関を介してオプションの買い方に支 払われることとなる。
オプションの注文種類
先物オプションは、先物取引と同様に、取引フロアや電子取引を介して取引される。取引 フロアでの取引では、オプションはフロア ・ ブローカーや個人会員によるオープン・ アウト・クライにより取引され、通常は先 物取引のピットとほんの数フィート離れた ピットで取引が行われる。オプションの注 文種類やそれらの入力方法が、オプション 用語体系に対応するように専門用語を調整 して、先物取引に合わせているのも理にか なっている。オプションの注文事例は以下 のとおり。先物注文の詳細な説明について は、第4章を参照のこと。
成行注文
例:買付 コール5枚 6月限 金 305 成 り行き 例:売付 プット 3枚 7月限 原油 26 成り行き 売買指示(買付けまたは売付け)の直後 にオプションの種類(コールまたはプッ ト)が明示されていることに注意してほし い。売買指示やオプションの種類の誤認は 損失が巨額となる可能性が高いので、オプ ションの注文ではこのようなことがよく行 110
シカゴのダウンタウンにある CME の複合施設 〈写真提供:Chicago Mercantile Exchange〉
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- 第6章 先物オプション取引
われている。注文の他の部分の誤認も、決して受け入れられないが、比較的損失が小さいと 考えられる。成行注文は、取引フロアのフロア ・ ブローカーや電子取引により、受注された 時点での最良の価格で取引される。成行買い注文は、市場に出されている売り手となる市場 実勢売却価格で付け合せが行われる。成行売り注文は、市場に出されている買い手がまさに 買い付けをする市場実勢購入価格で付け合せが行われる。
指値注文
例:買付 プット 10 9月限 米国長期国債 01、1-19 例:売付 コール 5 7月限 トウモロコシ 250、18 指値注文は、トレーダーが取引において受け入れられる最悪価格を示す。トレーダーは、 フロア ・ ブローカーがより良い取引を執行できれば、その価格を受け入れると考えられる。 上記の例示には「指値」とは書かれていないが、特定の価格を示せば指値注文と考えられる (指値注文は、米国長期国債 9月限権利行使価格 01 のプットを1 19/32 以上の好条件 (OB)で買い付けるように、"Or Better" or "OB," と表記される場合がある。これにより指値 注文とロスカット注文との混同を防げる) 。 したがって、指値注文で買い付けるには、トレーダーが取引契約のために支払うことにな る最高価格を提示する。いいかえれば、買い方にとっての最悪な価格が最高値である。買い の指値注文は、指値またはそれより低い価格でのみ執行される。買い指値注文は、現在の価 格が指値へと下落すると買付けが成立するように、現在の市場価格よりも低い価格で指値さ れる。 指値注文で売り付けるには、トレーダーが売付けの売買契約を受け入れる最低価格を提示 する。売りの指値注文は、指値またはそれよりも高い価格でのみ執行される。売り指値注文 は、現在の価格が指値へと上昇すると売付けが成立するように、現在の市場価格よりも高い 価格で出される。市場価格が一度も指値に届かない場合、フロア ・ ブローカーは、注文は “ 不成立 ” として報告することになる。
スプレッド注文
例:スプレッド 買付 コール 3 6月限 日本円 9500 売付 コール 3 6月限 日本円 9600、45 デビット OB (日本円通貨先物6月限権利行使価格 9500 コール3枚買いと、日本円通貨先物6月限 権利行使価格 9600 コール3枚売りを 45 の支払いでスプレッド注文)
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- 例:スプレッド 買付 プット 1 7月限 砂糖 600 売付 プット 1 7月限 砂糖 500、27 デビット OB (砂糖7月限権利行使価格 600 プット1枚買いと、7月限砂糖権利行使価格 500 プット 1枚の売りを 27 の支払いでスプレッド注文) オプションのスプレッドは、コールの買いと売り、またはプットの買いと売りのポジショ ンである。トレーダーは、先物価格曲線上の異なる点や時間軸の異なる期間をこのように組 み合わせて同時に取り扱うことにより、利益を得ることができる。スプレッド注文は、スプ レッド・ポジションの組合せ(またはレッグ)の買建てや売建てを一回の注文により作るか または相殺するために利用される。 最初の例は、ブル・デビット・スプレッドの注文である。狙いは権利行使価格が異なるこ とから発生する利益であり、理想的には先物価格が満期日に最低でも 9600 を上回ることで ある。この価格以上でトレーダーは追加的利益を得る。オプション料の差額が “ 支払い ” と 表記されることには注意してほしい。この取引からの差し引きオプション料は、買付けの レッグからのオプション料の支払いが、売付けのレッグからのオプション料の受け取りを上 回るために支払い超過となる。 2番目の例は、ベア・デビット・スプレッドである。狙いは権利行使価格が異なることか ら発生する利益であり、理想的には満期日の先物価格がせいぜい高くても 500 であるが、 一方で、500 を下回る下落がもたらす余得は放棄していることになる。 スプレッド注文は、上記の例のように(オプション料の)特定された値での支払い、受け 取る価格を指値、または「成り行き」で発注されることに留意すべきである。誤認(の発 生)を防ぐために、各スプレッド注文では買い注文が先に表記され、かつスプレッドとの表 記を注文の指示内容に先だって表記する必要がある。 いずれの注文も満期日が同じで権利行使価格が異なるレッグのスプレッド注文である。発 注登録手続は、異なる満期日や同一または異なる権利行使価格のスプレッドでも同様である。
ストラドル注文
例:ストラドル 買付 コール 5 7月限 銅 8000 買付 プット 5 7月限 銅 8000、575 デビット OB (銅7月限権利行使価格 8000 のコールを5枚と、銅7月限権利行使価格 8000 のプット 5枚のストラドルを 575 の支払いで買付け) 112
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- 第6章 先物オプション取引
例:ストラドル 売付 コール 1 7月限 天然ガス 310 売付 プット 1 7月限 天然ガス 310、420 クレディット OB (天然ガス7月限権利行使価格 310 のコール1枚と天然ガス7月限権利行使価格 310 の プット1枚を 420 の受取で売付け) ストラドルオプションは、権利行使価格と満期日が同一の建玉であるコールとプットを用 いて、コールとプットの買付けやコールとプットの売付けを行うことである(関連する建玉 として、プットとコールの権利行使価格が異なるアウト・オブ・ザ・マネーのストラングル がある) 。ストラドルは、両方向の急な値動きや値動きの乏しさ、つまり原資産の先物契約 のボラティリティ水準の変化からトレーダーが収益を得られるものとして位置づけられる。 ストラドル注文は、1回の注文でその両レッグを作るため、つまり相殺するため利用される。 最初の例は、ストラドルの買建ての例である。トレーダーは、7月限銅の価格がストラド ルを構成する2つのオプションの対価をカバーするのに十分なほど1オンス 0.8000 ドルを 超えて上下に大きく変動すると予想している。ボラティリティの観点で捉えれば、ボラティ リティの上昇は、コール、プットともオプション料を上昇させ、ストラドルの買い方に資す る。2番目の例は、ストラドルの売建て注文の例である。トレーダーは、7月限天然ガスの 価格が 3.1000 ドル近辺で留まるか、またはボラティリティの下落によりコール、プットの オプション料が下落すると予想している。上記のストラドル注文は指値注文であるが、成行 注文も可能である。
考えてみよう
オプション取引は、リスク管理手法に優れた特徴を追加するものである一方で、利用者 (ヘッジャー)はオプションの購入価格、とりわけ長期のオプションの購入価格を実際には 法外な価格だと考えているかもしれない。フィナンシャル・エンジニアたちは精力的な取組 みで特殊なオプションや組合せの工夫により、ペイオフの変更やコスト削減を実現する手法 を開発してきた。読者の皆さんもヘッジコストの削減と期待収益をバランスさせる手法の考 案に挑戦してみてはいかがだろうか。
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- 第6章付録 ──
プット−コールパリティー
プットとコールの価格と、原資産である先物契約とは相互に一定の関係がある。このよう な関係を表す専門用語が「プット・コール・パリティ」である。この特性は、シンセティッ ク・ポジションと実際の取引の両方が同一の利益/損失プロファイルを形成するため、シン セティック・フューチャーの価格が実際の先物に等しくなければならないことに起因する。 図表6.A1 は、満期日におけるカナダドルオプション(68 を権利行使価格とするコール とプット) 、シンセティック・フューチャー買建て(コール買建て+プットの売建て)や、 シンセティック・フューチャー売建て(コールの売建て+プットの買建て)の価格を示して いる。満期日における異なる先物価格によるポジション価値を示している(注 オプション はヨーロピアンオプション、取引コストは0、計算からはオプション料は除外することを前 提条件とする) 。 シンセティック・フューチャー(買建て、売建てともに)は、最終満期日の価格がいくら であれ、先物の実際の取引と同じ結果となる。言い換えれば、シンセティック・ポジション は実際の先物契約が 0.68 ドルの時に同一の利益または損失をもたらす。もし実際の先物取 引が 0.6815 ドルとなり、コールとプットの価格が、コールの買付けで支払うオプション料 とプットを売り付けるときに受け取るオプション料とがまったく同額となるならば、裁定取 引者(アービトラージャー)は 0.6800 ドルで買建てを合成し(コールの買付けとプットの 売付けによって) 、かつ実際に 0.6815 ドルで先物契約を売り建てる。このことは満期時に 0.0015 ドルの利益をもたらす。したがって、そのような裁定取引利益の発生を防止するた めには、コールの買建て/プットの売建てを組み合わせるコストが 0.0015 ドルの現在価値 と同価とならなければならない。 代数的には、裁定関係式は以下のとおり。 C =コールの価格 P =プットの価格 F =先物価格 S =行使価格 r =金利(下記参照) d =満期日(受渡日)までの残存日数 1/(1+ rd/360)=現在価値への引き直し 114
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- 第6章 先物オプション取引
図表6.A1 先物、オプション、シンセティック・フューチャーズ(カナダドルの場合)
満期日の 先物価格 .6600 .6700 .6800 .6900 .7000 権利行使価格 68 コール 0 0 0 .0100 .0200 権利行使価格 プット 68 .0200 .0100 0 0 0 コールの買い +プットの売り − .0200 − .0100 0 .0100 .0200 コールの売り +プットの買い .0200 .0100 0 − .0100 − .0200
単純化すると、低金利、短期間(満期日まで1、2カ月程度) 、現在価値への引き直しが 限りなくゼロであるならば、上記の計算式はこの様に簡略化できる。 C−P=F−S しかしながら、高金利であるとき、または残存期間が数カ月あるときには、完全な計算式、 すなわち、金利と残存日数を考慮した計算式は、常に有効である一方、簡略化した計算式は 有効ではない。完全な計算とや適用金利(すなわち資本コスト)を用いれば、コール(プッ ト)のパリティ価格(すなわちオプション料)は、原資産の先物契約価格と同じ権利行使価 格であるプット(コール)のオプション料によって計算できる。
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- FUTURES & OPTIONS
第7章 先物・オプションを使った ヘッジ
◦ 一般社団法人金融先物取引業協会 元調査部長 宮崎雅雄
この章を読み終えると、次のことができるようになる。 ◦ヘッジの背景にある基本原則を特定する ◦さまざまな現物と先物価格の関連性を説明する ◦ヘッジャーにとってベーシスがいかに重要であるかを説明する
これまでの章で説明してきたように、先物契約や先物取引を決定するルールの多くは、 ヘッジャーとして知られる商業トレーダーのリスク管理ニーズに応えるために存在する。先 物・オプション市場との関連においては、ヘッジは生産、加工、所有権に関連する価格リス クまたはその他のコモディティ、金融商品、その他の商品または指標の利用に関連する価格 リスクを管理するための手段を利用することと定義することができる。 ヘッジャーは、畜産や製造、売買、生産物の輸出、投資ポートフォリオ運用などのどれを 取り上げても、事業や投資活動から生じるリスクを抱えている。先物・オプションは、原資 産であるコモディティや他の商品の価格リスクを減少させるため利用される。ヘッジャーの 116
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- 第 7 章 先物・オプションを使ったヘッジ
先物・オプションのポジションは、ネットのリスク管理を唯一の目的とする。対照的に、ス ペキュレーターの先物・オプションのポジションは、利益を追求してネットのリスクテイキ ングを行うことを意味する。 ヘッジ取引とそれに伴うベーシスなどの価格決定の考え方は、先物の最も重要でかつ最も 理解しにくい部分である。ただし、これらのトピックスの一般的な理解のためには、ヘッ ジャーのリスクとそのリスクを均衡に保つか、または減少させる先物やオプションのポジ ションを特定するという比較的単純な作業から始まる。
基本概念
現物と先物の価格相関関係
一般的に、先物・オプション市場は、価格リスクを管理するために利用されるものであり、 実際の現物コモディティや他の原資産の取得や処分の手段として利用されるものではない。 なぜなら先物・オプションは、通常、所有権を実際に移転するための最も効率的な伝達手段 ではないからである。ヘッジャーでさえ、次のいくつかの理由で先物に対して受渡しを行う ことはめったにない。 ◦その先物受渡等級は、ヘッジャーが必要とするものまたは生産するものと同じでないこ とがある ◦その先物受渡場所は、ヘッジャーにとって不便な場所または適さない場所にある ◦その先物受渡日が、ヘッジャーのコモディティの引渡し時期またはその受取り時期と一 致しないことがある ただし、先物契約に定める商品の先物市場と現物市場の間の価格変動には通常、非常に高 い相関関係があるので、先物または関連するオプションによるヘッジは、たとえヘッジャー に引き渡したり、引渡しを受ける意図がないとしても、現物市場のエクスポージャーのバラ ンスをとるにはきわめて効果的である。実際、先物・オプションによってヘッジすることは、 現物と先物の間に価格相関関係があるから正確にできる。相関度が高ければ高いほど、ヘッ ジはより完成度が高くなる。この章の後のセクションでは、ベーシスとして知られる現物と 先物価格の間の関連性について説明する。 この章で参照する現物市場は一般的な市場である。ただし、ヘッジを評価する目的で、 ヘッジャーがその取引を行っている特定の現物市場を利用することが重要であることは、強 117
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- 調しておかなければならない。特に、ヘッジャーは、運送、貯蔵および資金調達などの現物 に関する事業の関連コストに加えて、自らが取引する場所のコモディティの等級に関する現 物市場についても熟知していなければならない。
後で行う現物取引の一時的代用としての先物ポジション
ヘッジャーのリスクと、そのリスクのバランスをとるために使用される先物ポジションを 検討する際は、ヘッジを「後で行う現物市場取引の代用である、今行う先物取引」 、と考え ることは役に立つ。この概念は、ヘッジャーが先物に対して受渡しを行ったり、引渡しを受 けたりする意図がない場合でも、ヘッジャーがリスク管理の目標を達成するために、とらな ければならない先物ポジションへの手がかりとなる。 綿花を生産することで、現物の農産物を必然的に買い建てることになる農場経営者を例に とろう(ビジネスの通常の過程で、自然に現物市場において買建てポジションとなる場合は いつでも、必然的に買建てとなると言う。他のヘッジャー、たとえば、将来必要になるコモ ディティを欠いているヘッジャーは、必然的に売建てとなると言う) 。最終的に、この農場 経営者は地元の現物市場で自分の綿花を売る。しかし、綿花をまだ収穫していない(あるい は植え付けてさえいない)ことなどいくつかの理由で、農場経営者は、 「今は売らない」こ とを選択するかもしれない。そして、後で現物市場において売却する一時的な代用として、 農場経営者は今先物を売り付けることもできる。つまり、このヘッジは、ヘッジが行われる 後の価格に何が生じるかにかかわらず、農場経営者がその農産物の売付価格を固定させたこ とを意味する。 収穫期が到来すると、この農業経営者はその綿花をその地で売り付け、先物の建玉を手仕 舞おうとする。つまり、農業経営者は受渡しをする意図を持たず、先物を価格設定装置にす ぎないものとして利用し、先物を売り付けていた。農業経営者はその地の現物市場で実際の 売却を行うときに、先物の建玉を手仕舞うはずである。なぜならば、その時点では、農業経 営者は先物の売建てをもはや「一時的代用として」必要としないからである。 綿加工業者は農業経営者とは反対の立場にある。彼らは数カ月先に原材料、すなわち綿花 を必要とする。したがって、綿加工業者は、後で現物市場で取引する買付けの一時的代用と して、綿花の先物を今買い付ける。このヘッジャー、あるいはトレーダーなら誰でも、契約 に対して先物契約(差金決済契約でない場合)の最終取引日が到来するときに、綿花の受渡 しを受けるかどうかは自由であるが、通常は、その時ヘッジャーが現物市場で買い付け、同 時に先物の建玉を手仕舞う方がより効率的である。
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- 第 7 章 先物・オプションを使ったヘッジ
現物および先物における等しくかつ反対のポジション
ヘッジャーのニーズを調べるための代替手段は、ヘッジャーが「現物および先物において 等しくかつ反対のポジション」をとることを覚えておく。このアプローチは、ヘッジャーが 現物市場で有しているエクスポージャーに対応するリスクをとるという、先物利用の考え方 を重視している。 注) 「代用取引として先物を使う」アプローチも「等しくかつ反対の取引を行う」アプ ローチも、どちらもヘッジャーのリスクや関連するリスク管理行動を分析するための 手引きとなる。そのような分析を行う場合、どちらのアプローチを使っても同じ結論 に到達する。ただし、もっと複雑なシナリオが発生すれば、一方のアプローチは、結 果が全く同じでも、特定の状況を分析する際は、他方より役に立つこともある。 たとえば、広い範囲の株式ポートフォリオを担当するポートフォリオマネージャーが、近 く公表される経済報告やそれが株式市場に悪影響を与える可能性について懸念する場合、 ポートフォリオの価格リスクをヘッジすることを考えるかもしれない。明らかに、このヘッ ジャーは現物を買い建てている。つまり、この場合、現物コモディティは株式である。先物 で反対ポジションをとるためには、ポートフォリオのドル価値におおむね相当するドル価値 の先物、たとえば S&P500 先物の売建てポジションを必要とする(現物ポートフォリオの 価格が S&P500 指数の価格と強い相関関係にあることを想定している) 。もちろん、ヘッ ジャーは株式を売却したり受渡しを行うつもりは全くなかったが、現物と先物のポジション である以上は、株式市場の変化との感応度において互いに相殺される。
先物を使ったヘッジの例
売りヘッジ
先物において売建てのポジションをとるヘッジャーは、 「売建てヘッジ」または「売り ヘッジ」をすると言われる。先物市場において取引されるコモディティのディーラーである 女性実業家について考えると、彼女はコモディティを顧客に供給するために、先物の買付け もしくは売付けを行い、現物の買付けの注文を出し、そして顧客から注文を受け付ける。し かし、最も重要なのは、彼女が在庫を所有するということである。これらの行為のすべてに おいて、彼女の業務と彼女の利益の両方が価格の変化に影響を及ぼす。彼女は、すべての買 付けが同時に売付けと合致するように、彼女の全取引を仕組む方法を見つけることができる ならば、基本的に在庫エクスポージャーを持たずに、変化する市場価格に与えうる悪影響を 119
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- 回避するだろう。 現物市場でのそのような合致された買付けと売付けを実現することができない場合、先物 でヘッジすることで、彼女はこの種のマッチングを多くの場面で達成することができる。彼 女がこれを行う方法は、彼女が最初に在庫を取得するときに、先物または先物オプション・ ヘッジを引き受け(つまり、彼女が現物コモディティにおいて買建てポジションとなる場合、 先物を売り建てるか、またはプット・オプションを買い付けること) 、その後在庫を売却す るとき先物・オプションポジションを手仕舞うことである。流動性のある先物・オプション 市場で継続して取引が行われるので、現物市場における買付けの約定に合致させるために事 実上先物やオプションを同時に売り付けたり、現物市場における売付けに合致させるために 先物やオプションを同時に買い付けたりすることは、ほとんど問題ない。 当面、買建ての現物ポジションが先物契約の条件に厳密に合致すると仮定する。言い換え れば、現物と先物の価格相関関係は完璧であるとする。この相関関係が完璧であることは めったにないが、この仮定はヘッジの基本的な概念を例示するのに役に立つ。このような場 合、ヘッジャーは現物ポジションの金額を先物契約の正しい数値に変換し、先物で等しくか つ反対のポジションをとる。たとえば、上記のディーラーが金 4,000 オンスを持っている な ら ば、 ニ ュ ー ヨ ー ク・ マ ー カ ン タ イ ル 取 引 所(NYMEX:New York Mercantile Exchange)で金先物 40 枚を売る(この契約の取引単位は金 100 オンス) 。図表7. 1は、 このディーラーのヘッジを示す。言い換えれば、 現物ポジションの大きさ(価値) ヘッジのための先物#枚= 先物契約1枚の大きさ(価値)
図表7. 1 金 4,000 オンスをもつディーラーの先物ヘッジ・ポジション
現物 買建て 4,000 オンス 金 先物 売建て 40 枚 金 先物契約
売建てヘッジは、価格下落があった場合に在庫の価値を保護する。金価格が下落すれば、 ディーラーは在庫に財務上の損失を被ることになる。先物の売建玉は、価格がコモディティ の価格と一緒に動くため、現物の買建てサイドで生じる損失とほぼ変わらない速度で利益を 得る。ヘッジされたポジションの正味の価値は全く変化しない。これは、現物価格が上昇す 120
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- 第 7 章 先物・オプションを使ったヘッジ
るときも同じである。ポジションの現物市場サイドの利益は、先物市場に一致する損失とバ ランスが保たれる。ただし、常に留意しなければならないことは、現物と先物ポジション間 の価格相関関係が変われば、現物と先物の価値の完全な正味の価値の保護以外の結果をもた らすということである。それでもなお、現物と先物価格の相関性が高く、その相関性が期間 中安定している場合、大きなリスクの保護を実現できる。 農場経営者が 10 月 20 日に1万ブッシェルのコーンを穀物倉庫に持って行くとしよう。 穀物倉庫運営者は、その穀物をブッシェル当り 2.50 ドルで買い付ける。同時に、穀物倉庫 運営者は、12 月限コーン先物2枚(1万ブッシェル)を 2.52 ドルで売り付ける。ヘッジ として先物を売り付けることによって、穀物倉庫運営者は穀物の在庫を数カ月先の価格変化 に対するエクスポージャーから保護している。ただし、2週間後には、この穀物倉庫運営者 はコーンを売ることができる。その間に、コーンの現物市場価格が 2.35 ドルに下落した。 穀物倉庫運営者には今、1万ブッシェルの在庫にブッシェル当り 15 セント、合計では 1,500 ドルの損失がある。穀物倉庫運営者がコーンを売る場合、先物の売建てヘッジを買い 戻して手仕舞う。先物価格もブッシェル当たり 15 セント下落していれば(すなわち、先物 および現物価格が完全に相関していた完全ヘッジであった) 、12 月限先物は 2.37 ドルで手 仕舞われる。図表7. 2で示すように、先物ポジションから実現した利益は、現物市場取引 での損失を相殺する。
図表7. 2 売りヘッジ:現物ポジションの損失を先物ポジションの利益で相殺
現物 10 月 20 日 買付 1万ブッシェル $2.50/bu. 11 月 3日 売付 1万ブッシェル $2.35/bu. 利益(損失) ネット結果 ($0.15/bu.) $0.00 先物 売付 2枚 12 月限コーン先物 $2.52/bu. 買戻し 2枚 12 月限コーン先物 $2.37/bu. $0.15/bu.
これらの例では、手数料やヘッジャーの運転資本の証拠金必要額への充当などの先物取引 のための費用を含めていない。手数料は、ヘッジ対象財の価値と比べると、非常に小さい傾 向があるが、事業遂行の費用として無視してはいけない。証拠金の規制に関連するキャッ シュフローの問題、とりわけマージンコール(追加証拠金の請求)に応じるための資本は、 ヘッジャーにとって非常に重要でありえる。このような費用は買いヘッジにも売りヘッジに も当てはまる。 121
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- 買いヘッジ
先物で買建てポジションをとるヘッジャーは、 「買建てヘッジ」または「買いヘッジ」を すると言われる。買いまたは買建てヘッジは、たとえば、ヘッジしようとする者が将来その コモディティを必要とするが、現在はそれを所有しない場合など、原資産であるリスク・エ クスポージャーが現物市場での売建てであるときに、現物コモディティの価格上昇から保護 するために利用される。概念上、買いヘッジは、まさに上述した売りヘッジと反対である。 たとえば、銅加工業者が銅線を供給し、新オフィスビルに配線する契約を獲得するとしよ う。銅加工業者が受け取るこれらの製品の価格は、入札価格に基づいて決定される。しかし、 銅加工業者は必要な製品を製造するための十分な銅をまだ持っていない。その契約を得るた めに、彼らの原価計算に現在の銅価格を使用することは、もちろん戦略の1つだった。 ヘッジャーは、その価格が下落するか、そうでなければ、少なくとも契約入札に使用した 価格と同じレベルに納まることを期待して、銅の買付けを待った。銅価格が下落すれば、投 機的利益をもたらすこともある。しかし、銅価格が上昇すれば、銅加工業者は財務上の損失 を被ることもあり、またその損失が事業から締め出されるほど相当大きいという可能性もあ る。 銅加工業者の目標は、販売と製造から利益を上げることであって、一度の有利な価格変化 に事業の存続を危険にさらすことではないので、先物市場のヘッジの方を選ぶ。そうするこ とで、銅加工業者は効率的な製造と販売の業務を営むことに注力することができる。代用取 引アプローチでは、ヘッジャーは将来、現物の銅を買い付ける必要性に対して、今日ヘッジ として先物を買い付ける。銅加工業者はその後現物市場で銅を買い付けるときに、銅先物の 買建玉を手仕舞うことができる。図表7. 3では、買いヘッジ取引を説明する。
図表7. 3 買いヘッジ:現物ポジションの利益を先物ポジションの損失で相殺
現物 12 月 1日 売付 10 万 Ibs. $0.8850/Ib. 11 月 3日 買付 10 万 Ibs. $0.8300/Ib. 利益(損失) ネット結果 $0.0550/Ib. $0.00 先物 買付 4枚 3月限銅先物 $0.8775/Ib. 転売 4枚 3月限銅先物 $0.8225/Ib. ($0.0550/Ib.)
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- 第 7 章 先物・オプションを使ったヘッジ
ベーシス=現物価格-先物価格
前述のとおり、現物と先物価格の関連性は、現物-先物ベーシスと呼ばれ、先物市場およ び現物市場リスクをヘッジするための先物の使用における中心的な考え方である。伝統的に、 ベーシスは次のように定義されてきた。 ベーシス=現物価格-先物価格 この定義では、正のベーシス(現物が先物を上回ると説明されることが多い)は、現物価 格が先物価格を上回ることを示し、一方、負のベーシス(現物が先物を下回ると説明される ことが多い)は、現物価格が先物を下回ることを示す。ただし、特定の「現物-先物」ベー シスを正または負と分類する場合は、適切な注意が払われなければならない。つまり、考察 の中では、同じ定義がすべての当事者に使用されることを保証する必要がある。 前述の例では、現物と先物市場の両方の価格がちょうど同じ額だけ上昇し、下落すると仮 定していた。完全な相関は完全なヘッジを生じさせるからである。これは、ヘッジが最初に 行われた時からそれが解除された時まで、ベーシスが変化しないというのと同じである。こ れは、あるとしても、めったに起こらない。現物と先物市場が価値関連性を保っているため、 2つの市場の価格が同じ方向に動く傾向はありうる。しかし、現物市場価格は、特定の期間 の間、先物価格よりも高くなったり低くなったりして変化する可能性がある。 ベーシスについて考えることは、ヘッジするためには非常に重要である。実際に、ヘッ ジャーがベーシス・リスクのために(ヘッジされない在庫またはニーズを持つ)アウトライ ト価格リスクを取引してきたと言われることが多い。この残存リスクは、ヘッジャーがリス クを軽減すると言われているが、通常はリスクを排除するものではない。 ベーシスが変化する理由の多くは、ヘッジされる特定のコモディティや商品に密接な関係 がある。異なる等級や種類のコモディティ、または異なる受渡し場所の供給と需要に関して、 さまざまな影響が及ぶ市場と経済事象は、ベーシスに強い影響を与える可能性がある。前に も強調したように、ヘッジャーはそれぞれ、その取引する現物市場と先物・オプション市場 における価格とを関連づけ、その関連性に影響する状況の変化に対応しなければならない。 先物契約の取引条件と比較するとヘッジャーの所在地は、さまざまなコモディティのベー シスに異なる影響を及ぼす1つの要因である。たとえば、メキシコ湾岸の輸出用現物穀物の 123
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- 価格変動は先物契約の価格変動と異なることがあり、そしてその先物契約は受渡場所を米国 の北中西部と特定している。これらの相異は、鉄道や荷船に関する輸送問題または米国穀物 に対する外需の現状に関して起こる輸送問題によるものかもしれない。これらの要因とその 他の要因が自らのベーシスに作用すること、つまり、シカゴの穀物先物と比較したニュー オーリンズの現物穀物価格に影響することを知って、ニューオーリンズの輸出業者が CBOT の先物を利用してヘッジすることがある。 ヘッジに見合う等級や種類、またはヘッジ対象のコモディティにばらつきがあることもま たベーシス・リスクの要因である。これもまた、異なるコモディティでヘッジャーが異なれ ば、その影響の重要さも異なる。そのうちの1つが、近く発行される債券が原因で長期金利 リスクをヘッジしようとする企業の例である。この場合、この企業は社債を米国長期(また は中期)国債先物でヘッジするだろう。このヘッジャーは、同社が発行する信頼性の高い社 債と国債先物との価格関係を詳細に追跡しなければならない。 最後に、先物契約の取引単位がヘッジされる数量と必ずしも一致しないということは、完 全な価格保護を自動的にできないこととは別の要因である。たとえば、シカゴ・マーカンタ イル取引所(CME:Chicago Mercantile Exchange)の冷凍豚三枚の肉先物契約は、受渡し を冷凍三枚肉 40,000 ポンドとしている。この数量の倍数ではない数量の豚三枚肉をヘッジ することによって、現物市場エクスポージャーの一部分がヘッジ過多またはヘッジ不足とな る。
異時点間の価格関係
現物と先物価格には、上記の状況に加えて、先物・オプション市場は、現在ではない将来 の受渡しのために価格をつけるという事実から生じるベーシスおよび他の価格関係の問題が 存在する。これらの要因もまた、異なる市場の異なる重要度で影響するが、すべての先物・ オプション市場で関連している。 市場内でさまざまな先物限月の価格を見ると、これらの契約が常に同じ価格で取引されて はおらず、むしろ、互いにプレミアム付き、または割引されて取引されていることがわかる。 これらのプレミアムまたは割引は、一般的には、先物契約の期日の違いを反映する。たとえ ば、無鉛ガソリンが現物市場で1ガロン当り 0.8120 ドルで売れるとする。一方、2月限先 物は 0.8216 ドルで、3月限先物は 0.8385 ドルで取引されかねない。これらの価格の違い は公開市場で行われる結果であり、刻々と変化する市場状況によって変化する。
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- 第 7 章 先物・オプションを使ったヘッジ
正常な、キャリーまたは順鞘の市場
正常な市場またはキャリー市場(別名、順鞘市場)とは、連続する先物が期先ほど高く なっている市場のことを言う。つまり、契約満了または受渡しまでの時間が長ければ長いほ ど先物価格はより高くなる。先物限月の価格間の差異、あるいはスプレッドは、需要と供給 状況ならびに持越費用の影響を反映する。後者の持越費用には、一般的に、保管や保険、資 金調達コストが含まれる。持越費用の3要素は、仮にあったとしても、明らかに、市場が異 なれば影響が異なる。たとえば、金属の現物の保管は、これらの3つの費用が全て発生する。 債務商品の持越しでは、純金利費用(債務商品は金利を受け取る一方、その商品の買付けの ための資金調達には金利の支払いが必要であるため、正味となる)だけが生じる。正常な市 場またはキャリー市場の先物価格 を図で示すと、 図表7. 4 のよう になる。
図表7. 4 順鞘市場における連続する限月の価格
逆鞘市場
スポットまたは期近限月の価格 が最も高く、各連続する限月がそ の前の限月よりも低い価格である ことがある。これは、逆鞘市場あ るいは逆鞘と呼ばれ、 図表7. 5 に示される。穀物や石油、工業用 金属のような現物財の先物市場で は、繰延契約にかかるプレミアム に期近のビッドの供給を必要とす るものの、現在のコモディティが 不足し、その供給が当面できない 人々がいるときは、逆鞘市場が生 じる。米国国債または通貨のよう な金融商品の先物市場においては、 逆鞘または順鞘は、現物商品に関 して受け取る金利(たとえば、長 期または外国金利でありうる)と、 その商品を保有する金利支出(通 常、短期金利である)との関連性 により生じる。たとえば、米国債 125
9月 6.00 12 月 6.05 1月 6.10 3月 6.15 5月 6.20
7月 6.30
図表7. 5 逆鞘市場における連続する限月の価格
9月 6.60
12 月 6.45
1月 6.40 3月 6.35 5月 6.30
7月 6.25
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- 先物は、長期金利が短期金利を上回る場合、逆鞘市場で取引される。
収れん(コンバージェンス)
先物と原資産である現物コモディティの価格は、先物価格が先物契約の満了時に現物価格 に収れんしなければならないため、密接に関連する。同じ場所での受渡初日における現物受 渡契約、その先物価格およびそのコモディティの同一等級の現物価格については、同じでな ければならない。なぜなら、受渡時においては先物契約が現物コモディティと変わらないた めである。差金決済契約については、満了する先物契約は指定された現物価格で決済される。 先物価格と現物価格が受渡時または差金決済時に常に収れんするということは、その時点 において想定される持越費用や需給を考慮したうえで、先物価格と現物価格が密接に関連す ることを意味する。価格が大きく外れる、たとえば先物が現物の価格に比べて高すぎる場合、 相対的に高すぎる先物を売り付け、相対的に低すぎる現物商品を買い付けると、無リスクで 利益を得ることが可能になるはずである。これらの価格は、満了時において収れんするはず なので、トレーダーは、満了時、先物の売建ての決済のために、現物商品を引き渡すことに よって利益を得る。これは裁定取引(アービトラージ)と呼ばれ、リスクをほとんどまたは まったく払わずに利益を得ることができるため、先物価格は長期間、現物価格と乖離してい ることは稀である。 さらに、裁定取引が可能であることは、原資産であるコモディティまたは有価証券に影響 を及ぼしていることと同じ経済的要因によって、先物市場での価格が決定されることを意味 する。その結果、現物コモディティ価格に影響する変化、または将来そうなることを予想で きる要因が生じれば、それは、先物市場に同様の影響を及ぼす。
図表による具体例
これらの考え方は、ココアのような有形で貯蔵可能なコモディティがヘッジャーのような、 単純な事例を理解するうえで最適である。4月1日に、あるヘッジャーは、9月1日の時点 でココアの在庫を保有している必要があるとしよう。ヘッジャーは、ココア現物市場におけ る売り手の供給希望価格水準とこれらの現物価格と比較した先物価格の両方を調べる(現物 および先物価格は1トン当りドルで見積もられる) 。 4月1日 現物ココア 810 9月限先物 872 ベーシス 62 アンダー
これらの価格は正常な市場を反映し、ベーシスは、 「現物 62 アンダー9月限先物」である。 126
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- 第 7 章 先物・オプションを使ったヘッジ
ヘッジャーが5カ月間ココアを保有する費用を計算すると、おそらく1トン当り 75 ドルに なる。ヘッジャーは今ココアを 810 ドルで買い付け、872 ドルで9月限先物を売り付ける ことによってヘッジすることにする。9月1日には、現物と先物価格が収れんし、このヘッ ジャーは1トン当り 62 ドルの収益を得ることになる。 しかし、ヘッジャーは5カ月間コモディティを保有するための出費 75 ドルを被ったので、 トータルでは利益となっていない(上で説明したように、ベーシスはヘッジャーが持越費用 の 75 ドル以上の額を受け取ることができるようであってはならない。もしそれが、仮に あったとしても、この裁定機会は比較的小幅、かつ一瞬のものにとどまるであろう) 。しか し、ヘッジャーは在庫や価格保護を保証しながら、正常な市場で、これらの持越費用の大半 を利益として得ることができた。収れんが必然であることがこの結果を保証する。この図表 の説明では、ベーシスが持越費用の大半を補う水準に定まるという価格構造が、ヘッジャー にコモディティ在庫を保有し続ける動機を与えている。 その一方で、たとえば、下に示すように、市場価格構造が順鞘から逆鞘へ劇的に変化する 場合がある。 6月 15 日 現物ココア 985 9月限先物 960 ベーシス 25 オーバー
ヘッジャーは、62 ドルの収益を受け取るため、 (在庫を維持しながら)9月1日まで待と うとして4月1日にポジションを作ったが、6月 15 日に、87 ドル(6月 15 日のベーシス 25 -4月1日のベーシス 62)という、当初予定より多くの利益を、かつずっと短い期間で 受け取る機会を得る。これらの収益は、コモディティを保有する費用を上回る正味の利益を わずか2カ月半でもたらすことになるだろう。 逆鞘市場に関するこれまでの議論では、それらが現物の過少供給状況からしばしば生じる ことを示唆した。この利益を実現するためには、ヘッジャーは、先物を手仕舞わなければな らなくなるだけでなく、在庫を売らなければならない。したがって、ヘッジャーは予想外に とても有利なベーシスの変化があったとしても、必要なときに在庫を維持することを確実に するために、現物在庫と先物ヘッジを維持することを選択するかもしれない。 市場が4月1日に逆鞘になっていたならば、ヘッジャーはまったく在庫を購入しないこと を選択する可能性もあるだろう。つまり、ヘッジャーは現物を買い付け、先物(正常な市場 で売建てヘッジャーにとって好ましいポジション)を売り付ける代わりに、9月限先物を買 127
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- い付け、先物市場の「その在庫の保有」を選択していたかもしれない。 例: 4月1日 現物ココア 1030 9月限先物 990 ベーシス 40 オーバー
逆鞘市場は、ヘッジャーが現物価格以下の価格で、また原材料保有のための費用を出費す ることなく、安値で、先物市場において将来の受渡しのための供給物を買い付けることがで きる。また逆鞘市場は、ココアの多くの当業ユーザーによる供給に対する差し迫ったニーズ を示しているが、このヘッジャーは現在深刻なコモディティ不足にならないことに見返りが ある。
ベーシスおよびヘッジ取引
先物市場の価格構造とベーシスは、ヘッジャーにとって、価格水準以上に考慮すべき特徴 が他にもあることを示す。特に重視するのは、現物/先物ベーシスを理解し、追跡すること である。その理由は、ヘッジの正味の結果は、現物および先物ポジション間の正味の価格変 化、すなわちベーシスの変化だからである( 「ベーシス=現物-先物」の定義を思い出すこ と) 。 ベーシスは大変重要なので、アウトライト価格を表すために用いられる用語に似た言葉を 使ってその変化が示される。現物価格が先物価格よりも強い時、すなわちヘッジが保有され る期間にわたって、現物の方が先物よりも下落幅が小さい時に、ベーシスは、強くなってい ると言われている。また、現物価格が先物価格よりも弱い時、すなわちヘッジが保有される 期間にわたって、現物の方が先物よりも下落幅が大きい時に、ベーシスは、弱くなっている と言われている。
ロング・ザ・ベーシス(ベーシス買い)
売建てヘッジまたは売りヘッジは、先物市場において売建玉を持つことであると説明した。 一方ベーシス用語では、現物の買建てと先物の売建てを有するヘッジャーは「ロング・ザ・ ベーシス(ベーシス買い) 」と言うことができる。他の買建てポジションと同じく、この ヘッジャーは価格の強さ、特にベーシスの強さから利益を得る。この強さは、現物価格が先 物価格よりも強い場合、すなわち、ヘッジが保有される期間にわたって現物価格が、先物よ りも下落幅が小さい場合に生じる。前の図で説明したように、持越費用の場合において、売 建てヘッジャーは順鞘市場または持越費用の補てんに充てることが可能な支払いを受ける機 会を得られるかもしれない。図表7. 6は現物とキャリーヘッジの例を示している。 128
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- 第 7 章 先物・オプションを使ったヘッジ
図表7. 6 ヘッジャーがロング・ザ・ベーシスあるいは現物とキャリーヘッジを行う
現物 1月 15 日 買付け 100 トンココア $750/ton 5月 1日 売付け 利益(損失) ネット結果 $738/ton ($12/ton) $40/ton 先物 ベーシス
売付け 10 枚 5月限ココア先物 $790/ton40 アンダー 買戻し $738/ton 0 $ 52/ton + 40
図表7. 7 ヘッジャーがショート・ザ・ベーシスを行う
現物 4月1日 6月1日 売付け 56 万 Ibs. 砂糖 8.70¢ /Ib. 買付け 56 万 Ibs. 8.80¢ /Ib. (0.10/Ib.) 20/Ib 先物 買付け 5枚 7月限砂糖先物 転売 5枚 7月限砂糖先物 ベーシス 8.30¢ /Ib.40 オーバー 8.60¢ /Ib.20 オーバー 0.30¢ /Ib. 0.20
利益(損失) ネット結果
ショート・ザ・ベーシス(ベーシス売り)
買建てヘッジまたは買いヘッジは、先物市場において買い建玉を持つことであると説明し た。一方ベーシス用語では、現物の売建てと先物の買建てを有するヘッジャーは「ショー ト・ザ・ベーシス(ベーシス売り) 」と言うことができる。他の売建てポジションと同じく、 このヘッジャーは、価格の弱さ、特にベーシスの弱さから利益を得る。この弱さは、現物価 格が先物価格よりも弱い場合、すなわち、ヘッジが保有される期間にわたって、現物価格が 先物よりも下落幅が小さい場合に生じる。すでに説明したように、逆鞘市場で買建てヘッ ジャーがその在庫をすぐに必要としていない場合は、より少ない費用で在庫を置き換えるこ とができる。図表7. 7はショート・ザ・ベーシスのヘッジャーの例を示している。
EFP
先物ポジションを保有する者が、先物契約の取引条件とは異なる条件で受渡しを行おうと する場合がある。また、現物を取り扱う商人が、現物取引を行い、同時に先物ヘッジを設定 しようとすることもある。このようなことは頻繁に起こるため、先物取引所はこの事態に対 129
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- 処するよう先物と現物との交換、すなわち略して EFP(Exchange For Physicals)と呼ばれ る特別の手続を規定してきた。歴史的に見て、EFP は穀物市場では一般的であり、現在は他 の先物市場でも広範囲に利用されている。 EFP は、ある者が現物コモディティを買い付け、同時に別の者に先物を売り付ける一方で、 別の者が現物コモディティを売り付け、同時に先物を買い付ける取引である。先物ポジショ ンの価格、先物や交換されるべき現物コモディティの数量、現物コモディティの価格や他の 条件は、先物契約で標準化されたり取引ピットで競争的に決定されたりするのではなく、当 事者間で交渉される。 EFP は、先物契約の事前合意型取引に関する一般禁止事項の例外である。言い換えれば、 EFP は、取引ピットでの取引を通さない先物ポジションの取引を認めている。通常、取引所 規則は、EFP が、原資産である現物コモディティを取引する者またはその会社にのみに利用 されることを求めている。取引所は手続が適正に利用されていることを確かめるため、しば しば EFPトレーダーを監査する。 エネルギー市場では EFP を利用する。たとえば、現物原油やガソリン、灯油の取引は、 関連のある先物価格に関して EFP がしばしば行われる。これらの価格は、通常、ベーシス の別の呼び方でもある「値差」で提示される。たとえば、あなたがアラスカ・スロープ原油 10 万バレルを買い付けたかったと仮定しよう。そうすると、18.00 ドル(この特定の原油 のバレル当りのありうる時価)の価格ではなく、 「4月限 Merc の上 50 ポイント」の価格 を提示される。これは、アラスカ・スロープ原油とニューヨーク・マーカンタイル取引所 (NYMEX:New York Mercantile Exchange)で取引される4月原油先物契約の価格との間に 50 セントの値差があることを意味する。EFP が提示されるとき、あるトレーダーは現物の 買建てと先物の売建てとなり、別のトレーダーは現物の売建てと先物の買建てとなる。 EFP は金融先物市場で同じ役割を果たす。通貨のディーラーやヘッジャー、裁定取引者は EFP を利用して、ヘッジまたは手仕舞いし、現物と先物間をスムーズに移動する。株式のト レーディングデスクは、EFP を利用して株式のバスケットを効率的にヘッジしたり取引した りする。
クロス・ヘッジ取引
クロス・ヘッジ取引は、取引市場が存在しない現物ポジションをヘッジするために、先物 市場を利用する。クロス・ヘッジ取引を成功させるための鍵は、価格の動きがヘッジ対象の 130
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- 第 7 章 先物・オプションを使ったヘッジ
現物商品と密接に相関している先物契約を見つけることである。相関関係は統計的関係にお いて、先物契約の原資産であるコモディティとヘッジされる現物コモディティの関連性が適 切に評価されるよう配慮がされなければならない。特に、価格関係は時間とともに変化する 可能性があるため、そのような評価をする際多くの複雑な事態が起こることがある。 クロス・ヘッジ取引が可能な場合は多い。よく使われる例として、ジェット燃料エクス ポージャーをヘッジするために灯油先物を利用する場合や、社債の保有や発行に関連するリ スクをヘッジするため国債先物を利用する場合である。クロス・ヘッジは、ジェット燃料あ るいは社債の先物が不足する場合に必要とされる。 たとえ、より流動性のある契約が原資産である現物エクスポージャーを厳密には表さない 可能性があるとしても、クロス・ヘッジ取引を行う別の理由は、流動性のある先物契約をよ り流動性のない契約の代用とすることである。たとえば、特定の株式ポートフォリオにより 密接に適合する別の株価指数商品があるとしても、S&P500 株価指数先物契約でヘッジする ことがある。S&P500 契約が提供する流動性は、流動性が少ない契約の比較的高い価格相関 関係を上回る価値があるかもしれないからである。 ヘッジャーは加工品に対するエクスポージャーを保有しているが、先物は未加工のコモ ディティにしか存在しない場合にもクロス・ヘッジ取引が利用される。たとえば、パン製造 業者は小麦粉の価格変化に対するエクスポージャーを保有しているが、小麦粉の先物契約が 存在しない場合がありうる。結果的に、パン製造者業は小麦粉の価格が小麦粉の価格以外の 要素を含むことを知って(こうしてベーシス・リスクを認識して) 、小麦先物を使ってヘッ ジすることを選ぶかもしれない。 クロス・ヘッジ取引においては、どのようなヘッジもそうであるように、 「現物-先物」 のベーシスおよびベーシスの変化を監視する必要がある。ただし、このような場合にはベー シスに対する別の側面がある。具体的には、ヘッジされる現物商品またはコモディティと先 物契約の基礎となる現物との関連性もまた追跡されなければならない。その意味では、場所、 時期、等級などが先物契約とは異なる受渡しに基づくヘッジについても、クロス・ヘッジで あると考えられる。 クロス・ヘッジ取引の主題は、前に説明した「現物および先物における等しくかつ反対の ポジション」という考え方を再検討するのにちょうどよいタイミングである。この原理にあ る「 反 対 の 」 部 分 は 常 に 有 効 だ が、 「 同 一 の 」 部 分 に は い く ら か 詳 述 が 必 要 で あ る。 S&P500 先物を利用する株式ポートフォリオをヘッジするポートフォリオ・マネージャーの 131
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- 例は、この点を説明するのに役立つ。ポートフォリオが S&P500 指数の複製ではないが、 おそらく、ヘッジ対象のポートフォリオは、ヘッジを実現可能にするために広い範囲の株式 銘柄から構成され、この指数と十分密接に関連する。このポートフォリオ・マネージャーは、 原資産である S&P500 指数を有するポートフォリオとの相関性、ポートフォリオの「ベー タ」と呼ばれる測度を計算するだろう。1.05 のベータは、平均すると、そのポートフォリ オが原資産である指数の動きを 105%動かすことを意味する。ポートフォリオ運用者は、 ポートフォリオのドル価値に等しい先物を使ってヘッジせず、ポートフォリオのボラティリ ティをヘッジするためにベータを使用する。この場合、ポートフォリオ運用者は、ポート フォリオのドル価値の 105%の1ドルの価値で先物を売り付ける。 これは、 「同一の」部分が加重、評価または価値の関数ではなく、むしろボラティリティ の機能、すなわち価値の変化の関数であるという例である。これは、クロス・ヘッジの特性 から生じたものである。つまり、ヘッジ対象のコモディティ(ポートフォリオ)は、先物契 約の原資産であるコモディティ(S&P500 指数)に関連するが、同じではないということで ある。
先物オプションを使ったヘッジ取引
ヘッジ取引のために先物オプションを使用することをより詳しく見るには、ここがちょう どいいタイミングである。すでに取り扱ってきたヘッジ取引の概念は、オプションの基礎と 同様にここでも当てはまる。ヘッジャーは、現物市場でのリスクとは「同一かつ反対」の立 場のオプション・ポジションをとることがある。たとえば、現物市場の在庫の価値に関する 損失は、オプション・ポジションの利益によってバランスが保たれている。 ヘッジはオプションの買付けまたは売付けによって確立することができる。すなわち、 プットの買付けおよびコールの売付けが市場動向の偏りを共有し、それぞれが在庫や他の買 建ての現物ポジションをヘッジするために使用できる。同様に、コールの買建ておよびプッ トの売建ての両方が、売建ての現物ポジションをヘッジするために使用できる。ただし、オ プションの売付けと比較して、オプションの買付けを行う時、そして先物と比較する時は、 達成されるヘッジの保護効果には重要な違いがある。以下の説明では、これらの違いのいく つかに注目する。 オプションの性質とコールとプットの権利と義務の相違により、オプションを使ってヘッ ジする場合には「売りヘッジ」および「買いヘッジ」という表現は当てはまらない。また、 これに関連して、ベーシスと価格相関関係の考え方はさらなる段階に拡張されなければなら 132
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- 第 7 章 先物・オプションを使ったヘッジ
ない。ヘッジ対象の現物のコモディティまたは商品とオプションの原資産である先物契約の 相関関係に加え、先物契約とオプション・ポジションの関連性もまた監視されなければなら ない。
在庫を買建てプット・ポジションを使ってヘッジする
在庫を所有するヘッジャーは、先物の売建玉をつくることもできる。すなわち、先物の売 りヘッジは価格(あるいは現物在庫の価値)が下落すれば利益をもたらす。しかし、先物 ヘッジがリスクを緩和させると同時に、先物の売りヘッジは、ベーシスの変化とは関係なく、 利益を得る可能性もまたなくなる。 先物を売り付ける代わりに、在庫を保有するヘッジャーが、プット・オプションを買い付 けることもありえる。たとえば、金 500 オンスを所有し、5月1日に 12 月限金プットを 5枚買い付けるヘッジャーについて考えてみる。ヘッジャーのポジションは金と同じ重さを 表す。ただし、オプション・ヘッジは、著しく先物と異なる結果をもたらす。 5月1日 現物 $276.00 12 月限先物 $285.00 12 月限 285 プット $11.00
もし、現物の金価格がオプションの満了時までに1オンス当り 25 ドル下落するならば、 この在庫はその金額分の価値を失う。買建てプットからの利益はどうなるだろうか。ベーシ スに変化はなく、先物もちょうど現物と同じ 25 ドル下落する場合を仮定してみよう。今先 物は、オプション満了時の 260 ドルであるので、オプションには本来価値(本源的価値) 、 すなわち 25 ドルだけ、あるいはオプションの権利行使価格と先物価格との差だけが残って いる。 オプションの満了日 現物 $251.00 12 月限先物 $260.00 12 月限 285 プット $25.00
オプションの費用修正後、ヘッジ取引は1オンス当り 14 ドル(25 ドル- 11 ドル)だけ 利益を上げ、在庫に関し 25 ドルの損失となった。したがって、このヘッジ取引は、 「現物 -先物」ベーシスに変化がないと仮定しても、先物ヘッジほど厚い保護を提供しなかったこ とになる。もちろん、金がもっと劇的に、たとえば1オンス当り 70 ドル下落したならば、 ヘッジャーにとっては損失がわずか 11 ドル(現物の損失が 70 ドルに対し、オプションの 133
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- 利益は 70 ドル-支払オプション料 11 ドル= 59 ドル)だけだったことは非常に満足であ ろう(オプション損益分岐の概念については、第6章で説明した) 。 それでは、金現物と先物価格が、ヘッジが行われている期間中に 30 ドル上昇するならば どうなるだろうか。以下の価格に、上記と同じオプション・ヘッジの他の起こりうる結果が ないか、検討してみよう。 オプションの満了日 現物 $306.00 12 月限先物 $315.00 12 月限 285 プット $0
もし、これが先物での売りヘッジであったとすれば、金の在庫の価値に対して利益 30 ド ルの増加は、ベーシスに変化がないと仮定すると、売建て先物ポジションでの損失によって 価値を失くしただろう。ただし、買建てプット・ポジションはオプション料の損失 11 ドル だけを被り、ヘッジャーは在庫で保有する金の価値の上昇から 30 ドルの利益を得るので、 正味の利益は 19 ドルとなる。
売建てコール・ポジションを使って在庫をヘッジする
売建てコール・ポジションは、買建てプット・ポジションと同じ相場方向の偏りをもつ。 ヘッジャーは、12 月限 285 プット5枚を買い付ける代わりに、12 月限 285 コール5枚を 売り付けることを選択することもありうる。 5月1日 現物 $276.00 12 月限先物 $285.00 12 月限 285 コール $10.00
現物金価格がオプションの満了日までに1オンス当り 25 ドル下落する場合、在庫は同額 の損失を出すことになる。売建てコールに関してはどのような利益があるだろうか。先物も またちょうど 25 ドル下落すると仮定しよう、つまりベーシスは変化しなかった。今、先物 はオプション満了時に 260 ドルであり、オプションはアウト・オブ・ザ・マネーで、本来 価値(本源的価値)をもたず、無価値である。 オプションの満了日 現物 $251.00 12 月限先物 $260.00 12 月限 285 コール $0 134
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- 第 7 章 先物・オプションを使ったヘッジ
コールを売り付けて受け取るプレミアムは 10 ドルだった。つまり、これは、オプショ ン・ヘッジが在庫の損失 25 ドルに対してもたらした額である。したがって、このヘッジは、 「現物-先物」のベーシスが変化しないと仮定したとしても、先物ヘッジと同じ程度の保護 を提供しなかった。さらに、金がもっと大きく、たとえば1オンス当り 70 ドル下落してい たとしても、売建てコール・ヘッジは受け取ったプレミアム 10 ドルだけが利益となっただ ろう。これは全くヘッジされなかったに等しい(オプションの損益分岐の概念については、 第6章で説明した) 。 金の価格がこのヘッジ期間中に増えた場合はどうなるだろうか。同じ売建てコール・ヘッ ジが他の起こりうる結果がないか、以下の価格で検討しよう。 オプションの満了日 現物 $306.00 12 月限先物 $315.00 12 月限 285 コール $30.00
この例において、現物金と先物はともに、5月1日から価格が 30 ドル上昇した。これが 先物の売建てヘッジであったとすれば、金の在庫の価値に関する総利益は、ベーシスに変化 がないと仮定すれば、売建て先物ポジションに関する損失によって打ち消され、なくなって しまったはずである。ただし、売建てコール・ポジションは、ヘッジャーが在庫で保有する 金の価値の上昇で 30 ドルの利益はあるが、オプションの純損失 20 ドルとで正味の利益は 10 ドルとなる。この利益は、ヘッジャーがコール売付けに対して受け取ったプレミアムの 価格である。この例では、金の価格がどれだけ上昇するかは問題ではなく、ヘッジャーが有 利な金の価格変化から得られる最大の利益は、現物とオプション価格の間のネット 10 ドル、 すなわち、オプション売付け時の受け取りプレミアムである。 わかりやすくするために、上述の例では、プット買付けまたはコール売付けによって在庫、 すなわち買建て現物ポジションをヘッジする取引を取り上げた。コール買付けまたはプット 売付けによって売建て現物ポジションをヘッジ取引する分析する場合も同様だ。 これらの概念は、図表7. 8および図表7. 9に要約される。そこでは、現物と先物価格間 に完全な連動があり、すべてのヘッジがオプションの満了まで保有されると仮定される。
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- 図表7. 8 オプションを買い付けてヘッジする
(大きな現物価格変動に対するヘッジおよびそのような変動に最も適する) オプション満了時に保護されるリスクの条件 ◦ 無限定、ただしプレミアム支払額が差し引か れる ◦ 先物価格は、満了時に損益分岐点を超えてい なければならないこと 有利な価格のための条件 ◦ 無制限、より少ないプレミアム支払額 ◦ 現物ポジションの有利な現物価格の条件は、 支払済みのプレミアム以上に大きく変動する 必要があること
図表7. 9 オプションを売り付けてヘッジする
(小さな現物価格変動に対するヘッジおよびそのような変動に最も適する) オプション満了時に保護されるリスクの範囲 ◦ 受け取ったプレミアムに限定 ◦ 現物ポジションの損失は、受け取ったプレミ アムより少なくなければならないこと 価格変動から得られる利益の可能性 ◦ 受け取ったプレミアムに限定されること ◦ 利益を生み出すための有利な価格の条件は、 先物価格が満了時でさえ損益分岐点より低く なる必要があること
ヘッジ取引およびオプション・デルタ
これまでの説明のすべては、オプション満了日におけるヘッジの結果を前提としてきた。 このような状況では、オプションはいずれも本来価値(本源的価値)を有していたか、ある いは無価値であった。もちろん、ヘッジが行われている間、プレミアムは原資産である先物 契約の価格、満了までの期間および価格ボラティリティの変化に合わせて上下する。そのた め、満了時まで保有しないオプション・ヘッジの結果は、予測するのがより困難である。 オプション・ヘッジが満了時まで保持されない場合に、オプション・デルタは特に便利な ツールとなる。 5月1日 現物 $276.00 12 月限先物 $285.00 12 月限 285 プット $11.00 デルタ -0.50
これらは、先にあげた、12 月限 285 プットにおける5月1日の同じ価格例である。12 136
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- 第 7 章 先物・オプションを使ったヘッジ
月限プットのデルタが加えられている。オプションの章では、デルタは、先物価格の一定の 変化に対するオプションのプレミアムの予想される変化と定義された。プット・オプション は、プレミアムが先物価格と負の相関関係がある(または逆方向に動く)ため、負のデルタ を有する。上記のように、ヘッジャーは、金 500 オンス買建てで、12 月限 285 プット5 枚を買い付ける。 現物金価格および金先物が 10 ドル下落することになっているなら、我々はプット・オプ ションが価値5ドル上昇すると期待するかもしれない。ヘッジが金の重量と等しい場合、 ヘッジャーが満了時の最終的なリスク保護に確信がある場合もありうるが、これはそれほど 効果的な短期ヘッジではないだろう。そのため、一部のヘッジャーは重量や数量よりも、む しろデルタによってその現物とオプション・ポジションを等しくすることによりヘッジする ことを好む。この場合、プット 10 枚は、金 500 オンスと、デルタのバランスがとれてい ることを要求される(金 100 オンスの各先物契約は、+1のデルタを有する) 。そのヘッジ を満了まで保有する計画であるなら、 「オーバーヘッジ(超過ヘッジ) 」となり、これは、オ プション2枚のプレミアムの支払いが伴う。しかし、より短期間の価格変動を中立化しよう とするヘッジャーにとっては適切な行動である。
考えてみよう
過去に、株価指数裁定取引が 1987 年の株式市場の下落を引き起こした、またそれを助長 したと考える者も中にはいた。理論的には、裁定取引は価格が収れんする前に同等の商品を 調整するので、市場中立的でなければならない。株式と先物がどのように取引されるかにつ いてあなたの知っているところでは、なぜそんなに多くの裁定機会がそのとき存在したと考 えるか。それらが、1987 年の市場現象の負の要因であった場合、その理由は何だろうか。
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- FUTURES & OPTIONS
第8章 金利先物・オプション
◦ 一般社団法人金融先物取引業協会 元調査部長 宮崎雅雄
この章を読み終えると、次のことができるようになる。 ◦先物契約が取引される主要金融市場について説明する ◦金利先物に適用される基本的なヘッジ概念について例や図表を使って説明する ◦金利先物に適用される差金決済とマーケット・バスケット方式(適格銘柄)による 受渡しの概念の関係を説明する
1970 年代に金融政策の運用が抜本的に変わり、主要通貨の為替レートが変動相場制に移 行したことから、金利および外国為替市場とともに、事実上すべての他の金融市場が一変し た。その結果、多くの経済部門の企業は、以前には無視できたリスクに積極的に対応するこ とを要求された。金利の先物市場は、このような環境の中で発展した。 1975 年、CBOT は GNMA(Ginnie Mae. ジニーメイ、Government National Mortgage Association:米国政府抵当金庫)先物契約の取引を開始した。これが最初の金利先物契約で ある。シカゴ ・ マーカンタイル取引所(CME:Chicago Mercantile Exchange)は、1976 年 に、90 日短期米国財務省証券先物を上場し、また CBOT は、1977 年に米国長期国債先物 契約を上場した。取引が開始されたのは比較的最近ではあるが、金利先物 ・ オプションは、 今では世界中の先物契約のすべてのグループの中で最も活発に取引されるようになった。こ 138
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- 第8章 金利先物・オプション
れらの契約の対象は、 短期(30 ~ 90 日)の政府証券および民間の預金(たとえば、翌日物 フェデラル・ファンド)から中期(2~ 10 年)債券、長期(30 年)債券にまで及ぶ。ユー レックス・ブンズ(Eurex BUND)および BOBL、CBOT の長期米国債および 10 年米国債、 CME のユーロドルおよび Euronext.liffe の短期 EURIBOR 金利契約は、世界最大の取引数量 と未決済建玉残高を誇る金利先物 ・ オプション契約である。
金利商品の現物市場
金利先物及び先物オプションについて説明する前に、原資産である金融商品の主な特徴を 簡単に概観しておくことは役に立つ。債務商品は資金の借入れや貸付けに関係する。現物債 務の市場は、やや恣意的ではあるが、次の2つのグループに分けることができる。それは、 短期金融市場(マネー・マーケット) (1年以内に満期となる商品)と資本市場(キャピタ ル・マーケット) (1年を超えて満期となる商品)である。 短期金融市場商品には、銀行引受手形、預金証書、商業手形、ユーロ市場通貨預金、フェ デラル ・ ファンド、レポ、リバース・レポおよび短期米国財務省証券がある。慣例により、 米国短期金融市場では、1年は 360 日として計算される。資本市場商品には、中期のノー トや社債、不動産担保証券(FNMA(Fannie Mae.ファニー・メイ、連邦住宅抵当金庫) 、 GNMA および CMO(Collateralized Mortgage Obligation:不動産抵当証券担保債権) 、州お よび地方債、長期および中期の米国債がある。資本市場では、1年は 365 日として計算さ れる。
金利商品の価格決定の特徴
金利を支払う金融商品が、当初割引で販売されているか、またはクーポンを付して額面価 格で販売されているかどうかにかかわらず、商品の利回りはその商品の価格が下落すれば上 昇し、価格が上昇すれば下落する。債券の流通市場では、クーポン・レートが異なるさまざ まな銘柄の最終利回りを等しくするために、債務商品の利払日ごとの一連の金利支払いとそ のときの金利水準とを比較考慮して、その債務商品の現在の価格が計算される。 その上、金利を支払う商品は、満期までの期間が異なれば、そのときの金利の変化に対す る反応の程度が異なる。一般的に、金利に一定の変化があれば、それが価格に与える影響は、 30 年物よりも 90 日物の方がはるかに小さい。すなわち、他の条件が等しければ、長期物 の価格の方が、短期物の価格よりも、金利水準の一定の変化に対してより敏感に反応する。
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- 利回り曲線
利回り曲線は、リスク分類が同じ 債務商品の最終利回りの配列である。 信用リスクが異なる貸出金利は、残 存期間が同じであれば異なり、同一 の利回り曲線には含まれない。右上 がりの利回り曲線は、正の利回り曲 線(順イールド)とも呼ばれ、短期 の債務よりも長期の債務の方が高い 利回り(期間に対し)を反映する。 正の利回り曲線(順イールド)は、 図表8. 1 に示している。右下がり の利回り曲線は、逆のまたは負の利 回り曲線とも呼ばれ(図表8. 2) 、 長期金利よりも短期金利が高い状況 を反映する。短期と長期の商品の金 利がおおよそ等しい場合は、利回り 曲線は水平である(図表8. 3) 。時 間の経過とともに、利回り曲線は、 その方向(たとえば上から下への傾 き)も含め、その形状を変化させる。 これが生じると、償還日が異なる商 品の金利は反対方向に変化する可能 性がある。 先物市場は、以下で述べるように、 裁定を行うためだけでなく、利回り 曲線と将来の金利の見通しを検討す るために利用できる。また、利回り 曲線の形状は、先物ベーシスや市場 内スプレッドに影響を与える。なぜ なら、金利は通常、金のような他の 多くの市場と同じように、金融先物 市場における持越費用の最も重要な 140
12% 11% 10% 9% 8% 1 12% 11% 10% 9% 8% 12% 11% 10% 9% 8%
図表8. 1 右上がり利回り曲線
1
2
3
4
5 年
6
7
8
9 10
図表8. 2 右下がり利回り曲線
1
2
3
4
5 年
6
7
8
9 10
図表8. 3 水平利回り曲線
2
3
4
5 年
6
7
8
9 10
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- 第8章 金利先物・オプション
構成要素であり、また原資産である債券商品の利回りを構成するからである。
金利裁定取引
利回り曲線について考える1つの方法は、1期間の収益をより長期で複数の期間収益と等 しくなるようにすることである。1期間、無リスク商品の収益率が、投資が行われる特定の 期間にかかわらず、10%であると仮定しよう。 2期間の収益は、一期間で行った投資の収益と、次の期間に直ちに再投資した投資からの 収益すべてを合わせたものと等しくなければならない。すなわち、2期間収益は2つの隣接 する1期間収益から産み出されるものと等しくならなければならない。等しくなければ、よ り低い金利で資金を借り、より高い金利でそれを貸すことによって裁定取引は可能である。 1期間の収益率が各期間すべてが 10%の場合、2期間の合計収益率は、裁定が働くため に 15%にはならない。たとえば、100 ドルを 15%で2年間借り、1年間 10%で投資し、 貸付けの満期受取金とともに次の年に同じく 10%で再投資することもありうる。満期受取 金は1年目の終わりに 110 ドル、2年目の終わりに 121 ドルになるだろう。このとき、2 年の貸付金は 115 ドルで返済され、無リスク利益6ドルが残る。実際には、複数の期間の 収益が調節され、そのような裁定機会はなくなる。
金利先物
金利契約の先物市場価格は、特別の指数の形または額面に対するパーセントで表示される。 前者の方法は、短期(マネー・マーケット)商品の価格表示で利用され、後者は、債券の価 格表示で利用される。価格表示方法は両者ともに、その商品の価格からその直接利回りに変 換することができる。 多くの米国金利先物契約は差金決済されるが、一定の基準、たとえば一定の幅の特定の範 囲に属する償還日とコール条項(繰上償還条項)を満たす一連の有価証券の受渡しを定める ものもある。後者は、マーケット・バスケット契約と呼ばれる。図表8. 4は、主な米国金 利先物契約の重要な取引条件を示している。
短期財務省証券先物
短期財務省証券先物(Treasury bill futures.以下、 「T-bill」という。 )の価格の表示は、 国際通貨市場(IMM:International Monetary Market)指数に基づく。その指数は、100 から短期財務省証券の年率の割引利回りを引いて計算される。つまり、年率割引利回りが 141
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- 図表8. 4 最も活発に取引される米国金利先物契約の取引条件
契約 ユーロ ドル 取引所 CME 元本 原商品の期限 受渡または差金決済 差金決済 最小価格変動幅 2年以内の限月は IMM 指数の 0.005 (= $12.5) ; そ の 後 は IMM 指 数 の 0.01(= $25)
$1,000,000 90 日
5年 T-notes 10 年 T-notes
CBOT $100,000
4年3カ月から 受渡決済(4銘柄の 1 ポ イ ン ト の 1/32 の 5年3カ月 マ ー ケ ッ ト・ バ ス 1/32(= $15.625) ケット) 6 1/2- 10 年 15 - 30 年 受渡決済(マーケッ 1 ポ イ ン ト の 1/32 の ト・バスケット) 1/2(= $15.625) 受渡決済(マーケッ 1ポイントの 1/32 ト・バスケット) (= $31.25)
CBOT $100,000
T-bonds CBOT $100,000
5.06%である場合、価格は、94.94 で表示される。利回りは年率表示である一方、原資産で ある短期証券は 13 週物の商品であることから、指数は商品の実際の価格ではない。 T-bill 先物契約の最小価格変動幅、すなわちティックは、0.00005 である。この変化は、 元本 100 万ドルの3カ月現物 T-bill の割引率の2分の1ベーシス ・ ポイントに相当し、1 ティックは 12.50 ドルの価値に相当する。これは、次のように計算する。 $1,000,000 × 90/360 × 0.00005 =$12.50 ただし、 $1,000,000 が契約元本であり、 90/360 は、原資産である3カ月 T-bill の償還期間を表す。 0.00005 は、最小1ティック(1/2 ベーシスポイント)の価格変動を反映する。 短期米国財務省証券先物契約は 1997 年6月に改訂され、受渡決済から差金決済契約に変 更された。契約の満了日は、3カ月 T-bill が現物市場で入札される月の第3水曜日が属する 週の当該日、通常はその週の月曜日である。その日の最終決済価格は、財務省証券入札の結 果を反映して、100 から入札で落札された平均割引率を引いた価格になる。たとえば、そ のレートが 4.90%である場合、価格 95.10 が最終決済価格とされる。最後の値洗い調整が 一度行われた後、契約は消滅する。
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- 第8章 金利先物・オプション
ユーロドルおよびユーロ市場通貨金利先物
ユーロドル先物は、差金決済制度を取り入れた最初の先物契約である。取引最終日に、未 決済建玉は、英国銀行協会が公表する「3カ月ユーロドル定期預金のロンドン銀行間貸出 レート(LIBOR) 」の最終決済価格で値洗いされ、差金決済される。シカゴ ・ マーカンタイ ル取引所(CME:Chicago Mercantile Exchange)で取引されるユーロドル先物契約の元本は、 短期米国財務省証券先物契約と同じく 100 万ドルである。ユーロドル先物契約もまた、 IMM 指数として値が付けられるが、短期米国財務省証券先物契約と異なり、価格の表示は 割引率ではなく、90 日アドオン満期利回りを反映する。 90 日ユーロドル先物契約の損益計算の方法は、90 日 T-bill 先物契約に使用する方法と似 ている。具体的には、先物契約の枚数×契約の元本($1,000,000)× 90/360(短期金融 市場年率収益の 90 日分)× IMM 指数(年利回りに基づく)の小数点以下の変化で計算さ れる。たとえば、トレーダーが8月 15 日に 90 日ユーロドル先物契約5枚を 96.24 で新規 に買い付け、2週間後 96.72 でそのポジションを手仕舞いした場合、その利益は次のよう になる。 5 × $1,000,000 × 90/360 ×(0.9672 - 0.9624)= $6,000 ユーロドル先物契約の成功は、世界中の多くの取引所で取引されるさまざまな他の銀行間 貸し手レートを含め、多くの他の短期金利契約を生み出した。これらには、ユーロネクス ト・ライフ(Euronext.liffe)やユーレックス(EUREX) 、東京金融先物取引所(TIFFE:Tokyo International Financial Futures Exchange) 、シンガポール取引所(SGX(Singapore Exchange)-DT)で取引されているユーリボー(EURIBOR:Euro Interbank Offered Rate) (欧 州経済通貨同盟加盟国の) 、ユーロドル、ユーロ円、英ポンドおよびユーロスイスフラン契 約などがある。これらの契約の価格決定や差金決済手続は、一般的に、CME のユーロドル 先物契約のそれに類似している。
国債先物
債券の利札は固定されたドル金額の、定期的な金利の支払いを表しているため、そのとき の金利水準の変化は債券価格を計算するにあたって考慮しなければならない。たとえば、 クーポン6%の長期米国債の元本 10 万ドルでは、金利を年当り 6,000 ドル支払う。残存期 間と質が同等の有価証券のそのときの金利が 10%であったとすれば、その債券の市場価格 は約6万ドル、すなわち、6,000 ドルの固定された年払クーポンの支払いを仮定すれば、 10%の年利回りを提供する価値($6,000/$60,000 = 10%)となる。この債券価格決定方 143
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- 法は概算であり、実際は、半年払いのクーポンと元本返済の流れ(キャッシュフロー)の現 在価値の合計で計算される。同様に、そのときの金利水準が6%であれば、クーポンが6% の債券は、流通市場での価値は額面価額と同じ 10 万ドルである。そのときの金利水準の変 化が債券市場価格を変化させるので、固定金利(クーポン)商品は現在の金利を反映する。 長期米国債先物の価格は、元本当りの%で表示される。最小変動幅は、1%の 32 分の1 で あ る。 た と え ば、94-01 と い う 表 示 価 格 は、94 と 1/32 %、94.03125 %、 あ る い は 0.9403125 に等しい。CBOT の長期国債先物市場の1ティックの価値は、10 万ドル(当該 契約の元本価値)の1%の 32 分の1または 31.25 ドルである。元本当りの%という価格表 示方法は、中期米国債および世界中の他の国債契約に適用されるが、外国の取引所に上場さ れる多くの契約は分数ではなく、小数点で表示される(注:第6章で説明したように、長期 米国債オプションの最小価格変動幅は、1ポイントの 64 分の1あるいは1契約当り 15.625 ドルであり、これは、原資産である長期米国債先物契約の2分の1である) 。 長期米国債先物契約は、Euronext.liffe の英国債およびユーロ建て債、東京証券取引所の日 本国債、EUREX のユーロ建て BUND、ユーロ建て BOBL 契約のような他の長期国債先物契 約のモデルとなってきた。これらの契約はすべてクーポン支払いのある国債に基づき、一定 の範囲―償還およびクーポンの率において―の銘柄で受渡しができる(さまざまな契約で受 渡しできる有価証券の詳細については、 IFM の『The Futures & Options Factbook』を参照。 ) 。 償還日およびクーポンの率が異なれば、価格が異なるため、 「マーケット・バスケット」 の中のさまざまな銘柄を同等に扱う 方法が必要である。換算係数を使う 方法が選択されており、その方法で は、先物契約に関する受渡し可能な 債券のクーポンの率と償還日を考慮 に入れて、先物価格を受渡代金に換 算する。長期米国債先物契約の場合、 受渡し可能な銘柄群には、クーポン の率にかかわらず、その最初の繰上 償還日が先物の受渡限月後 15 年超 であるすべての債券が含まれる。た だし、単一の長期米国債銘柄の債券 では1つの長期米国債先物契約につ いて受渡しができる。
電子市場の監視 〈写真提供:Chicago Mercantile Exchange〉
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- 第8章 金利先物・オプション
長期国債先物契約で受け渡された各債券の特定の受渡代金は、先物決済価格、受け渡され る特定の債券銘柄に関連する換算係数および債券の経過利子によって決まる(現物市場での 習慣と同じように) 。債券を引き渡す売り手が受け取る経過利子は、クーポンの率×最後の クーポンの支払日からの日割で計算される。具体的には、長期国債先物契約で受け渡される 適格債券の受渡代金(各契約について、額面 10 万ドルと同一銘柄から得られるクーポンの 額を合計する)は、次のように計算される。 受渡代金= $100,000 ×先物決済価格×現物債の換算係数+経過利子
中期国債先物
CBOT で取引される 10 年米国債契約は、1982 年に上場された最初の国債先物契約で、 受渡しには、額面 10 万ドル、年限は 6 1/2 から 10 年までのクーポンの率6%の国債が必 要とされる。10 年国債契約は、マーケット・バスケット受渡契約であり、換算係数を使っ て受渡代金を算出する。また、CBOT は、2年および5年米国債先物契約を上場しており、 それらは中期米国債のマーケット・バスケットの受渡しと6%のクーポンの率に基づく換算 係数を定めている。ただし、より短い債券先物契約に関する受渡しのための償還日の範囲は、 10 年国債や 30 年国債先物契約に関するものよりも短い。さらに、2001 年末に取引を開始 した完全に電子化された米国の先物取引所であるブローカー・テック(BrokerTec)は、30 年米国債先物だけ でなく5年米国債 先物と 10 年米国 債先物を取引する。
地方債指数先 物
CBOT の地方債 先 物 契 約 は、 Bond Buyer 社 の 指数に基づく差金 決済契約である。 同指数は、取引量 の多い非課税の一 般財源保障債と歳 入担保債の指数で
ユーロネクスト・ライフ(FFAJ 補完:現ユーロネクスト)のメンバー、 ブリュッセル証券取引所 〈写真提供:Burussels Stock Exchange〉
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- ある。指数はポイントおよび1ポイントの 32 分数で表示される。指数の価値に 1,000 ドル を掛けると契約の額面になる(たとえば、指数 93-21 は、93 と 32 分の 21 で、約定価額は、 93,656.25 ドル) 。地方債指数先物は、取引最終日における指数のスポット市場価値に基づき 差金決済される。 地方債指数先物は、多くの目的のために利用できる。たとえば、シンジケート(引受団) 組成中の引受業者にとっての価格のヘッジや、金利上昇に対するディーラーの在庫保護、 ポートフォリオのバランスを崩すことなく、地方債のポートフォリオの償還日や残存期間の 調節をしたり、将来の日に買い付ける債券の価格を確定させることなどである。
政府機関債先物
連邦住宅抵当金庫(Fannie Mae.ファニー・メイ)および連邦住宅金融抵当金庫(Freddie Mac.フレディ・マック)は、住宅ローン市場に流動性を供給する目的で連邦政府から 公認された法人である。この2つの機関は、資本市場において債務証券を発行することを義 務づけられている。米国政府の直接の債務ではないが、その機関の政府公認法人としての地 位は、一般的に高い格付けと信用市場から敬意を表されている。これら2つの機関が発行し た証券は、国債と社債の中間に位置するものとして取り扱われる。現在、CBOT は、5年と 10 年の機関債を受渡し適格とする政府機関債先物契約を上場している。これらの契約は マーケット・バスケット契約であり、売り手はファニー・メイかフレディ・マックのいずれ かから、受渡し可能なさまざまな銘柄から選択することができる。
金利先物取引
金利が変動するだけでなく、原資産である短期金融市場や資本市場の拡大によって多くの 異なる金融部門と商業部門の代表は、今日金利先物とオプションを利用している。これらの 中には中央銀行や商業銀行、投資銀行があるが、具体的には、機関投資家資金運用者、企業 財務部、年金基金および他のポートフォリオ運用者である。 商業銀行と貯蓄銀行は、正の利回り曲線(順イールド)を有する安定した金利市場から利 益を得る。上述のように、正の利回り曲線(順イールド)は、長期債務の金利がより短期の 債務のそれを上回る場合に生じる。何年もの間、銀行と貯蓄銀行は、短期で借りて(たとえ ば CD の発行) 、長期で貸し出すこと(たとえば、企業向け中期貸出または住宅ローンの実 行)が利益をもたらすことを見い出した。そのとき貸し手は、金利変動による損失のリスク を負担する傾向もあった。
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- 第8章 金利先物・オプション
1980 年代に、金利の変動性がきわめて大きくなったので、変更が可能な短期レートでの 貸出は、より伝統的な長期・固定金利貸出に対抗する競争力を持つようになった。短期の変 動金利型住宅ローンの主な特徴は、金利が不利な方向に変化した場合に借り手が損失を被る リスクを負担することである。当初の金利負担は小さいが、借り手は、金利の再設定日にか なり高い金利を負担する可能性に直面する。高い流動性がある低費用の金利先物市場によっ て、借り手と貸し手の両方が、固定金利商品と変動金利商品の双方に伴うリスクを慎重に管 理するためにヘッジを行うことができる。 現物債券ディーラーは、長期および短期国債証券の膨大な在庫を保有している。ディー ラーはこの債券保有のリスクに加えて、日々の業務執行から生じるリスクを管理するために、 金利先物や金利先物オプションを利用する。金利リスク管理を除いて、企業では一時的なポ ジションを取得、処分または成立させるために、先物とオプションを利用する。こうするこ とで、ディーラーが現物市場ですべての取引を行わなければならなかった場合に負担するよ うな取引費用を減少させることができる。機関投資家の資金運用者(年金基金運用者を含 む)は、銀行やディーラーのリスク負担と同じように金利変動リスクを負担し、同様の方法 で先物とオプション市場を利用する。 企業財務部門は金利先物市場の成長に参加し、また、革新的なプロダクトの開発を先導し てきた。革新的なプロダクトの最も顕著なものがスワップであり、スワップはリスク管理の 手段として先物を利用する。上記でみた利用者に加え、建設業者や金融および保険会社、投 資信託、住宅ローン銀行など多くの者が金利に対するリスク負担を管理するために金利先物 を利用する。以下に、金利先物 ・ オプションを使ったヘッジのいくつかの例を挙げる。
買建てヘッジ、金利低下を予想
買建て長期国債ヘッジの以下の例は、他の市場での買建てヘッジに似ている。4月1日、 投資資金運用者は、3カ月以内に(すなわち7月1日に)100 万ドルを受け取ると予想し、 運用者はこの資金を使って長期米国債を買い付ける計画である。運用者は、金利がピークま たはそれに近いと信じているので、現在の金利で固定したいと思う。結果として、運用者は、 4月1日に、9月限長期米国債先物契約を 10 枚、88-10 で買い付ける。 7月2日までに金利は下がり、運用者は現物債を 102-13 で買い付け、先物を 100-07 で 売り付けて買建てヘッジを手仕舞う。運用者は額面 1000 万ドルの債券について 102 万 4,062.5 ドルを支払うが、先物市場で次のように 11 万 9,062.5 ドルを得ているので、実質 コストは 90 万 5,000 ドルである。
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- 4月1日 買付け 10 枚 長期米国債先物 88-10 7月2日 売付け 10 枚 長期米国債先物 100-07 ポイントでの利益:11-29 または 11 29/32 金額での利益 =枚数×額面×1枚当りの利益 $119,062.50 = 10 × $100,000 × 0.1190625 同じく、11-29 は(11 × 32 + 29)/32 または 381/32 に転換し、1枚当り利益は、 381 × $31.25 = $11,906.25。10 枚のポジションは、合計 $119,062.50 の利益をもたら す。 現物債買付けの費用 -先物に関する利益 現物債の実質費用 $1,024,062.50 $119,062.50 $905,000.00
売建てヘッジ:金利上昇を予想
売建てヘッジは、金利上昇または債券価格の下落を防ぐために利用される。そのような価 格下落は、ディーラーのポートフォリオの中で保有する有価証券の価値を減少させ、そして その状況は、在庫として持つ現物コモディティの価格の下落に似ている。金利が上昇し、債 券価格が下落すれば、売建ての先物ポジションを持つヘッジャーは、現物の長期国債を受け 渡すか、先物市場で利益が出ている売建てポジションを手仕舞い、利益をポートフォリオの 中で保有する長期国債の損失に充当することができる。金利が下がれば、先物市場における 損失は、ディーラーの在庫の価値増加によって補われる。
クロスヘッジ
米国で現在取引されている社債の先物はない。しかし、多くの金利商品に関する利回りの 相関性は高いので、高格付社債を買い持ちしている会社の財務担当者は、その業者の社債の 在庫をヘッジするために長期米国債または中期米国債先物を使用することにするかもしれな い。これは、ヘッジ対象商品が先物契約の原資産である現物商品とは異なるという理由で、 クロスヘッジと名付けられる。会社は先物契約に対して会社のポートフォリオにある社債を 受け渡すことはできないが、財務担当者は長期米国債または中期米国債先物を売り建てるこ とにより、ポートフォリオをヘッジする。他のクロスヘッジと同様、金利商品のクロスヘッ 148
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- 第8章 金利先物・オプション
ジは、長期米国債や中期米国債の先物契約の価格、および特定の社債の現物価格の動きが、 過去の推移と密接に連動しない、もしくはクロスヘッジを設定した時点の予想どおりに推移 しない、というリスクに晒されるであろう。
金利先物オプションを使ったヘッジ
プットの買付け
先物オプションの流動性のある市場の発展は、借り手には、銀行やディーラーの店頭プッ ト ・ オプションにとって替わる費用効果が高い代替物、別名キャップが借り手に提供されて きた。取引所取引の先物オプションの買付けは、店頭オプションと同様、プレミアムの支払 いを必要とする。売建て先物ヘッジとは異なり、借り手は金利下落の場合にプットの買付け によって、オプションを放棄できるので、利益を得ることができる。取引所取引のオプショ ンが特に有利なのは、それらが相殺できることであり、そのようにして、ヘッジャーはポジ ションを管理するための柔軟性を手に入れる。さらに、カバーする金額も、異なる行使価格 を有するオプションの買付けまたは売付けによって増減させることができる。その結果、特 定かつ変化するニーズに合わせて、ヘッジをより入念に調整することもできる。
カラーおよびフェンス
カラーまたはフェンスは、それがどちらの名で呼ばれようとも、その考え方は同じである。 すなわち、ヘッジャーは、極端な価格効果を抑圧することでリスクを管理し、一方向への価 格変動に伴う費用を限定すると同時に、他方向への価格変動の利益の一部を放棄する。変動 金利債券商品を利用する借り手にとってカラーは、先物プット・オプションの買付けおよび それと同時に行う先物コールの売付けをすることで構築できる(金利下落を心配する短期現 物の投資家は、反対方向の取引をする。 )買い付けたプット ・ オプションの行使価格に反映 された金利で、カラーは資金の費用の上限を定めることができる。フロアの売付けは、プッ トの買付けの現物費用を減少させるために利用され、コールの行使価格に反映されたレベル 以下に金利が下がる場合には、反対に利益を得る能力を制限する。
考えてみよう
多くの住宅ローンや他の民間の債務商品の価格決定基準として、10 年米国債の金利が上 昇し 30 年米国債の金利が下落したことから、どのような先物市場の教訓をわれわれは学ん できただろうか。政治や経済の変化に伴い、どんな国の債務が先物市場の新設を正当化する ほど深刻になるのだろうか。 149
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- FUTURES & OPTIONS
第9章 通貨先物 ・オプション
◦ 一般社団法人金融先物取引業協会 元専務理事 後藤敬三
この章を読み終えると、以下のことができるようになる。 ◦通貨先物の基本的な先物価格決定モデルを説明する ◦通貨先物取引についてのヘッジの基本的な概念を説明する ◦通貨先物およびオプション市場の対象となる主要な契約を挙げる
外国為替市場
外国為替(以下、 「フォレックス」という。 )市場は、きわめて大きい、世界的な 24 時間 市場である。国際貿易と外国資産の売買がフォレックス市場の取引規模の相当な部分を占め ているが、その多くはマーケット・メイキングとポジション形成によるものである。外国為 替スポット(直物)市場での取引は大手のディーラー銀行に独占されており、多数の銀行が、 自行勘定のための取引のトレーダーとしても、顧客のための外国為替ブローカーとしても参 加している。これ以外の銀行は主としてブローカーとして活動し、自己取引による自行ポジ ション形成は顧客からの注文に応じて行っている。さらに、米国の外国為替の直物市場では、 銀行ではない、多数の専門の外国為替ブローカー会社が参加している。
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- 第9章 通貨先物・オプション
インターバンク外国為替市場では、主として、為替スポット(直物)契約、先渡(以下、
5 「フォワード」という。 )契約およびスワップ契約が取引されている。
◦スポットとは、即時引渡し(通常、これは2営業日後決済を意味する。 )の外国為替相 場である。 ◦フォワードとは、将来相互が合意した時期(たとえば、契約日から 30 日後)に決済さ れる外国為替相場である。フォワードは先物と似た取引であるが、店頭市場(オー バー・ザ・カウンター)で取引される点、標準化されず個別化された契約条件による点、 一般的に為替スワップ取引における証拠金あるいはその時価調整(値洗い)は伴わず、 決済は期間満了時にのみ行われる点が異なる。 ◦スワップは、スポット取引とフォワード取引を同時に行うものである。たとえば、A銀 行がB銀行から、本日付で日本円を米ドルで買い付け、同時にB銀行に対して日本円を 米ドルで売り付けるものである。価格と取引日付は両当事者間の取引が行われる時点で 決定される。
為替レート
為替レートは、ある通貨を異なる通貨に置き換えたときの価値である。この価値は、第一 義的には、特定の通貨で買える財やサービスの量であるが、これが購買力を反映する。最も 分かりやすい形は、外国為替の購買力平価説によると、特定の財のある通貨表示での相対的 価格が他の通貨より高い場合には、その財を安い方の国の通貨で買い、高い方の国で売ると いう裁定取引(アービトラージ)が行われることである。長期的には、取引される財の相対 価格が取引国の間でほぼ等しくならなければならないという、この考え方によって、為替 レートに動きを引き起こすことになる。 金利、すなわち信用コストまたは借入金のコスト(費用)は、フォワードもしくは先物為 替相場の決定にあたって考慮されるべき重要な対価である。投資家は自国通貨建ての債券と 外国通貨建ての債券のいずれに投資するかを選択することができるのであるから、この2つ の金利の関係が、通貨フォワードもしくは通貨先物の価格の中核となる。 カバー付き金利平価モデルによれば、自国証券(たとえば債券)の期待収益は、外国為替
[FFAJ 補完記載]
5 日本の実務では、 「先物為替予約」といった用語が用いられている。 「先物」とは一般的には取引所に上場された先物 取引契約を意味するが、 「先物為替予約」が始まった当時には、取引所に上場された通貨の先物取引契約がなかったの で、このような用語法が生まれたとされている。
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- 相場リスクがカバーされれば、外国証券(償還期限が同一で、かつ、デフォルト・リスクも 同等のもの)の期待収益に等しいとされている。これは、次のように表すことができる。 1+i=F(1+ i*)/E iは、自国金利(単利) (いわゆる、年利×期間) i* は、外国金利(単利) (いわゆる、年利×期間) Eは、直物為替相場(自国通貨÷外国通貨) Fは、外国通貨の先物価格(自国通貨÷外国通貨) 自国金利および外国金利の期間は、先物契約の残存期間と等しいと仮定される。直物外国 為替相場および先物価格に関しては、外国通貨1単位の自国通貨建て価格で表記される。 カバー付き金利平価の原理を以下に例示する。投資家が日本債に投資すると、外国為替の 変動リスクをカバーした米国債に投資するよりも、より高い収益を得ることができると仮定 する場合、投資家は次のような裁定取引を行うと考えられる。すなわち、米国債を売り、そ の売上で日本円を買い、日本円で日本 債を買い、かつ、日本債の償還期限と 同じ時期を限月とする日本円先物契約 を売る(この結果、投資家は将来にお ける特定の相場で米ドルを日本円と交 換することができる) 。債券の償還期 において、日本円の売り代金はカバー された価格で米ドルに交換され、同時 に先物によるヘッジは解消される。先 物契約による利益(または損失)は投 資期間中に生じる日本円の価値の減価 (または増価)により相殺される。乖 離に着目した裁定取引で裁定取引人 (アービトラージャー)がそのような 価格差を利用することにより、二国間 の金利および両国通貨間の為替相場は 裁定水準に落ち着く傾向がある。
ドイツ証券取引所におけるオペレーション 〈写真提供:Deutsche Börse〉
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- 第9章 通貨先物・オプション
為替レートの表示方法
為替レートの表示方法は、アメリカ方式、ヨーロッパ方式またはクロスレートの3つの方 法により表示される。アメリカ方式による表示方法では、たとえば$/£のように、外国通 貨1単位当りの米ドル価格が示される。多くの新聞による英ポンドや他の英連邦加盟国通貨 の報道にはこの方式が用いられ、米国の為替相場の先物・オプションも同じ方法で表示され る。ヨーロッパ方式では、たとえば¥/$のように、1米ドルの外国通貨建て価格が示され る。インターバンク市場でのスイスフランと日本円の表示方法は通常この方式で行われる (なお、ヨーロッパ諸国の通貨が必ずしもヨーロッパ方式で表示されるものではないことに 注意する必要がある) 。クロス・レート方式の表示は、たとえば1ユーロ当りのスイスフラ
6 ンのように、米ドルが関係しない表示方法である。
アメリカ方式による表示からヨーロッパ方式による表示への変換(またはその逆)は表示 の逆数を取るだけで簡単にできる。たとえば、スイスフランが1ドル当り 1.65 と表示され ている場合(ヨーロッパ方式) 、アメリカ方式では 1/1,65 = 0.6061 と計算することで、ス イスフラン当り 0.6061 米ドルに変換することができる。これは、1米ドルを買うために 1.65 スイスフランが必要であり、同様に、1スイスフランを買うには 0.6061 米ドルが必 要だということである。
外国為替リスク
外国為替相場は一国の通貨の他国通貨建て価格なので、外国為替相場の変化は、他国通貨 が購入できる一国の通貨の量が調整されることを意味する。一通貨が他通貨との関係で減価 するとは、一通貨で買える他通貨の量が減るということである。たとえば、6月1日に1米 ドル(米)が 106 円(日本)で買うことができると仮定する。6月5日に1米ドル(米) が 102 円(日本)で買える場合には、米ドルは日本円に対して減価したこととなる。ある いは、日本円が米ドルに対して価値が上がったことになる。 政治的・経済的な不確定要因と同様に、相対価格に影響を及ぼす要因はすべて外国為替相 場に影響を及ぼす。為替レートの変動は、商品および投資の価格、そして需要に対して重要 な影響を及ぼす。外国為替変動リスクが多いものは、輸入代金支払債務と輸出代金受取債権、 外貨建ての貸付と預金、外国通貨建て証券投資などである。国際間資本移動や債権債務関係
[FFAJ 補完記載]
6 本書は、米国向けの記載であるが、本書のヨーロッパ方式(あるいはコンチネンタル方式)に相当する日本の表示方 法は「外貨建て」といわれ、たとえば、120.000 円/ドルのように、外国通貨1単位当りの日本円価格が示される。日 本において邦貨建てはあまり見かけない。
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- について、債権者国の通貨が債務者国の通貨より価値が上がった場合、債権者通貨建ての債 務の返済負担はより大きくなる。他方、債務国通貨建ての対外債権は、債務国通貨が債権国 通貨より価値が下がった場合には、債務負担は事実上減少する。 銀行間のフォワード市場と通貨先物・オプション市場での為替レートの異常な変化のリス クは、ヘッジすることで最小限に防ぐことができる。両者の原資産市場は同一であるので、 両市場での価格変化は極めて相関している。
通貨先物および先物オプション
シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)により 1972 年に創設された通貨先物は、金融 先物契約として世界初のものである。現在、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)にお ける国際通貨市場(IMM:International Monetary Market)では、多くの通貨の先物および 先物オプションが取引されてい る。取引対象となっている通貨に は、豪ドル、ブラジルレアル、英 ポンド、カナダドル、EC ユーロ、 日本円、メキシコペソ、ニュー ジーランドドル、ロシアルーブル、 南アフリカランド、スイスフラン が含まれており、ユーロ・英ポン ドのようなクロス・レートも取引 されている。これに加えて、 ニュー ヨーク商品取引所(NYBOT:New York Board of Trade)の一部門で ある金融商品取引所(FINEX:Fi7 nancial Instruments Exchange)
では、米ドルインデックス(米国 の主要貿易相手国通貨のドル価 値の加重平均である)をはじめ、 多くの米ドル為替相場およびク ロス・レートの先物および先物オ
[FFAJ 補完記載]
サンパウロにあるブラジル商品・先物取引所(BM&F) (FFAJ 補完:現サンパウロ証券・商品・先物取引所、 BM&F Bovespa)の新本部外観、2000 年落成 〈写真提供:Bolsa de Mercadorias y Futuros〉
7 1998 年にニューヨーク綿花取引所(1870 年創設)とコーヒー砂糖ココア取引所(1882 年創設)を統合して開設。 2007 年、インターコンチネンタル取引所(ICE)に買収され、ICE フューチャーズ U.S. に名称を変更。
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- 第9章 通貨先物・オプション
CME のフロアーでメッセージを取り次ぐ電話事務員 〈写真提供:Chicago Mrecantile Exchange〉
プションが上場されている。フィラデルフィア証券取引所(Philadelphia Stock Exchange) は通貨現物オプション、つまり原資産が通貨先物ではなく、現物資産である通貨オプション を取引している。世界各国のその他多くの取引所においても通貨先物および先物オプション について、特にその取引所の国内通貨が含まれる為替レートに関する契約が上場されている。
通貨先物によるヘッジ
通貨に関するヘッジは、現物市場での等級や所在場所の違いによる価格変化に関係するも のではないが、ヘッジ取引の完了が先物契約の満了と一致しない場合のベーシス・リスクに は関係する。その理由は、先物と現物の価格が先物契約の期日においてのみ収束することを 保証されているからである。先物の限月が毎年わずか4回だけの場合、2カ国のそれぞれの 現行金利が異なる大きさの場合、または、外国為替のへッジャーが先物の期日またはその近 傍で決済することができない場合には、ベーシス・リスクは重要な問題となる。
プレミアム通貨での先物買建ヘッジ
米国のある会社がスイスのある商品を1月1日に購入し、購入代金はスイスフラン建てで 6月央に支払う必要があるとする。契約が合意された時点では、スイスフランのスポット 155
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- レートは 0.5000 ドルであったとする。支払履行時期におけるスイスフランの高騰リスクに 対応するため、その会社は6月限スイスフラン先物を 0.5200 ドルで買い建てる。スポット 相場と6月限先物相場の差はフラン当り 200 ベーシス・ポイント(2米セント)となる。 これがスイスフランの先物相場のスポット相場に対するプレミアムである。 仮に6月央までにスイスフランのスポット相場が 0.5500 ドルとなれば、この会社はスイ スフランのスポット取引で 0.5500 ドルを支払う必要があり、現物市場で5セントの損失が 生じる。その一方で、先物価格もまた上昇している。ヘッジが、先物価格とスポット価格が 収束する先物取引の限月をまたいで行われていれば、先物契約はスイスフラン当り 0.5500 ドルで決済または手仕舞ができることとなる。このような場合には、企業はヘッジにより取 引を当初の先物価格で固定化できたこととなる。計算は次のようになる。 1月 6月 先物の価格上昇 スポット ドル/スイスフラン 0.5000 ドル 0.5500 ドル 6月限先物 ドル/スイスフラン 0.5200 ドル(買建) 0.5500 ドル(決済・手仕舞い) 0.0300 ドル
6月におけるスイスフランの実際のコスト:0.5500 ドル− 0.0300 ドル= 0.5200 ドル この会社は先物契約の代わりに、スイスフラン先物オプションを購入することもできた。 オプション建て玉を持つメリットは、スイスフランが増価した場合ではなく、減価した場合 に生じ、オプションの保有者はオプション価格以上の損失は被らないが、他方、先物建て玉 の場合には、スイスフラン相場の下落と同幅の損失を受ける可能性がある。たとえば、もし スイスフランが 0.4500 米ドルに減価する場合、先物相場は7米セントの損失を被る。これ は5米セントのスポット相場での利益により相殺され、この会社には、当初先物契約を買建 てた時に固定化した2米セントのコストが発生することとなる。つまり、ここにおいても、 スイスフランの実効コストは 0.5200 米ドルとなる。したがって、先物契約を用いてヘッジ を行う場合には、当初の先物ヘッジを行った後のスイスフラン相場の変動による有利不利の 影響は受けない。 この会社が、権利行使価格 0.5200 米ドルのコールオプションを購入し、スイスフランの 価値が下がった場合にはオプションは価値がなくなり消滅する。この会社は価値が下がった スイスフランからオプションコストを差し引いた分だけ利益を得る。しかし、オプション価 格には、2米セントのスイスフラン増価がほぼ確実に織り込まれるため、通常、輸入業者は 156
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- 第9章 通貨先物・オプション
オプション購入により、そのプレミアム分の負担を避けることはできないことに留意する必 要がある。
ディスカウント通貨の先物買建ヘッジ
同じ会社が英国から1月1日に財を購入し、6月央に支払いを約束したと、再度仮定する。 購入時においては、英ポンドのスポット相場は 1.8000 米ドルであったとする。6月におけ る英ポンド相場の上昇の可能性から、この会社は6月限英ポンド先物を 1.7600 米ドルで買 い建て、ヘッジを開始する。6月央までに、スポット相場で英ポンドは 1.8500 米ドルまで 上がる。6月限先物契約は満了時にスポット価格に収束するから、スポット相場に対する先 物価格のディスカウントは解消される。この会社は先物の買い建玉を 1.8500 米ドルで決済 し、先物建て玉から9米セントの利益を得る。一方、契約履行のためにスポット相場で英ポ ンドを 1.8500 米ドル調達する。この会社は、1月から6月までのスポット相場での調達コ スト5米セントを4米セント上回る9米セントの利益を先物ヘッジにより受ける。計算は次 のようになる。 1月 6月 先物の利得 スポット ドル/英ポンド 1.8000 ドル 1.8500 ドル 6月限先物 ドル/英ポンド 1.7600 ドル(買建) 1.8500 ドル(決済・手仕舞い) 0.0900 ドル
6月における英ポンドの実際のコスト:1.8500 ドル- 0.0900 ドル= 1.7600 ドル ここにおいても、ヘッジの効果は、ヘッジ開始時点での直先相場が先物プレミアムとなっ ているか、先物ディスカウントとなっていようが、先物価格で固定化するものであることに 注意する必要がある。
プレミアム通貨での先物売建ヘッジ
ある米国製造業者がスイスに製品を輸出する場合を考える。この会社は製品を1月1日に 出荷するが、支払いは(スイスフラン建てで)6月央まで行われない。合意時のスイスフラ ンのスポット相場は 0.5000 米ドルであり、6月限先物は 0.5200 米ドルであった。6月に スイスフランが減価し、米ドル建ての手取りが減少することを懸念して、この会社は6月限 スイスフラン先物を 0.5200 米ドルで売り建てることとした。6月央までにスイスフランは 0.4600 米ドルまで下がり、6月限先物の清算価格はこれと同じ価格となった。この会社は スポット相場により売上代金を受領するが、それは1月のスポット相場に比して4米セント 157
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- 安い。他方、この会社は6月先物の売建玉については、1スイスフラン当り6米セント利益 のある状態で決済する。取引費用を考慮しない差し引きの利益は1スイスフラン当たり2米 セントであり、実質的コストはヘッジ開始時の先物価格(0.5200 米ドル)と同額である。 1月 6月 先物の利得 スポット ドル/スイスフラン 0.5000 ドル 0.4600 ドル 6月限先物 ドル/スイスフラン 0.5200 ドル(売建) 0.4600 ドル(決済・手仕舞い) 0.0600 ドル
6月におけるスイスフランの実際のコスト:0.4600 ドル+ 0.0600 ドル= 0.5200 ドル
ディスカウント通貨の先物売建ヘッジ
ある米企業は、英国の会社に重機械を売却し、代金を英ポンド建てで6月に支払うことを 合意する。その時点で、英ポンドのスポット価格は 1.8000 米ドルであり、6月限先物価格 は 1.7600 米ドルで取引されている。代金支払い履行時の英ポンド減価は米ドル手取り額の 減少となるので、この会社は6月限英ポンド先物を売り建てることにした。6月に英ポンド のスポット相場および6月限先物価格はいずれも 1.7400 米ドルであった。米国企業は、売 上代金を1月スポット相場より6米セント安い 1.7400 米ドルで受領する(アメリカ方式で 表示する場合、為替レートの下落は、米ドル以外の通貨の減価および米ドルの増価に相当す ることに注意する) 。この会社は6月限先物については、1.7400 米ドルで手仕舞い2米セ ントの利益を先物ポジションから得ることとなる。差し引きの結果は次のようになる。 1月 6月 先物の利得 スポット ドル/英ポンド 1.8000 ドル 1.7400 ドル 6月限先物 ドル/英ポンド 1.7600 ドル(売建) 1.7400 ドル(決済・手仕舞い) 0.0200 ドル
6月における英ポンドの実際のコスト:1.7400 ドル+ 0.0200 ドル= 1.7600 ドル ここでも、ヘッジ開始時の支配的価格としてへッジャーにより固定されるのは、スポット 相場ではなく、先物価格であることに注意する。
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- 第9章 通貨先物・オプション
考えてみよう
地域化によって、多数の欧州各国通貨に代わる新通貨、ユーロが世界の金融システムに、 そして先物市場において誕生した。ユーロが登場する以前には、ドイツマルク先物がシカ ゴ・マーカンタイル取引所(CME)の主要な上場商品であった。他の国が欧州連合(EU) のユーロに参加すると考えられるか。独自通貨を持つ他の交易圏が作られると予測するか。 もしそうならば、どんな国が参加するだろうか。
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- 謝 辞
後 藤 敬 三
本書の出版に当たり、紙幅を頂戴しましたので、一言御礼を申し述べさせて頂きます。 ご高承のように、この翻訳は、金融先物取引業協会が投資教育の最初の事業として取り組 んだもので、一般社団法人への移行期間中の平成 26 年度から開始されました。 その後、28 年 3 月理事会決定された「投資教育事業計画」 (5 か年計画)では、本件事業 は、海外教材翻訳事業として位置付けられ、公益財団法人資本市場振興財団(小村武理事 長)からのご助成を頂くこととなりました。財務状況が厳しい中での新規事業への取組みに 対し、大変貴重なご支援を頂き、深く感謝申し上げます。 多言を要さないところですが、金融先物取引についての投資教育は、取引の専門性等の特 徴を踏まえ、投資者の皆様、社会の皆様への確実な知識・情報の提供を目的とし、併せて、 そのために不可欠な、お客様に身近な存在である会員従事者各位の資質向上を図るものです。 今回完成された翻訳事業は、対象として、米国の外務員試験実施機関である IFM(The Institute for Financial Markets)刊行の先物・オプションについての教科書(”Futures and Options”)を選定し、後継の外国為替オプション取引関係(”Foreign Exchange Options”) の翻訳と並んで、協会所管商品の基本的レファレンス資料充実に資することを期待していま す。 出版元の IFM(パトリシア・フォシェ会長)は、後掲の通り、米国コロンビア特別区ワシ ントンに本拠を置く、先物取引に関する研究教育団体で、先物事業者の世界的団体である FIA(Futures Industries Association)傘下にありますが、中立的立場からの教育・情報を事 業従事者、投資者、金融市場やデリバティブ関係の政策立案者に提供する組織として、その 評議員会には、FIA 及び米国自主規制団体である NFA(National Futures Association)等各 方面のリーダーシップが名を連ね、合衆国内国歳入法典第 50 1条C(3)に規定する非課 税組織(公益研究団体)とされています。この翻訳事業に当たっての許諾に当たっては、全 く未経験な協会に対し、フォシェ会長自身が、自ら采配をとって頂き、内容としても大変好 意的なご対応を頂き、また、協会に対して感謝状を頂戴したところです。 同機関とは改訂版の翻訳等、引続き連携が進展することが期待されています。以下に、 IFM リーダーシップの各位をご紹介し、謹んで感謝の意を表します。 評 議 員 会 議 長 Michael C. Dawley(Managing Director, Global Co-Head of Futures and Derivatives Clearing Services, Goldman, Sachs & Co.) 、 同 副 議 長 Gary DeWaal(Special Counsel, Katten Muchin Rosenman LLP) 、事務局長・出納役 Daniel A. Driscoll(NFA 執行 副会長兼 CCO) 、評議員 Peter F. Borish (Chief Strategist, Quad Capital) 、John M. Damgard (前 FIA 会長(1982-2012) ) 、Arthur W. Hahn(Partner, Katten Muchin Rosenman LLP) 、 160
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- Walter L. Lukken (FIA 会長兼 CEO) 、Patricia(Trish) Foshée 実際の翻訳事業に当たっては、協会活動の全般にわたって長年のご指導を頂いている神作 裕之先生、弥永真生先生、勝尾裕子先生、木村真生子先生、吉田知生先生、高橋経一監事が 翻訳プロジェクトチームにご参加頂き、各般のご指導を賜りました、また、実際の作業面で も、弥永先生には第3章の翻訳を、また、木村先生には全体の査読を頂く等のお力添えを頂 きました。厚く御礼を申し上げます。 協会運営については細見真専務理事のご説明の通りですが、金融商品取引法施行に際して とりまとめられた「金融商品取引業協会のあり方について(平成 19 年6月 22 日金融商品 取引業協会懇談会中間論点整理) 」においては、 「自主規制事業に特化している」とされたと ころ、平成 20 年以降、市場変動、自然災害、制度整備等の環境変化が続く中で、各方面の ご要望ご指導等に対応して、協会の業務や体制においても、投資教育をはじめ市場情報提供 等の新分野への取組み、統括役制度の導入等が実施されて参りました。このような大きな変 化の中で進められた翻訳事業に対して、常に温かいご理解とご支援を頂いた会員の皆様に衷 心より感謝申し上げますとともに、事業・職場両面の大きな環境変化の中で着実に業務に取 組んで頂いた事務局職員の努力をご披露し、謝辞といたします。
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- 原著者紹介
The Institute for Financial Markets (IFM)
IFM は、米国内国歳入法第 501 条 (c)(3) に基づく非営利団体としての資格を与えられて いる。IFM は、スタッフの法的および倫理的説明責任を維持し、IFM の業務の適切な監督 を行使する理事会によって管理されている。 IFM は会員を持たず、アドボカシー活動にも携わらない。むしろ、デリバティブ市場や金 融サービス業界の公共政策を策定し実施する業界の専門家、市場ユーザー、投資家、規制当 局に公平でバランスの取れた教育と情報を提供することに注力している。この任務を達成す るために、IFM は、教育、倫理および反マネーロンダリングの訓練やデータの 3 つの主要 分野で製品とサービスを提供することに重点を置いている。 非営利団体である IFM は、2 つの主要な情報源からの活動と新しいサービスの開発に資 金を提供している。1つは、製品とサービスの販売、もう1つは、さまざまな市場セクター に存在する金融機関、取引所、証券会社、参加者の寛大な支援である。IFM への助成は税控 除可能であり、以下の業務執行に役立っている。 ◦業界の専門家、市場ユーザー、ジャーナリスト、学者、金融サービス業界の公共政策を 策定し執行する人向けの製品および市場ベースの教材の開発 ◦独立した研究と学術研究の資金提供 ◦企業、市場ユーザーおよび規制当局が事業遂行を行い、法令遵守と報告責任を果たすた めに使用するデータの収集と検証
The Institute for Financial Markets 2001 Pennsylvania Avenue NW | Suite 600 Washington DC 20006 Tel: 202.223.1528 Fax: 202.296.3184 info@theIFM.org ©2014・The Institute for Financial Markets・All Rights Reserved. Privacy & Security Policy(/PrivacyPolicy.php)
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- ページ: 163
- 監訳者紹介
神作裕之(かんさく ひろゆき)
東京大学法学部卒業。現在、東京大学大学院法学政治学研究科教授。また、金融審議会臨時 委員、法制審議会会社法制部会(企業統治等関係)委員、法制審議会信託法部会幹事、関 税・外国為替等審議会臨時委員等も務める。専門は商法・資本市場法。近著として、共著 『金融法講義(新版) 』 (岩波書店、2017 年) 、責任編集『資本市場研究会編・企業法制の将 来展望[2017 年度版] 』 (財経詳報社、2017 年) 、共編『ドイツ会社法・資本市場法研究』 (中央経済社、2016 年) 、 『会社裁判にかかる理論の到達点』 (商事法務、2014 年) 、 「金融 商品取引法の規定に違反した者による議決権行使の制限」前田重行先生古稀記念『企業法 ・ 金融法の新潮流』 (商事法務、2013 年) 、神田秀樹ほか編著『金融商品取引法コンメンター ル第4巻』 (商事法務、2011 年)第 166 条、167 条、158 条の 18 から 158 条の 21、等 がある。
弥永真生(やなが まさお)
明治大学・東京大学卒業。筑波大学ビジネスサイエンス系教授。専門分野は商法、金融関連 法、制度会計。主な著書に、 『リーガルマインド会社法』 『会計監査人の責任の限定』 (有斐 閣) 、 『会計基準と法』 『デリバティブと企業会計法』 『コンメンタール会社法施行規則・電子 公告規則』 (中央経済社) 、 『コンメンタール会社計算規則・商法施行規則』 『監査人の外観的 独立性』 (商事法務) 、Cyber Law in Japan: Kluwer, Developments in Islamic banking/ finance by Japanese players and regulation, Journal of International Banking Law and Regulation, Vol.31,No.4, pp.225-232, 2016. Virtual Currency―Regulation and Challenges in Japan , Journal of International Banking Law and Regulation, vol.32, no.7, pp.283-290, 2017. 等がある。
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- ページ: 164
- 勝尾裕子(かつお ゆうこ)
東京大学大学院経済学研究科博士課程単位修得。学習院大学経済学部専任講師、助教授、准 教授を経て、現在、同学経済学部教授。‘The IASB and ASBJ Conceptual Frameworks: Same Objective, Different Financial Performance Concepts’, with C. M., Accounting Horizons, Vol.29, No.1, pp. 199-216, 2015. ‘Goodwill Accounting Standards in the UK, the USA, France and Japan’, with C. G. and C. M., Journal of Accounting History, 2018.
木村真生子(きむら まきこ)
津田塾大学学芸学部英文学科卒業。外資系証券会社勤務を経て、筑波大学大学院ビジネス科 学研究科企業科学専攻修了。博士(法学) 。現在、筑波大学大学院ビジネス科学研究科教授。 専攻、商法・証券法。 「カナダのインサイダー取引規制(1)~(5・完) 」筑波ロー・ジャー ナ ル 12 号 95-111 頁(2012 年 ) 、13 号 1-25 頁(2013 年 ) 、17 号 25-36 頁(2014 年 ) 、 18 号 27 ~ 52 頁(2015 年) 、20 号 27-57 頁(2016 年) 、 「電子商取引と契約(第 7 章) 」 松井茂記=鈴木秀美=山口いつ子編『インターネット法』 (有斐閣、2015 年) 、 「AI と契約 (第 6 章) 」宍戸常寿=弥永真生編『AI・ロボットと法』 (有斐閣、2018 年刊行予定)等が ある。
吉田知生(よしだ ともお)
東京大学経済学部卒業。現在、学習院大学経済学部特別客員教授。研究分野は金融全般、IT 分野の技術進歩が経済・経営にもたらす変化。日本銀行広島支店長を経て金融研究所長を最 後に退職後、英オックスフォード大学大学院留学(開発経済学修士取得) 、公益財団法人金 融情報システムセンター常務理事を経て現在に至る。
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- Futures and Options
2018 年 3 月 著 者 The Institute for Financial Markets 訳 者 一般社団法人金融先物取引業協会 学術連携翻訳プロジェクトチーム 監訳者 神作裕之・弥永真生・勝尾裕子・木村真生子・吉田知生 発行者 一般社団法人金融先物取引業協会 〒 101-0052 東京都千代田区神田小川町 1 - 3 TEL 03(5280)0881(代) FAX 03(5280)0895 URL http://www.ffaj.or.jp/
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