一般社団法人金融先物取引業協会

区分管理方法の信託一本化

2007年夏以降、外国為替証拠金取引(以下、このページにおいて「FX取引」といいます。)を取り扱う業者の破たんが複数ありましたが、その中で業者による資金の流用やカバー取引や業者の自己売買の損失により顧客から預かった証拠金が消失する等、金融商品取引法(以下、このページにおいて「金商法」といいます。)に基づく区分管理※1が適切に行われていなかったことで、顧客に証拠金が返還できないという事例がみられました。さらに2008年夏から秋に起こった金融危機においてカバー取引先の破たんリスクも顕在化してきており、こうした実態を踏まえて、業者やカバー取引先の破たん時においても顧客から預かった証拠金が保全されるように、金融商品取引業等に関する内閣府令(以下、このページにおいて「金商業等府令」といいます。)が改正され、金融商品取引業者又は登録金融機関(以下「業者等」といいます。)がFX取引に係る証拠金の預託を受けた場合の区分管理方法が信託会社又は信託業務を営む金融機関(以下、このページにおいて「信託銀行等」といいます。)への金銭信託に一本化されました。

※1顧客の資産と業者等自身の財産を区別して管理することをいいます。

1. 信託一本化の対象となる取引の範囲

金商業等府令第143条第1項第1号で、FX取引を含めた通貨関連デリバティブ取引等(以下、このページにおいてはFX取引について説明します。)における区分管理方法を金銭信託に一本化することを規定しており、取引所FX取引、店頭FX取引※2ともに対象となり、またFX取引の媒介(IB)でも顧客から証拠金を預かる場合等は対象となります。

※2外国貿易その他の外国為替取引に関する業務を行う法人が、その保有する資産及び負債に係る為替変動による損失の可能性を減殺するために行うものであって、当該損失の可能性を減殺するために行われることが金融商品取引業者等において確認されるものを除きます。

2. 区分管理方法の信託一本化の概要

2009年の金商業等府令の改正により業者等(委託者)は、顧客(受益者)から預かったFX取引に係る証拠金について、実現損益、評価損益、スワップ損益※3を加減算し、未払い手数料(未約定取引にかかるものは除く。)がある場合はその額を減算して個別顧客区分管理金額※4及び顧客区分管理必要額※5を日々適切に算定し、それに見合う金額を期限内(計算日の2営業日※6以内)に信託銀行等(受託者)へ金銭信託することとなりました。
当該金銭信託では、受益者代理人※7の選任が要件づけられており、その中の一人は弁護士等※8を充てなければならないこととなっています。業者等の破たん時等※9は、顧客資産を円滑に返還できるように、この弁護士等の受益者代理人のみが、顧客資産保全のための権限を行使することとなります。(但し当該受益者代理人が、他の受益者代理人が権限を行使することを認める場合は除きます。)なお、平常時の信託状況の管理等を行う受益者代理人については、業者等の役職員である内部管理責任者等が就くケースが一般的です。

※3スワップポイント(通貨間の金利差調整額)の損益※4顧客ごとに預託を受けた証拠金の額に、当該顧客の実現損益額、評価損益額、スワップ損益額を加減し、未払い手数料(未約定取引にかかるものは除く。)がある場合はその額を減算した額※5個別顧客区分管理金額の合計額※6ここでの営業日は、銀行営業日を指します。※7多数の受益者がいて事実上受益者による受託者の監督や受益者の意思決定が困難な場合等に選任される者※8弁護士、弁護士法人、公認会計士、監査法人、税理士、税理士法人又は金融庁長官の指定する者※9このページにおいて業者等の破たん時等とは金商業等府令第143条の2第1項第4号に掲げるものをいいます。

【信託スキーム例】

(委託者、受託者、受益者)

業者等を委託者、信託銀行等を受託者、顧客を受益者とする必要があります。

(受益者代理人)

  • 受益者代理人とは、多数の受益者がいて事実上受益者による受託者の監督や受益者の意思決定が困難な場合等に選任される者でありますが、FX取引においては通常、受益者となる顧客は多数であることが想定されるため、受益者代理人を選任することが要件付けられており、その内の少なくとも一人については、弁護士等を充てなければなりません。
  • 受益者代理人には、信託財産の元本の評価額と区分管理必要額をチェックする役割を担ってもらう必要があると考えられます。そのため、信託契約が複数ある場合は、それぞれ別の者が受益者代理人になると顧客区分管理必要額の把握が難しくなることから、同一の受益者代理人を選任することとなっています。
  • 業者等の破たん時等には、弁護士等の受益者代理人が唯一の受益者代理人となって、顧客資産保全のための権限を行使することとなっております。ただし、顧客資産を円滑に返還できる場合には、弁護士等を受益者代理人にする必要性が乏しいことから、弁護士等が特に認める場合には、例外とされております。

(信託財産の運用方法)

  • 顧客区分管理金銭信託における信託財産の運用方法は、元本割れリスクの少ない方法に限定されています。※10なお、信託銀行の金銭信託で元本保証がある場合は、運用制限は設けておりません。
  • 金銭信託の信託財産を有価証券で運用する場合の評価額は、その時価で算定されます。(ただし金銭信託に元本補てんがある場合には、運用の結果元本割れした場合でも、信託銀行等から元本補てんが行われることになるため、信託財産の元本の評価額は元本額とすることと決められています。)

※10元本割れが生じた場合、顧客区分管理必要額を満たしていなければ、業者等は顧客区分管理必要額を満たすように追加信託をしなければなりません。

(信託財産不足額の追加信託期限)

  • 信託財産の元本の評価額が顧客区分管理必要額に満たなくなった場合、満たなくなった日の翌日から数えて2 営業日以内に信託財産に不足額を追加信託しなければなりません。信託不足額は毎日算定する必要があります。

【例】

日本時間における特定の日(A)の午前7時からその翌日(以下「計算日」という。)の午前7時までの取引について、計算日の午前7時を基準時点として顧客区分管理必要額の計算を行う場合(A)が月曜日だとすると、計算日は火曜日となります。信託不足額の追加は、計算日の翌日(水曜日)から数えて2営業日以内、つまり木曜日までに行わなければなりません。ちなみにここでいう営業日とはいわゆる銀行営業日をさしております。

【信託期限イメージ図】

本ページで説明しておりますFX取引に係る証拠金の区分管理方法の信託一本化は、区分管理必要額計算時と追加信託期限に時間差があること等から、いかなる状況でも必ず顧客から預かった証拠金が全額返還されることを保証する制度ではありません。

(解約)

顧客区分管理信託に係る契約の全部又は一部の解約は、顧客証拠金の保全の観点から特段問題が生じないと考えられる「信託財産の元本の評価額が顧客区分管理必要額を超過する場合に、その超過額の範囲内で顧客区分管理信託に係る契約の全部又は一部の解約を行う場合」及び「他の顧客区分管理信託に係る信託財産として信託することを目的として顧客区分管理信託に係る契約の全部又は一部の解約を行う場合」(ともに当該解約に係る信託財産は委託者である業者等に帰属するものでなければなりません。)を除き行うことはできません。

(業者等の破たん時等)

  • 業者等の破たん時等には、弁護士等の受益者代理人が唯一の受益者代理人となって、顧客資産保全のための権限を行使することとなっております。ただし、顧客資産を円滑に返還できる場合には、弁護士等を受益者代理人にする必要性が乏しいことから、弁護士等が認める場合は、例外とされております。
  • 業者等の破たん時等に、弁護士等である受益者代理人が特に認める場合を除き、当該業者等が受託者(信託銀行等)に対して信託財産の運用を指図できません。業者等が破たんした場合には、信託財産の運用を停止して顧客資産の保全を図る必要があるためです。
  • 業者等の破たん時等には、顧客区分管理信託の財産が、顧客に対して公平かつ確実に返還される必要があることから、弁護士等である受益者代理人が必要と判断した場合には、顧客区分管理信託契約にかかる元本の受益権は、当該受益者代理人によりすべての顧客について一括して行使されるものである必要があります。業者等の破たん等により、顧客の受益権が当該受益者代理人により一括行使された場合は、その後の信託契約を存続させる理由が乏しいことから、当該受益権に係る信託契約を終了することができることとなっています。
  • 顧客が受益権を行使する場合にそれぞれの顧客に支払われる金額は、顧客間の公平性を鑑みて、顧客区分管理信託に係る信託財産(元本部分に限ります。)を換価して得られる額(顧客区分管理信託に元本補てんがある場合には、元本額)(以下、このページにおいて「元本換価額」といいます。)を顧客ごとの区分管理必要額で按分して計算することとなっています。なお、顧客ごとの区分管理必要額を超える場合は、顧客ごとの区分管理必要額を限度として顧客に返還すれば足ります。
  • 元本換価額が顧客区分管理必要額を超過する場合は、顧客の証拠金は全て保全されていることになり、その超過部分については、委託者である業者等に帰属します。

(信託一本化以降のLGスキーム)

顧客区分管理信託の受託者である信託銀行等からカバー取引相手方に対して保証状等(以下、このページにおいて「LG」といいます。)が差し入れられる場合、LGに基づく支払がなされた場合でも、常に、信託財産が顧客区分管理必要額を上回る必要があります。
業者等の破たん等により顧客区分管理信託が終了する場合に、支払が顧客よりカバー取引先業者等へ優先されるようになっていると顧客区分管理必要額を維持できなくなる可能性があるため、優先権は顧客にあるということを明確にするものでなければなりません。

3. 経過措置

改正された金商業等府令は、2009年8月1日に施行されましたが、その時点で業務を行っている業者等については、2010年1月31日を期限とする6ヵ月の経過措置が設けられており、2010年2月1日より既存業者等にも適用が開始されました。

【注意事項等】

  1. 本ページは、今回のFX取引に係る規制見直しの概要を一般の投資者の皆様にわかり易くお伝えすることを目的としておりますので、金商業等府令や監督指針の条文の文言と異なる場合がございます。また、当該条文の内容を完全に網羅しているものではありませんのでご了承くださいますようお願い致します。関係する金商業等府令、監督指針等の条文については金融庁HPにてご確認ください。

    金商業等府令等 http://www.fsa.go.jp/news/21/syouken/20090703-2.html
    監督指針 http://www.fsa.go.jp/news/21/syouken/20090703-4.html

  2. また、規制の趣旨を逸脱しない範囲という前提でありますが、各業者等の実際の運用が、本ページの記載内容と完全に一致していない場合も考えられます。実際にお取引をされるに当たっては、お取引をされる業者等の契約締結前交付書面(取引説明書)等を十分にご確認ください。
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