外国為替証拠金取引(以下、このページにおいて「FX取引」といいます。)においては、早くから当該取引を取り扱う金融商品取引業者又は登録金融機関(以下「業者等」といいます。)の多くで、顧客とあらかじめ約した水準でロスカット取引※1を行うロスカット・ルールが設けられておりました。しかし、ロスカット・ルールを設けていたにも係わらず、それが十分に機能していなかったという事例も散見されてきました。
顧客と約した通りにロスカット取引が実行されない場合、顧客が不測の損失を被る可能性があり、顧客保護の観点から問題であると考えられます。※2
また、業者等側のリスク管理の観点に係りますが、相場急変時にカバー取引が解消されたにも係らず、顧客との取引においてロスカット・ルールが実際に機能していなかったため、相場の反転により対顧客取引においてFX取扱業者等自体が多額の損失を被り、破綻したという事例もありました。
以上のような顧客保護及び業者等のリスク管理の観点から、2009年に金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「金商業等府令」という。)が改正され、それまで業者等の任意であったロスカット制度を義務付け、ロスカット・ルールの作成及び執行管理体制を整備し、顧客との間で約したロスカット取引の執行に関する取決めについて遵守することが求められることとなりました。
※1ポジションを決済した場合に顧客に生ずることとなる損失の額が、当該顧客との間であらかじめ約した計算方法により算出される額に達する場合に、顧客のポジションに対して業者等が強制的に行う決済取引を「ロスカット取引」といいます。※2ロスカット取引とは、必ず約束した損失の額で限定するというものではありません。通常、損失の額が、あらかじめ約束した水準(以下、「ロスカット水準」といいます。)に達した時点から決済取引の手続きが始まりますので、実際の損失はロスカット水準より大きくなる場合が考えられます。また、ルール通りにロスカット取引が行われた場合であっても、相場の状況によっては顧客から預かった証拠金以上の損失の額が生じることがあります。
ロスカット規制の対象は、個人※3を顧客とした、FX取引を含めた通貨関連デリバティブ取引※4(以下、このページにおいてはFX取引について説明します。)となります。
※3ここでいう個人は、金融商品取引法第2条に規定する定義に関する内閣府令第10条第1項第24号ロ(1)に掲げる要件に該当する業務執行組合員等(同項第23号)として通貨関連デリバティブ取引を行う場合における当該業務執行組合員等を除く、通常考えられる自然人としての個人(特定投資家を含みます。)を指します。※4通貨関連市場デリバティブ取引(金商業等府令第123条第3項)、通貨関連店頭デリバティブ取引(金商業等府令第123条第4項)又は通貨関連外国市場デリバティブ取引(金商業等府令第123条第5項)をいいます。
業者等は、業務の運営の状況が公益に反し、又は投資者の保護に支障を生ずるおそれがないように、業務を行わなければならないと金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)第40条第2号に定められておりますが、そのような「業務の運営の状況が公益に反し、又は投資者の保護に支障を生ずるおそれがある状況」(金商業等府令第123条)として
の2点が追加され、これにより、業者等は顧客にFX取引を提供するにあたっては、ロスカット・ルールを定め、それを執行するための体制を整備し、実際に定めたルール通りにロスカット取引を行うことが明確に義務付けられることとなりました。
金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針※5(以下「監督指針」といいます。)に、通貨関連店頭デリバティブ取引におけるロスカット取引についての顧客への説明責任に係る留意事項として、
の2点が追加され、業者等は顧客に対して契約締結前交付書面等において適切にロスカット取引の内容やそのリスク等について説明することを求めています。
※5金融庁が、金融商品取引業者等に対する監督事務の基本的考え方、監督上の評価項目、事務処理上の留意点について、総合的な監督体系を構築すべく策定されたもので、業者等の自主的な取組みを促すべく公表されています。
監督指針に、通貨関連店頭デリバティブ取引におけるロスカット取引に係るリスク管理体制の整備及び業務運営の遂行についての留意事項として、
の4点が追加されました。
※6この項目は、証拠金を上回る損失が発生する可能性を絶対的に排除するものではありません。※7ロスカット取引を実行する水準と実際にロスカット取引が成立する水準は必ず一致するものではありません。ここでは、顧客の取引が、各社で定めるロスカット取引を実行すべき条件に当てはまった場合に、直ちにロスカット取引を行う手続きをとることが求められています。
改正された金商業等府令は、2009年8月1日に施行されましたが、その時点で業務を行っている業者等については、2010年1月31日を期限とする6ヵ月の経過措置が設けられており、2010年2月1日より既存業者等にも適用が開始されました。
【注意事項等】
金商業等府令等 http://www.fsa.go.jp/news/21/syouken/20090703-2.html
監督指針 http://www.fsa.go.jp/news/21/syouken/20090703-4.html
ロ
当該個人が業務執行組合員等であって、次に掲げる全ての要件に該当すること(イに該当する場合を除く。)。
(1)
直近日における当該組合契約、匿名組合契約若しくは有限責任事業組合契約又は外国の法令に基づくこれらに類する契約に係る出資対象事業により業務執行組合員等として当該個人が保有する有価証券の残高が十億円以上であること。
次に掲げる要件のいずれかに該当するものとして金融庁長官に届出を行った法人(存続厚生年金基金を除き、ロに該当するものとして届出を行った法人にあっては、業務執行組合員等(組合契約を締結して組合の業務の執行を委任された組合員、匿名組合契約を締結した営業者若しくは有限責任事業組合契約を締結して組合の重要な業務の執行の決定に関与し、かつ、当該業務を自ら執行する組合員又は外国の法令に基づくこれらに類する者をいう。ロ及び第二十四号において同じ。)として取引を行う場合に限る。)
イ
当該届出を行おうとする日の直近の日(以下この条において「直近日」という。)における当該法人が保有する有価証券の残高が十億円以上であること。
ロ
当該法人が業務執行組合員等であって、次に掲げる全ての要件に該当すること(イに該当する場合を除く。)。
(1)
直近日における当該組合契約、匿名組合契約若しくは有限責任事業組合契約又は外国の法令に基づくこれらに類する契約に係る出資対象事業により業務執行組合員等として当該法人が保有する有価証券の残高が十億円以上であること。
(2)
当該法人が当該届出を行うことについて、当該組合契約に係る組合の他の全ての組合員、当該匿名組合契約に係る出資対象事業に基づく権利を有する他の全ての匿名組合契約に係る匿名組合員若しくは当該有限責任事業組合契約に係る組合の他の全ての組合員又は外国の法令に基づくこれらに類する契約に係る全ての組合員その他の者の同意を得ていること。
第1項第21号の2の「通貨関連市場デリバティブ取引」とは、通貨を対象とする市場デリバティブ取引であって、法第2条第21項第1号若しくは第2号に掲げる取引又は同項第3号に掲げる取引(同号に規定する権利を行使することにより成立する取引が同号イに掲げる取引又は同号ロに掲げる取引(同項第1号又は第2号に掲げる取引に係るものに限る。)であるものに限る。)をいう。
第1項第21号の2の「通貨関連店頭デリバティブ取引」とは、通貨を対象とする店頭デリバティブ取引であって、法第2条第22項第1号若しくは第2号に掲げる取引又は同項第3号に掲げる取引(同号に規定する権利を行使することにより成立する取引が同項第1号、第2号又は第3号イに掲げる取引であるものに限る。)をいう。
第1項第21号の2の「通貨関連外国市場デリバティブ取引」とは、外国市場デリバティブ取引であって、第3項に規定する通貨関連市場デリバティブ取引と類似の取引をいう。